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書籍紹介『誤り分析で始める!学びにくい子への「国語・算数」つまずきサポート』

『誤り分析で始める!学びにくい子への「国語・算数」つまずきサポート(村井 敏宏/山田 充)』という本の紹介です。

間違いは発見の宝箱

以前から研修会で「子どもたちの間違いは宝物です」「間違いを見ると、その子がなににつまずいて、なぜ間違えたのかがわかります」とよく聞く機会がありました。

僕自身も子どもたちに関わる中で「この子の中ではどういう理解をしていて、なににつまずいているのか」「この子がわかるためにはどんなアプローチが必要なのか」を考えるようにしています。

この本を読んでそのことはやっぱり間違いでなかったんだと自信を持てました。

そしてこれまでよりもいろいろな視点で分析ができるようになりました。

誤り分析とは

学習につまずきのある子たちに適切な支援をしていくためにはアセスメントが必要です。誤り分析はその方法の1つです。

 誤り分析は,子どもが日常的に行っている日記や作文・計算,テスト等からその子の誤りを抽出して、その傾向から支援の方向性を見つけていくものです。同じパターンの誤りを繰り返している場合には、それがその子の弱い特性につながっていきます。他のアセスメント情報から、同じ弱い特性が確かめられ,反対に,強い特性の情報も得られると,弱い特性を強い特性でカバーしながら学習を進めていくという支援の方針を見つけることができます。
 誤り分析は,分析の材料が日常的な課題やテストであるため,担任の先生やコーディネーターの先生が手軽に行うことができます。しかし,その視点をもたないでいると,作文やテスト赤ペンでチェックして返してしまい,子ども自身が消して修正したために,大切な情報が消えてしまう場合が往々にしてあると思います。子どもに支援を考えていくときには,この誤り分析の視点をもって,子どもの情報を支援につなげていくことが大切になります。

本を読みながら「そうですよね」となんど思ったことか。

つまずいている子に「がんばれ」「ちゃんとしろ」と言って反復練習をさせても効果は今ひとつ…どころか苦手意識が強まり、嫌になってしまいかねません。

読み書きのつまずきの背景を理解する

読み書きのつまずきは就学前にはじまり、失敗経験が積み重なると小学校の高学年や中学生で、「読むこと」「書くこと」自体に抵抗を感じるようになってしまいます。できるだけ早い段階でつまずきに気づき、その子に応じた支援をしていくことが大切になります。

読み書きのつまずきは、「読むこと」「書くこと」それぞれに背景的要因があると考えます。その背景的要因を考えていく時に、読み書きのつまずきを大きく2つのタイプに分けて考えると、わかりやすくなります。
P21   図6 読み書きのつまずきのタイプより
①読み書き障害(ディスレクシア)タイプ
 ベースに読みの苦手さがあり,文字を思い出すことや,拗音等の特殊音節の書字も苦手になることから,こう呼ばれます。背景に「音韻認識」の弱さをもつことから,「音韻読み書き障害」と呼ばれることもあります。
「音韻認識」とは,ことばを音としてとらえる力を言います。日本語の単位である「モーラ」をうまくとらえられないと、「モーラ」に対応してつくられているひらがなを覚えていくことが困難になります。

②書字障害(ディスグラフィア)タイプ
 文字の形を正確に書いたり,バランスよく書いたりすることが苦手なタイプです。背景には,空間認知の弱さや目と手の協応困難,視機能の弱さが考えられます。また,ADHDの多動性・衝動性の問題が絡む場合があるため,他の情報とも関連させて考えていく必要があります。

本では「音韻認識」や「空間認知」、「特殊音節」「漢字」の誤りパターンやそれぞれの具体的な指導方法なども紹介されています。

「音韻認識」については、別の記事で紹介しています。

「空間認知」についてはビジョントレーニングについての記事が、「特殊音節」についてはMIMについての記事がそれぞれ参考になりそうです。

「漢字」については、表意文字で形から意味を推測でき、覚えやすい側面がありますが、つまずきが起こりやすい側面もあります。

・文字の種類が多い(小学校で習うのは1006文字もあります)
・画数が多く、形が複雑
・複数の読み方がある(「下」には、「地山、年した、川しもげる、くだる」など)
・熟語になると、読み方が変わるものがある(「そら→青ぞら」など)

かな文字の「音」と「形」に加えて、「意味」という要素があり、この3要素が漢字の誤りと関連しているのです。

(画像は記者作成より)

①同じ音(読み)の漢字の誤り

(「黒ばん→国ばん」「器具→気具」「会う→合う」「多い→大い」など)

漢字の「意味」がしっかり覚えられていないので、部首の意味に注目させたり、絵と漢字を対応させる。不注意が原因なら、問題文の送りがななどを確認させる。などの対応が考えられます。

(画像はAmazon.co.jpより)

(画像はSQLabo「特別支援ドットコム」より)

