任侠映画と感情移入のセオリー 2020/04/11
週末がやってきた。早朝『ツィゴイネルワイゼン』の続きを見てすき焼きが食べたくなる。というか、日本酒が飲みたくなり、朝からすき焼きは作れないなと思っていたところ、蕎麦を食うシーンがあってこれだ、と閃いた。コンビニで蕎麦を買い、日本酒を少々。朝からごきげん。
配信によって映画の見方も随分変わってきてるんじゃないだろうか。2時間前後のまとまった時間を確保するのではなく、細切れに楽しむというやり方もやりやすくなっている。読書もそうなのだが、ちょいちょい一息つきながら細切れに楽しんでいると、だらだらとやるよりも集中力のピーク状態でコンテンツを楽しめる。そうすると散漫に見ていたらスルーしていたかもしれないディテールに気がつけたりする。これが結構楽しい。
あいも変わらず『龍彦親王航海記』を読み進めているが伝記というものは恐ろしいもので、当人としては忘れて欲しいような事柄が、記録されてしまっていたりする。最初の妻、矢川澄子との離婚で泣きじゃくる龍彦。一人ではどこにも行けない、飯も食えない、まるで子供⋯⋯。
最愛の人物に去られたことによる心の痛手ということだけではない。そうした内面にかかわる重大な問題はひとまず措いても、なにしろ毎日の実生活にまつわる諸事には、澁澤はまったくもって無能なのである。(中略)
家人がいない時に一人で仕事をしていて、喉が乾いても自分でお茶を入れるという知恵が回らない。腹が減ってきても冷蔵庫を開けて食べ物を物色するという知恵も回らないし、冷蔵庫のなかに食べるものがいっぱい入っていても取り出して食べることをしない。(無人島に流されたら、まず真っ先に死ぬタイプである。)
P.262 - P.263
本当に浮世離れしたというか、高等遊民として幻想の中で生きた人なのだろう。もともとなにがしかの才能のある人間というのはステータスをどこか一箇所に全振りしたような歪さがある存在だと思っているので然もありなん、という感想でしかないが、なかなかこういうタイプのいわゆるダメ人間がどんどん生きづらい世の中になってきたような気がする。
他にも某雑誌の澁澤龍彦特集で巻頭グラビアで全裸の男根ダンスを披露、とかわざわざ蒸し返して欲しくない話題だろうなぁ。とりあえず一体どうなっちゃってるのか気になるのでくだんの雑誌を取り寄せてみることとする。楽しみ。
運動不足が続いているのでフィットネスゲームでも買おうと思い立ったのだけど、『リングフィットアドベンチャー』は売り切れていて手に入らない。取り急ぎ今できるものならなんでもいいやと思い『Fit Boxing』を購入。早速娘とやってみた。20分ほどのプレイで軽く汗ばむ。子供の有り余る体力を消費させるには最高の手応え。自分も腕が筋肉痛になりそうな手応え。上半身を動かしまくるので肩こり腰痛に良い気がする。毎日続けよう。コロナが落ち着く頃には蝶のように舞い、蜂のように刺せる男になっているに違いない。
久しぶりに体を動かした心地よい疲労感のもと、マキノ雅弘『昭和残俠伝 死んで貰います』を観る。とにかく耐える。理不尽にも、挑発にも乗らず、殴られても耐える。悪くないのに詫びる。任侠映画はこのひたすら耐えるところが肝。
観客をどのように感情移入させるか、ということは言い換えるといかに主人公と同じ気持ちにさせるか。気持ちの方向性を揃えることが感情移入のポイントなのだけど、それを実現するのが主人公以外の嫌な奴の存在だったりする。こいつ、むかつく!ひどい!こんな奴なんとかしてやっておくれよ!!っていう存在がいると、あれ?いつの間にか感情移入している。
主人公もはらわた煮え繰り返っている、それがわかる、でも耐える。健さん!(高倉健)、なんで黙ってるんだい、懲らしめておくれよ!!という期待とボルテージが高まり続け、ついに敵が一線を越えてきたとき、(本作品では健さんの恩人が殺される)もう許せねぇとなりカタルシスを迎えるわけ。この貯めて、貯めて、貯めてからの解放!っていうお手本のような作り方をされているのがマキノ雅弘監督の任侠映画なのである、などと改めて興奮。
それと細かな話ではあるけれど殺陣も人が切られるシーンは切られるところを見せるのではなくて、障子に鮮血が飛び散るという表現で迫力を出す。見せずに見せる、映さずに映す。「表現」と「伝わること」の組み合わせの工夫がたくさんあるから映画は面白い。
感情移入の仕組みのくだりはゲームの作り方も同じで、『ついやってしまう体験のつくりかた』に詳しく載ってたな。
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