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#0 太宰治全部読む |酩酊せよ、刮目せよ

私は2022年の目標として、「太宰治作品を全部読む」というものを掲げていた。

かねてから、ひとりの作家の作品を通読し、その世界に心ゆくまで没入してみたいという、漠然とした憧れがあった。

また太宰治という、文学史上稀に見る特異な人物の作品を全て読むと人はどうなるのか、身をもって体感したいという思いもあった。


太宰治といえば、日本人なら誰もが知っている、そして世界に目を向けても多くの人が知っているであろう、有名な文豪だ。

『走れメロス』や『人間失格』といった代表作は、学校教育の教材としても採用され、その独特な文章は日本人の頭に刷り込まれている。

しかし、太宰の全ての作品を読んだことがある人は、どれだけいるだろう。

もしかしたら、彼の全作品を読むと、『走れメロス』や『人間失格』から浮かび上がってくる太宰の人物像とは、全く異なる人物像が見えてくるかもしれない。


何を以て「全作品」とするか、という問題はある。ここでは、「新潮文庫から出ている太宰治作品を全て読むこと」と勝手に定義する。

理由は、新潮文庫版の装丁が好きだからだ。イラストレータの唐仁原教久さんが手がけた装画は、どれも作品の雰囲気にマッチしていて良い。これを機に集めてみたかった。

厳密に「全作品」を読むことにはならないかもしれないが、今回はこれでいくことにする。


作品は、「整理番号」の順番に読んでいくことにする。整理番号とは、文庫本の背表紙に書かれている、「平仮名-数字-数字」の番号のことだ。

最初の「平仮名-数字」が作者の識別番号、今回の場合「た-2」は太宰治を指している。そして2つ目の「数字」が、作品を一意で特定する整理番号になっている。

この番号を1から順番に読んでいく。因みに太宰作品は「18」まである。




新潮文庫|文豪ナビ 太宰治


太宰作品の整理番号には、「0」が存在する。それが、『文豪ナビ 太宰治』だ。

新潮文庫の「文豪ナビ」は、文豪の有名作品や逸話などを分かりやすく紹介しているシリーズだ。太宰の他にも、三島や川端、谷崎など、名だたる文豪の「文豪ナビ」が存在する。


時代を超えて若者たちから支持される太宰治。その「恥の多い生涯」は四度の自殺未遂に象徴される、道化と愚直を演じ分ける日々だった。だがファンは、そこに自分を見出しホッとする。『走れメロス』で勇気、『人間失格』で絶望を書いた太宰の純な心に共鳴するのだ。

あらすじ


『文豪ナビ 太宰治』に、こんな印象的な文章があった。

わかっちゃいるけど止められない——その昔、酒呑みの心境をみごとに言い当てた歌があった。太宰にはどこか酒と似たところがある。不思議な魔力で若者の心を酔わせ、虜にしてしまう。作品を読むごとに、太宰が人生の同志のように思えてくるのだ。時には悪酔いすることだってあるが、まずはググーッと呑み干してみようじゃないか。

p20より引用

これから太宰作品を読んでいくうえで、この「酩酊感」は、ひとつの鍵になるのではないか。

私はこれまで何作品か太宰を読んできたが、確かに作品に「不思議な魔力」があるように感じたことがある。何と言うか、自身の境遇に「近い」感じがする。「太宰が人生の同志のように思えてくる」というのは言いえて妙だ。


『文豪ナビ 太宰治』には重松清さんのエッセイが載っており、そこにも太宰の作品の「親近感」に関する言及がある。

これって、おまえのことじゃない—―? うなずいてしまうはずだ。胸がドキンと高鳴るかもしれない。なぜって、ここには、「きみ」が「ふり」で隠してきた暗い部分や弱い部分がたっぷり描かれているから。「ふり」をつづけることのしんどさや、おかしさや、哀しさが、まるで「きみ」の肩を抱いて話しかけるような距離で描かれているから。

p75より引用

太宰は身を切るようにして、太宰自身のこと、人間のことを書いた。そこには、人々が目を背け、誤魔化し、取り繕う人間の弱みが、はっきりと描かれている。

ゆえに、読者は惹きつけられる。目を離さずにはいられない。そこには共感、反発、安心、嫌悪……様々な感情が渦巻いているだろう。


太宰を読み続けることで、気持ちが塞がり、日常生活に支障が出るのではないか……そんな不安がないこともない。しかし、その先にどんな世界が広がっているのか、確かめてみたい思いの方が強い。

「太宰治全部読む」、これより始まる。



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