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ワニたちの教室

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ワニたちの教室に大昔の卒業生がやってきた。OBの恐竜は、「オレの頃とずいぶん違っちゃってんなあ」と大声でにやけ、「ごめんねいきなりね、わりいわりい、いつもどおりしてていいから。ちょっと懐かしくなってきちゃったもんで様子だけ見守らせてもらいまーす」と宣言して教室の隅で短い腕を組む。ワニたちは戸惑う者と、OBのことをイタいやつだと内心バカにして楽しむ者と、ほんとうにちょっと苛立って、邪魔だから早く帰って欲しいと思う者。
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もしよかったら今年の、受けてみてもらえませんか。ワニが恐竜に提案すると、OBはもったいつけて、素早く小さく頷いて、うんうん、それは光栄でえすオレらんときと全然違うんだろうなこれはたのしみだあと横になる。ワニたちは恐竜をとりかこむ。
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あるワニはほどよく温めた、香りつきのオイルを恐竜に塗る。またあるワニは尻尾や腿や首の下のだるだるをやさしく揉んで、またあるワニは鍼を的確に刺していく。すっかりくつろいだ恐竜は次第に透けていき、深い眠りに落ちるとともにワニたちの目の前からいなくなる。
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ワニたちは、ひとつうえの先輩がいったとおりのことが起こったので、うれしくてほほほほ笑う。夏になると二年の教室に、卒業生を自称する恐竜があらわれるが、リラックスを施してやればじきに消えるという幽霊話だ。じつはその昔、教室ができるまえ、この場所は恐竜たちの戦場だったのだという。この場所で、じゅうぶんなリラックスを得ずに死んだ恐竜の霊が、いまも最良のリラックスを求め、成仏できずにさまよっているのだ。毎年夏の、この学校に伝わるおそろしい行事。
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