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お手軽発酵食品ザワークラウトを作る 〜ドイツへ思いを馳せながら〜

コロちゃん自粛でおこもり生活だったGW。
昨年は長く連休が取れたので、ドイツへ行っておりました。
その時に購入したのがソーセージの缶詰。検疫の関係により肉加工品を個人で国外へ持ち出すことはできないのですが、ワインを購入したお店で缶詰も購入(注文)し、後日日本の自宅にワインと共に届けてもらいました。

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ドイツ旅行から早1年。彼の地へ思いを馳せながら、ついに缶詰ソーセージを開封することにしました。が、せっかくならもう少しドイツ気分を高めたい。
それならば、とザワークラウトを作ることにしました。

1.ザワークラウトってなに?

ザワークラウトとは、ドイツ語で「酸っぱいキャベツ」を意味するドイツの伝統料理です。16世紀から18世紀にかけてフランス、オランダなどのヨーロッパ諸国にも広まりました。
ザワークラウトはキャベツを乳酸発酵させた発酵食品で、爽やかな酸味が特徴です。ドイツではソーセージや肉料理に添えたり、煮込み料理に加えたりして食されています。日本では「乳酸キャベツ」という名前で呼ばれることもあります。

昨年ドイツを旅行した時に、肉料理の付け合わせとして何度か口にしました。こってり重い肉料理の合間に酸味のあるザワークラウトを食べることで口直しになるし、保存が効く野菜として使い勝手が良いのだと思います。

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昨年の旅行で食べた料理です。手前のお肉の下にザワークラウトが添えられているのが分かります。いやしかし、奥のお肉でかすぎる…

2.ザワークラウトを作ってみた。

作るもなにも、キャベツを切り刻んで放置するだけなので、私流キャベツの千切り法も合わせて説明します。

《材料》
キャベツ 1/2玉(約400g)
塩    キャベツ重量の2%(8g)

あればキャラウェイシードやクミンシード、胡椒などのスパイスを加えると本格的です。今回はキャラウェイシードを小さじ1と1/2程度(約3.8g)加えましたが、香りが少し強く、スパイスの粒が口に残るのが気になったので小さじ1程度(約2.5g)でも良いかもしれません。

キャベツを保存、発酵させる容器は密閉できる瓶が一般的ですが、私はジッパー付きの保存袋を使いました。使い捨てにはなりますが、保存袋の方が扱いやすいです。
キャベツは塩もみしてしんなりさせるので、最初の大きさよりもかさが減ります。今回使用した保存袋ではキャベツ1/2玉でもSサイズで十分でした。
瓶の場合は煮沸消毒してから使用してください。

《作り方》
① キャベツを千切りにする。ボウルに入れて可食部の重量をはかり、計算して塩を用意する。

〜ザワークラウト用 効率的なキャベツの千切り〜
(1)1/2玉のキャベツを縦半分に切り、太い芯の部分を斜めに切って取り除く。

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(2)外側の大きい葉の部分と内側の葉の部分とを分ける。

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(3)外側の部分をひっくり返して、一番外になる葉が上向きに、キャベツの頂点が右側(左利きの場合は左側)になるように置き、キャベツの頂点から千切りにする。

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(4)内側の葉の部分も同様にしてひっくり返し、キャベツの頂点側から千切りにする。

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※これは太めの芯も丸ごと千切りにする方法です。ザワークラウトにするとすべてやわらかくなるので問題ありません。ロスになる部分が少ないのでおすすめです。

② キャベツの千切りに塩とスパイス類を加えてもみ込み、しんなりするまで10〜20分程度おく。

キャベツに塩を揉み込むことで、浸透圧によりキャベツから水分が出てきます。同時にキャベツがしんなりとやわらかくなり、かさが減ってきます。

③ キャベツがしんなりしたら保存袋や瓶に詰める。キャベツから出てきた水分も残さずすべて入れる。

④ 保存袋の場合は空気を抜くようにして袋の口を閉じる。瓶の場合はキャベツをぎゅっと押し込み、キャベツの表面をラップで覆い、あれば漬物用の重石などをのせてキャベツが空気に触れないようにする。瓶のふたは軽く閉じるか、時々開けるようにする。

