水花火

【8分間ください。あなたの心をあたためます】という本に、ママの役に立ちたくてを書いてお…

水花火

【8分間ください。あなたの心をあたためます】という本に、ママの役に立ちたくてを書いております。 著者名はおまんです。

最近の記事

恋がおわるとき

歳下の剛と付き合い出して三年がたっていた。 今月で三十歳になるゆりえの心の中に、妙な焦りが出始めていた。それというのも、後輩の結婚式に、上役として招待されてからだった。 「先輩、忙しいのに来てくださって、本当にありがとうございます!」 純白のウエディング姿の後輩は、若々しく歓喜に満、まるで妖精のような輝きだった。 「おめでとう」 ゆりえは、心のどこかに妬みのような渦が起き、そんな自分が嫌だった。  披露宴は若者の熱気に包まれながら、滞り無く終わり、花嫁のブーケトス

    • 別れたら赤の他人

      真夏の太陽が、スエ子の心を突き刺す。 年甲斐も無く、四十三回目の自分の誕生日を、ハート型に塗りつぶしていた事が虚しい。 今年も十歳下の凌と、過ごすとばかり思っていたのだ。  凌と出逢ったのは七年前。父の急死の際に、葬儀屋でアルバイトしていた凌が、お世話係りをしてくれたのが始まりだ。スエ子を男手一つで育ててくれた父の突然の死は、言葉では言い表せない深い悲しみだった。そんなスエ子に優しい言葉をかけ続けてくれた凌の存在は、とても大きかった。  葬儀が終わって何ヶ月か過ぎた頃、医者で

      • 不倫したらわかること

        不倫って、大人の遊びかな。 たった一度きりの人生、出逢った形がなんであれ、恋は恋。肉体関係は快楽だもの。後悔なんて野暮な言葉など思い浮かぶはずはない。昔は一夫多妻性なんて時もあったじゃない。 清美はここまで書き込むと、毎日更新していたブログに、暫くお休みしますと添えて公開した。  今はブログを書き続ける気にはなれない問題が、清美を襲っていたのだ。  携帯のメール着信音が鳴った。 「あっ、きた」 清美は慌ててメールを開いた。 「転勤が正式にきまった。今夜そっちによる」 大きな溜

        • 恋しくて

          ホテルの窓から見える雨粒を見つめながら、咲江は誠の絶頂に合わせ果てたふりをした。 三週間ぶりの誠の体に安堵と空虚が絡み合う。 「俺、今日四時にアポだから」 咲江は裸のまま、ベッドに備わっている時計の時刻を見た。 「四時って、もう時間じゃん、何で先に言わないのよ」 「言えばお前は不機嫌になるだろ、これでも時間つくってやったほうなんだぜ」 咲江は起き上がりベッドに腰掛け誠を睨んだ。 「何だよその顔、だから言わなかったんだって」 誠は面倒臭そうな顔をしながらタバコに

        恋がおわるとき

          主治医から教わった癌の考え方

          #創作大賞2023 #エッセイ部門 植えられたばかりの田んぼの苗を、太陽が力強く温めてくれる初夏。 鳥が囀ずり、花が咲き、生命の芽吹きが地上を楽園にしていく。 一年の中で最も「希望」という言葉が似合う季節に、私は地獄へ落ちていきました。 それは、入浴中に起きた出来事です。 一日の疲れをとる湯の中で、私は肩こりをほぐしつつ、たまたま右の乳房へ手が触れました。 「ん、なんだ?」 違和感を感じもう一度触れました。 「なんだろう、これ」 不安が全身をよぎり、恐ろしくてたまりません

          主治医から教わった癌の考え方

          逢いたかった

          夢を見ることの出来ない盲目の僕に、誰かが話しかけてきた。 「命と引き換えなら、お前の望みを叶えることができる。チャンスは一度しかやってこない。水辺に出くわした時に、強く願うがいい」 五時半のアラームが鳴りだした。 「おはよう、アラームが鳴りっぱなしよ」 お母さんが心配して部屋へ入ってきた。 「あっ、ごめんなさい。夢っていうか、奇妙な話を聞いた気がしてさ」 「あらぁ、どんな話かしら」 「よく覚えてないや」 僕は、なぜか分からないが咄嗟に嘘をついた。お母さんは、それ以上話に踏み込

          逢いたかった

          恋愛死

          初めて好きだと告白されたこの場所で、みな子の髪が、風に揺れる。 「ずっと一緒にいような」 純也の優しい面影と囁きがループする。 何度も奪われた唇に触れながら、涙が落ちてきた。 「別れよう」 二人で過ごした五年もの月日が、砂のように消えていく。 「このままで終わらせたくない…」 込み上げてくる熱い感情をなだめるように、目の前に現れた蝶。 「モンシロチョウ…」 みな子はモンシロチョウの後を静かに追った。 屋上の切れ端まできて立ち止まる。 モンシロチョウは、空へ向かいだし、みな子も