こちらのサイトもおすすめです↓

②意味の似ている漢字の誤り

(店で「にく」を買う、秋から「ふゆ」にきせつがかわる、「先生→生先」「京都→東京・都京」など)

漢字の「音」がしっかり覚えられていないので、読みを唱えながら書く練習や、文章の中で漢字や熟語を読んでいく練習が必要です。また得意な意味から覚える力を活かした、「漢字の仲間集め」なども有効です。

となえて おぼえる 下村式

(画像は偕成社より)

③形の誤り

(「教える→考える」「道→遠」のような形が似ている漢字に書き間違える、点や線が多い・少ない、余分な線画が突き出ているような部分的な形の誤り、へんとつくりがギャグ、部首の位置関係がおかしいなど配置の誤りなど)

「空間認知の弱さ(+ワーキングメモリ)」「不注意」「不器用」「視機能の弱さ」などいくつかの要因が考えられるので、他の情報と合わせてその子に合った支援の方法を考えていくことが必要です。

漢字部首カード

(画像はHugKumより)

漢字たし算

(画像はおうち遊び.comより)

盲学校での漢字学習についての記事も参考になると思います。

本では、解答例や子どもの様子をもとに誤り分析→具体的な支援方法を考えるワークもついています。これはとってもおすすめです。

算数の誤り分析

算数の理解には、以下のような能力がかかわっているそうです。

① 数概念形成(基数性・序数性)
② 継次処理能力,同時処理能力
③ 視覚認知,聴覚認知
④ 言語の発達,偏り
⑤ ワーキングメモリ機能,記憶
⑥ プランニング
⑦ 注意,集中

誤りの具体例から誤り分析とその対応が詳細されています。いくつかを紹介します。

視空間認知の弱さや不器用さから筆算の書く位置がズレてしまう子には・・・

位がずれないように補助線を活用する(補助線のあるプリントで桁の位置をそろえて書く練習をする、必要に応じて自分で補助線を引く)。

(画像は学習プリント.comより)

(画像は記者作成より)

聴覚認知の弱さから、「3×7=12」のように「さんしち」と「さんし」を間違えてしまう子には・・・

九九を覚える、覚え直すときに「四の段」と「七の段」を混乱しないよう、四の段を「よんいちがよん」「よんにがはち」、七の段を「なないちがなな」「ななにじゅうよん」というよう練習する。


継次処理や意味理解の弱さをから、繰り上がり・繰り下がりの補助数字を忘れたり、かけ算の筆算でタスキにかける手順を忘れたりしてしまう子には・・・

繰り上がり・繰り下がりの補助数字を書く位置や方法を統一する。

(画像はベネッセ教育情報サイトより)

かけ算の筆算は、かける順番の矢印と数字を書く、計算手順カードで確認する。

(画像は教育zineより)

(画像はよつばCOLORSブログより)

注意・衝動性から+や−などの演算記号を見落としてしまう子には・・・

計算する際に演算記号に◯をつけたり、「たす」や「ひく」などど声に出して確認する。

(画像は記者作成より)

文章題で「みんなで」とあると、すべて足し算にしてしまうなどの子には・・・

問題文から全体のイメージをつかむ(図示する)トレーニングをする。

(画像は啓林館より)

言葉から推測する、数字がないときは常識で数字を埋める(三輪車の車輪の数や、1週間の日にち7日間など)ということを確認する。

(画像は記者作成より)

などなど

誤りの事例と具体的な支援の方法が紹介されています。算数でも、解答例や子どもの様子をもとに誤り分析→具体的な支援方法を考えるワークもついています。何度も言いますが、これはとってもおすすめです。

子どもたちへの伝え方

なお子どもたちを支援する際には、本文にも掲載されていた以下のことに注意しましょう。

このような対応を考えて指導していく時に,理解できる子どもたちには,「なぜ,あなたはまちがったか,まちがった理由は○○○ですよ」だから「こんな風にする必要があります」というように要因を示し,対応をきちんと説明する必要があります。そうすることで,子どもたちは納得して示された指導方法を受け入れることができます。

頭ごなしに間違いを指摘したり、やり方を否定するのではなく、子どもたちが納得して受け入れられるような伝え方が大切です。

まとめ

詳しくお伝えしたのでおわかりかと思いますが、具体的な誤り事例と支援方法がたくさん紹介されています。

誤り分析→具体的な支援方法を考えるワークは本当におすすめです。

この本を読んで、冒頭で紹介した「子どもたちの間違いは宝物です」「間違いを見ると、その子がなににつまずいて、なぜ間違えたのかがわかります」という言葉を再確認できました。

僕の語りでその魅力を十分にお伝えできたかは怪しいのですが…

もし興味を持たれたなら、ぜひ手に取ってみてください。

明治図書ONLINE「教育ZINE」では、山田充先生の『スッキリ解決☆学びにくい子への学習つまずきサポート』という記事が掲載されています。こちらもおすすめですよ。



表紙の画像はAmazon.co.jpより引用しました。