発酵が進むとガスが発生します。保存袋を使用した場合も、様子を見がてら時々袋を開けてガスを抜くようにしてください。

⑤ ④を直射日光の当たらない常温に置く。暑い時期は3日前後、寒い時期でも1週間程度で小さな泡が出て、酸っぱい香りがしてくる。味見をして好みの酸味になったら冷蔵庫で保管する。

冷蔵庫に入れた後は1年程度保存できますが、様子を見ながら食べてくださいね。

3.ザワークラウトを食べてみた。

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色がすっかり変わって、褐色っぽくなっています。酸っぱい香りがしますが鼻につくような刺激臭ではなく、スパイスと相まって独特な香りになっています。酸味だけでなく旨味もあり、複雑な味を感じます。
このままだと塩味が若干強めです。他の野菜と和え物にしたり、煮込み料理やスープに加えて使うのが良いかもしれません。

酸っぱい香りと味が特徴のザワークラウト。お酢を加えたわけではないのに、なぜ酸味があるのでしょうか。ザワークラウトの原理を考えてみます。

4.ザワークラウトができるわけ①

キャベツに塩をもみ込むと、浸透圧がはたらいてキャベツの水分が出てきます。

浸透圧については金時豆の甘煮の回でも説明しましたね。濃度の異なる2種類の液体が薄い膜で仕切られているとき、濃度の薄い方の水分だけが膜を通過して濃度の濃い方へ移動して、2種類の液体の濃度が一定になるようにはたらく力のことを浸透圧といいます。
キャベツのまわりの塩分濃度が高くなることでキャベツの中から外へ浸透圧がはたらき、キャベツの細胞内の水分が細胞外へ出ていくのです。

野菜を含む植物の細胞は、動物細胞にはない細胞壁というものを持っています。名前の通り細胞壁は硬い組織なので、細胞一つひとつを包んでやわらかな細胞を保護し、植物の身体をがっちり支える役割を果たしています。人間の皮膚はぷにぷにしてやわらかいですが、植物の表面は指で押しても簡単にはへこまないくらい硬いですよね。

浸透圧がかかると細胞の中の水分が細胞表面の膜(細胞膜といいます)さらには細胞壁を通過して外へ出ていきます。細胞膜に包まれた部分(原形質といいます)はやわらかいので水分が出ていくことで収縮して小さくなりますが、周りの細胞壁は頑丈なので収縮しません。
細胞壁から原形質が離れてしまうこの現象を原形質分離と言います。

原形質分離がおきた細胞は、細胞としての機能を失います。
通常であれば細胞膜で隔たれて通過できなかった物質が、細胞膜が機能を失ったことで通過できるようになります。水分はもちろん、酵素も細胞内外を自由に出入りできるようになります。

「酵素」は健康意識が高い人にはおなじみの言葉だと思います。健康のために酵素ジュースを飲むとか、加熱すると野菜の酵素が死ぬから非加熱のスムージーを飲むとか…
酵素には化学反応を起こすはたらきがあり、中にはおいしさに関わる化学反応もあります。酵素が細胞内外を自由に移動できるようになったことで酵素のはたらきが高まり、甘味や旨味、香りの成分が作られるようになります。

ここまでの話をまとめると。
野菜に塩をまぶすと浸透圧が高まり、細胞の原形質分離がおきます。
細胞は本来のはたらきを失いますが、酵素のはたらきが高まることで、甘味や旨味、香りなどのおいしさの成分が作られるのです。

5.ザワークラウトができるわけ②

ザワークラウトに欠かせない要素、それは乳酸発酵です。

そもそも発酵とは。
ここではざっくり、微生物のはたらきによって食べ物がおいしくなること、と定義します。詳しいお話はまた機会があれば。

ザワークラウトで活躍する微生物は乳酸菌です。
もともとキャベツの葉っぱに存在している乳酸菌の力をお借りします。快適な環境におかれると乳酸菌は増えて活発に活動し、乳酸を作り出します。「酸」という漢字が付く通り、乳酸は酸っぱい味のもとになります。それがザワークラウトにおける発酵であり、ザワークラウトの酸味の正体なのです。

