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#16 おばあちゃんだけど、時々転生代行救世主やってます

 電灯に照らされた廊下を進みながら、相も変わらず私達は建物奥へと進んでいく。
 要人達がよく通る場所なのか、装飾が少し豪華で監視カメラも見当たらない、けれど…
「それにしても、人の気配が全然しないわね」
 外は警備員達がたくさん居たけれど、中に入ればロビーの床掃除をしていた清掃員くらいしか見ていない。
 シロちゃんが陽動してくれているとはいえ、さすがに人が居なさすぎなのではないかしら?ここって、この世界の中枢でもあるんでしょう?もしかして、今日は公休日で議員さんみたいな人達はお休みなのかしら?
 でもさっき男女二人組が歩いていたし、この状況…もしや…
「クロ君、これは私の思い過ごしかもしれないんだけど、今この状況はもしや罠なのかもしれないわ」
 クロ君が私を不思議そうに見上げた。
「私ね、生前にこんな流れになる時代劇をよく見たのよ」
 クロ君を見下ろし、私はグッとコブシを固める。
「城へ偵察のために忍び込む間者。しかし城内には人っ子一人居らず、不審に思った間者が何かの気配に気付き振り返ると、そこには城主を筆頭に自分を取り囲むように並び、刃を向ける侍達が…っ」
 バッと後方を振り返り指をさす。
「みゃ?」
 勿論そこには誰もおらず、クロ君の小さな鳴き声が人気の無い廊下に消えた。
「ええ、まぁ…そうよね。そんなTVみたいな事がそうそうある訳じゃなし、きっと今日はお休みなんだわ。さっきすれ違った2人組は休日出勤なのね。お疲れ様だわ」
 1人盛り上がってしまった恥ずかしさを隠すため、早口でまくし立ててから私は再び前方へと進もうとした。
 しかしクロ君は後方を見たままピクリとも動かない。正しく言えば何かを注意深く見ている…いえ、聞いてる?
「あっ」
 突然クロ君が踵を返して前方、つまりはさっきまで向かっていた方向へと走り始めた。
 私も慌てて走り出したけれど、元気有り余っていた頃の私の体とはいえ、猫の全速力に子供の足がついていける訳もなく、その黒くて小さな体を見失わないよう後を追いかけるのがやっとだった。
「ちょ、ちょっと待って…」
 私の制止の声は届いていないのか、クロ君は脇目も振らず猛然と走り続けている。そしてヒラリと身を翻して辻路を右へと曲がった。
 まずい、見失っちゃう。
 私は最後の力を振り絞り、せめて角を曲がった先にあるはずのクロ君の姿を見失わないよう祈りつつ、角を曲がった。
 しかし、そこに黒猫の姿はない。
「うそ…」
 動揺と焦りで、とうの昔に止まったはずの鼓動が早まるのを感じた。
「あ」
 廊下を曲がってすぐにある、壁際に置かれた大人の腰の高さ程度の棚の奥から、ひょっこりと顔を覗かせたクロ君が見えた。
 ずっと先を進んでいると思ってたけど、まさかこんな近くで隠れてたとは。
「どうしたの?急に…」
 クロ君の元に駆け寄りしゃがみこむと、一緒に隠れろと言わんばかりに、私のスカートの裾をグイグイと咥えて引っ張ってきた。
 何だかよく分からないけれど、とりあえずクロ君を抱き上げ、棚の陰に身を潜めた。そして息を潜め様子を伺っていると、“タタッ“という小さな足音が聞こえた。
 隠れていたので姿は確認出来ないけれど、音の軽さから私と同じくらいの子供か、なんなら犬や猫のような小動物?
 その足音は、しばらくは辻路付近をウロウロと歩いていたようだけど、やがて遠ざかっていった。

#17へつづく


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