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#12 おばあちゃんだけど、時々転生代行救世主やってます

 柱のあった建物内で出会ったレジスタンスの女性、お名前はユキノさん。名前かと思ったら苗字なのだとか。
 お互いに自己紹介をしあった後、サキシマさんが居らっしゃるというレジスタンス本部へと案内して貰える事となった。
 どうやらミクベ神の名前を出した事で、私達を信頼してくれたみたい。なので、道すがらレジスタンスの事や、この世界の事について教えてもらう事にした。
 ユキノさんが言うには、ミクベ神が言っていた通り、この世界の神様は不在状態なのだとか。原因はこの世界で一番の権力を持つクロザキ総統という方。写真を見せて頂いたのだけど、自信に満ち溢れた、いかにも「権力者」という感じの50代後半の男性。
 神様を殺したと聞いていたから、もっと戦士のようなイメージだったのだけど、どちらかと言えば使命を与える王様側のよう。
「クロザキにはね、凄腕の用心棒が付いているの」
 私の思考を読んだみたいに、ユキノさんが憎々しげに爪を噛みつつ言った。
 「元格闘技の選手で黒猿とかいうリングネームで界隈に名前を知られてたみたいなんだけど、その腕前をクロザキに認められて、彼の右腕となったらしいわ」
 まぁ、興味無かったから詳しくは知らないんだけど、と付け加えるユキノさん。
「じゃあ、お姉さん達がやっているレジスタンスはどんな活動をしているの?」
 そう問いかけると、ユキノさんは「待ってました」とばかりに目を輝かせ得意げに語り始めた。
「私達レジスタンス…名前は神の柱って言うんだけどね、クロザキ率いる対神勢力である革新派に対抗する保守派閥を元に形成されてるの。この世界は神の力によって支えられ、神は私達を見守り育まれてらっしゃる。私たちは神と共にあり、神の忠実の下僕である、という思想の下で動いているわ。ちなみに革新派は、神は人類を束縛し監視しているから神の存在を否定して自分達で世界を治めようって人達ね」
 なるほど…地上界のミクベ神は人間達の世界に溶け込むように暮らしてたけれど、ここのミクベ神は神として世界を治めているらしい。それに反発した革新派が事を起こしたってことなのね。
「ちなみに、今この世界の神様はどういう状況なの?革新派にその……捕らわれてるみたいな感じかしら?」
「分からないわ」
 ユキノさんが表情を曇らせた。
「クロザキ達はメディアを通じて「神から政権を譲り受けた」と国民に伝えていたけど、その日以来神が姿を見せて下さらないの」
 私達はミクベ神本人から殺されたと聞いているけれど、今それを言うべきではないでしょう。
「だから、今私達神の柱メンバーはクロザキ達の手から神を奪還し、再び神が力を取り戻すよう頑張ってるってわけ」
「そうなのね」
 頷き、私はそのまま視線を下へと移す。そこには駆け足でついてくるシロちゃんとクロ君の姿があった。
 この世界の言葉は私しか分からないから、話し声は聞こえていても、2人には理解出来ていないはず。だから、どこか落ち着ける場所で2人にまた人の姿になってもらって、説明しつつ今後の相談が出来たらいいんだけども…
「あ、そういえば」
「ん?なに?」
「えっと…その、神様が姿を見せなくなってから、世界自体に異変とか起こってない?」
「異変?」
 ふむ?と考える仕草をし、そしてユキノさんはそのまま首を傾げた。
「神が居なくなった事で国民の不安が広がって不景気にはなってるけど…」
 つまり、柱と共に世界が崩壊し始めてる兆候はまだ見られないって事かしら?
 ただ、神を殺したとされるクロザキさんはどうなんだろう?もしかしたらミクベ神から直接世界が崩壊する事を聞いたとしたら…うーん、でもさっきユキノさんはメディアで政権を云々言ってたっていうし、話しぶりから焦ってた様子は無さそう。少なくともその時までは…
「着いたわよ」
 ユキノさんの声にハッとして顔を上げると、そこには3階建ての小さめな雑居ビルがあった。看板を見れば、1階はコンビニのようなお店が入っていて、2、3階はサキシマミツル事務所の文字があった。きっとそこが目的地ね。
 ユキノさんは3階まで上がってすぐにあった扉をノックした。
「ユキノです。ただいま戻りました」
 そう声を掛け扉を開ける。そして中を覗き込み
「サキシマさん、頼まれてた書類持ってきました。あとサキシマさんに会いたいという方をお連れしました」
 そう言って、私達を中へと通す。
 お邪魔します、と一声掛けて室内を見回すと、入口から入ってすぐ横には2人がけの椅子が置いてあった。しかしその奥はパーテーションで区切られていて見通せない。
「じゃあ、ちょっとここで待っててね」
 そう言い残してユキノさんは奥へと入っていってしまった。そして入れ替わりに黒髪を綺麗に後ろに撫で付けた、40代後半くらいの人当たりの良さそうな男性が顔を出した。きっとこの方がサキシマさんね。
「こんにちは、ずいぶんと可愛らしいお客様だね」
 ユキノさんから多少は話を聞いたのか、少し驚いた表情を浮かべつつも私達を受け入れてくれた様子。
「では応接室は2階なんで、ちょっとお手間だけど付いてきてもらえるかな?」
 サキシマさんが扉を開けてくれる。私は足下のシロちゃんとクロ君に目配せをして、扉を出て再び階段室へと出た。

 

#13へつづく


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