キャベツには乳酸菌の他にも様々な菌が存在しています。
乳酸菌は「嫌気性菌」と言う、酸素がないところで活発になるタイプの菌です。そのためザワークラウトを作るときは保存袋の中の空気を抜いたり、キャベツの表面をラップでおおって空気に触れないようにします。逆に酸素が好きな菌は繁殖が抑えられることになります。

乳酸菌が乳酸を作り出すとpHが酸性へと傾きます。(酸性、中性、アルカリ性。小学校の理科でやりましたよね)酸性になると多くの菌が繁殖することができません。そこで乳酸菌はさらに増え、乳酸をたくさん作り出してpHがさらに酸性へ傾き…というわけで、ここでも雑菌の繁殖は抑えられます。

ザワークラウトは乳酸菌天国というわけですね。

雑菌の繁殖が抑えられるということは、保存が効くということでもあります。だからザワークラウトは長期保存が可能なのです。
かつてヨーロッパでは、野菜が採れない冬場のビタミン補給源としてザワークラウトを食べていたそうです。大航海時代には、長く海上で生活しなければならない航海時にも重宝したとか。

乳酸菌はヨーグルトにも含まれていますが、これらの乳酸菌には違いがあります。ザワークラウトに含まれる乳酸菌はキャベツ由来の植物性乳酸菌であり、ヨーグルトに含まれるものは牛乳の中で増える動物性乳酸菌であると言われています。

ヨーグルトの動物性乳酸菌は温度を一定に保たないと増えません。しかもヨーグルトの元になる牛乳はそれだけで栄養たっぷり。裕福で過保護なお坊ちゃんのイメージ。
一方、植物性乳酸菌は多少暑くても寒くても常温で増殖します。植物性乳酸菌が増える場所は塩分濃度が高いなど、厳しい環境であることが多いです。恵まれない環境でもど根性で生き抜く屈強なイメージでしょうか。

植物性乳酸菌はたくましくて人間の胃酸に負けないので、生きて腸までたどり着いて人間の腸内環境を整え、いわゆる悪玉菌の繁殖を抑えてくれる効果があるそうです。
加熱すると乳酸菌はやはりお亡くなりになってしまいます。お亡くなりになっても乳酸菌としての効果が全くないと言うわけではありませんが、乳酸菌の整腸効果を期待するなら加熱しないで食べるのが良さそうです。

6.ザワークラウトについてのまとめ。

ドイツの伝統的発酵食品であるザワークラウトは、キャベツに塩を加えて常温に置いておくだけで作ることができます。

キャベツに塩をもみ込むと細胞に浸透圧がはたらきます。細胞に原形質分離が起こることで水分や酵素の細胞内外の移動が自由になり、酵素のはたらきで旨味や甘味、香りの成分が作られます。

キャベツの葉っぱにもともと存在していた乳酸菌が繁殖して、乳酸を作り出すことでザワークラウト独特の酸味も生まれます。酸性の環境になるため雑菌の繁殖が抑えられ、保存が効くようになります。

発酵食品を手作りするとなると、ヨーグルトや甘酒のように温度管理が必要だったり、味噌のように発酵に時間がかかったり、ぬか漬けのように手間がかかったりと、なんだか大変なイメージがあるかもしれません。
しかしザワークラウトは、キャベツを切って塩をもみ込んで放置するだけで、3日〜1週間程度で出来てしまいます。
むしろこんな適当なお世話でちゃんと育ってくれる乳酸菌、えらい。

では完成したザワークラウトと、ドイツ土産の缶詰ソーセージを頂くことにします。ついでにドイツワインも開けちゃって♡

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ソーセージはシンプルな味。口当たりがなめらかで魚肉ソーセージに近いです。もう少し肉々しい方がザワークラウトの酸味に合ったかも。日本のシャウ◯ッセンとか笑

楽しかったドイツ旅行に思いを馳せながら、ザワークラウトとソーセージを堪能することにします。
安心して世界中を旅行できる日が、少しでも早く来ることを祈って。
ではでは。

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