          くじけた

          少し悲しみ すべてを忘れる 良かったときもあるけど くじけた瞬間は声もでない 人間関係で成り立つ社会にいて 何もかも揃っていたとして ロボット以外は、大なり小なり心が傷つく 痛いけど、まずは止血 呆然となり空をみつめたら どんより雲が笑っている こんなもんなんだよ仕方がない 目を閉じ忘れようじゃないか 繰り返さないように

          くじけた

          純白の空

          ホームレスどおりに向かう時は心が裸だ。 晴明は、ビニールの家の前で足を止めた。 「おじさんいる」 「あぁ、」 「やっぱりいいや…」 晴明が背中を向けた時、おじさんが外へ出てきた。 「どうした坊や、今日も天気がいいなあ。ほれシュウ、おやつだ」 おじさんは犬もいないのに、シュウの為にドックフードを用意してくれている。 ガリガリとシュウの噛む音にかぶせるように晴明は尋ねた。 「末期癌って、やっぱり早く死ぬのかな…」 おじさんは質問には答えず、シュウの頭を撫でていた。 晴明は胸の奥に

          純白の空

          太陽

          セブンスターのからの袋が捨てられていて、 時間が一気に過去へ戻った。 捨てられ方も、朝露と朝日をあび 時代が過ぎ去ったと思えた。 何も怖いものなどないという確信に満ちた毎日は、ハラハラな綱渡りをしていたのだと今ならわかる。 今、こうして綱から落ちずに命拾いした背後に、大いなる力を感じる。 間違っていた自分 勘違いしていた自分 苦しんだ自分 でも、なぜだか笑顔が残されていた。 太陽か 振り返り手を合わせた。

          かさっと

          かさっと鳴った あの日だ あの木漏れ日の中、高い木から飛び降りた 今よりもっと自由だった 今よりもっと楽しかった 忘れていたのは、何もわかっていないということ やり直そう 大人のふりをするのをやめよう ずっとかさっと慣らしていこう

          かさっと

          盗撮魔

          盗撮魔 未成年の僕は、両親に励まされながら駅口をでた。 「優、事故みたいなものだよ。お相手さんも咄嗟の事で勘違いしたと詫びてきたのだから、忘れなさい」 優は盗撮容疑をかけられたのだ。 微塵も我が子を疑っていない両親の思いとは裏腹に、優の盗撮行為は繰り返されていた。 そして、そういう人間になっていった種をまいたのは、紛れもなくこの二人なのだ。 あれは、三才過ぎた頃の事だった。家族が今の家ではなく狭い二間のアパートで暮らしていた時、夜中におしっこで目が覚めた僕は、隣に寝てい

          自分本意

          気温の高低差に身体がついていけてない いや、ついていけてないのは精神だ 会話で成り立つ社会に置かれ 花はいいなと思ってしまった 花は微笑みかける 少しゆっくりしたら 微笑み返す自分に言葉はない 言葉が必要のない相手だから 楽だなと思った 枯れていた花の蕾をとるのは辞めよう 汚くなって、まだ、くっついている

          自分本意

          雨上がりに

          心がはずんだ 見え隠れする青空を見つけて その奥に夕陽をつくろうと太陽がいた 足元にホックリ顔を出したふきのとう 人は大自然に味方されていることを 忘れている

          雨上がりに

          好きすぎて騙すしかなかった

          「どこからきたの?見ない顔だけど」 遥香は、最近図書館で隣に座る可愛い女の子に話しかけた。 「隣町」 「あぁ、図書館ないっけか?」 「あるけど、あんま好きな本ないし」 「ふぅん、私、佐山遥香、桜高校二年よろしく」 「涼子、定時制よろしく、みんな涼と呼んでるから」 「定時制なんだ、仕事も忙しいね」 「まぁね」 二人は他愛のない話をしながら過ごした。 「バイトいくから、またね」 遥香はかるく手を振った。 翌日も、またその翌日も、二人は図書館で逢った。 「なんか、よく逢うよね、不思

          好きすぎて騙すしかなかった

          春の雨

          冬が遠ざかっていく 雪山からとけた雪が川を求めて滑り落ちる 清らかなる水となり、空へ飛び立ち雨となる その雨は天の恵みとなり 命を延ばしてくれる この循環に邪道の入る隙間無し 言葉がない世界が創りあげる一滴に、私も入りたい。