商品開発のやり方ー組織づくり(編集中)
小規模事業者の商品企画やリサーチには、あまりコストを掛けられないので、ここまでは、1人の担当者が行っているというのがほとんどでしょう。ここからは、外部含めて関わる人が増えていきます。これまで一人で大事に育ててきた我が子のような存在を人に評価されるようになります。
評価されるだけであれば良いですが、様々な意見が入ってくることで、良くも悪くも考えが変わる可能性があります。良いように変わればよいですが、悪いように変わると一番重要だったはずの"目的”が変わってしまうなんてこともあります。商品企画の章で再三述べたように、商品開発にとって最も重要なことは、目的です。その目的が変わるというのは、アイデアの根本が変わることを意味しています。
ここまで、たくさんの時間とコストを掛けてきたかもしれません。でも、もしここで目的が変わってしまったら、このまま進めるのではなく、必ずもう一度アイデアから見直してください。これは必ずです。このまま進めてうまくいく確率は1%もありません。万が一、うまくいったとしてもそれは100回に1回を引けた強運というだけで、次は100%失敗します。これをサンクコストバイアスといいます。
サンクコストとは、既に投資した事業から撤退しても回収できないコストのことで、埋没費用ともいいます。 それまでに費やした労力やお金、時間などを惜しんで、それが今後の意思決定に影響を与えることです。日本人の多くは、お金や時間よりも、「恥をかきたくないから」という何の役にも立たないプライドを守るためだけに突き進む傾向にあるような気がします。
その何の役にもたたないプライドを守るためだけに突っ走るような人は、会社に大損を抱えさせます。大損という目に見える損はしないかもしれませんが、売れないという現実だけが残ります。売れないというのは、それにかけた労力やお金、時間が無意味だということです。
今なら一時の恥ですみます。すぐにやめてください。失敗は悪いことではありません。今回の失敗を踏まえた上で、次にもっと良いものを作ればよいだけです。
目的が変わってしまったら、絶対にもう一度最初から考えるようにしてください。
テレビや本に書いてある失敗からの成功は、星の数ほどある失敗例の中の1つでしかありません。サンクコストを払うのを避けて、奇跡を信じたい気持ちは痛いほどわかります。ただ、奇跡は起こりません。奇跡の別の言い方は、博打です。博打が好きならとめません。
ということで、ここからは今の"目的が変わったら0から考え直す”など、商品開発をしていく上でのルールをお伝えします。こういった内容は、書籍などではあまり見かけたことがありません。失敗の本なんてよほどの物好きでもないと読まないのかもしれないですね。
もし、そんなことを思っていたとしたらそんなあなたは、まず戸部良一/寺本義也/鎌田伸一/杉之尾孝生/村井友秀/野中郁次郎 著「失敗の本質―日本軍の組織論的研究」か、三田紀房著「アルキメデスの対戦」を読んで猛省してください。
ルール
商品開発は、結果が明確に出るものです。良い結果は誰もが自分の実績として誇りたいと思いますが、悪い結果を自分の実績として誇りたいと思う人はいません。また、商品開発は失敗する可能性のほうが成功する確率よりも圧倒的に高いものです。新規事業やスタートアップの成功確率は10〜20%程度だと言われています。10回中9回は失敗するものです。
当たり前の話ですが、失敗する可能性が高いものを多くの人は避けます。成功することで大きな見返りを得られる保証がされないようでは、リスクでしかないですよね。とかく、日本ではこの見返りの設定が甘すぎるように思います。
よく、日本とアメリカを比べると「アメリカは失敗に寛容」ということが言われますが、アメリカの実力社会を見ていると寛容どころか、かなり厳しいように感じます。解雇規制もないから「You're fired.」ってやつですね。その代わり見返りはすごい。※印象です。
ただ、決定的に違うのは日本の場合、「失敗を失敗として認めない」という考え方が定着しているように思います。認めないから反省しない、認めたくないから言い訳をする、認めたくないから人のせいにする。思い当たるフシはありませんか?
そんなあなたは、今更、日本の国民性を嘆いても仕方がないので、まず、戸部良一他著「失敗の本質―日本軍の組織論的研究」か、三田紀房著「アルキメデスの対戦」を読みましょう。
重要なのは「失敗を認め、そこから学ぶことです。」日本の失敗例を見ていると失敗を認めないで、反省せず「自分ではない誰か」や「運」、「時代」のせいにしたり、最悪の場合、隠蔽するという場面をよく見かけます。かたやアメリカでは、激詰めMTGや公開処刑が行われます。
こういう言い方をすると、アメリカのほうがひどそうな気もしますが、激詰めMTGや公開処刑は猛省と失敗の追求をすることで、失敗の原因を洗い出します。失敗の原因がわかれば、後は改善すればよいだけです。
私は数多くの失敗をしてきた人間です。これを読んでくださっておられるような方は、きっと私と同じように今述べたようなことを痛切に感じていて、むしろ周りにわかってほしいと思っておられることだと思います。
だからこそ、もしあなたが商品開発を誰かに任せるような立場であったなら、「リスクに見合った見返り」と、「失敗の原因を洗い出せる」ルールを始めに設定しておくようにしましょう。
あなたが会社から任される立場の場合は、このことを踏まえ挑戦し、失敗したら猛省し次に活かしましょう。そして、リスクに見合った見返りを与えないような会社であれば、さっさと辞めて、自分で商品開発をはじめましょう。大丈夫です。こういう事がわかっていない旧来型の日本の企業は早晩外資に駆逐されますから。
次に記載する要件定義は非常に重要です。旧来型企業は要件定義を無視する傾向にあるので、もし、要件定義を無視するような組織だと十中八九失敗します。商品開発よりも先に社内体制を固めることを優先しましょう。万が一このまま進むことを余儀なくされているとしたら、失敗を最小限に抑え、次に生かすのに有効となるデータをとることを(裏ミッションとして)一番の目的にしましょう。
要件定義(ルール設定)
要件定義は開発責任者が作成し、目的達成まで管理と共有を徹底します。こちらも順番に考えていきましょう。
◎事業目的の再確認
通常は、商品開発を行うにあたっておおよその売上目標が立てられていますが、アイデア評価、リサーチを経てより具体的な数字が見えてきたと思います。
ここで確認する目的は、これまでに考えてきた他者に向けた商品の目的ではなく、事業として商品開発を行う意味です。具体的には売上です。その商品を作ることでいくらの売上を作るのか、費用対効果の高い売上げが作れるのか、売上目標、予算配分、販売スケジュールを立てます。
当初目標が達成できるのか否かの最終ジャッジを行います。
◎目標の設定
事業としての目的、ソリューションとしての開発目的が整理でき、問題なければ目的に到達するまでの目標を立てます。最近は、マイルストーンと呼ばれることも増えてきました。目的達成までのスケジュールをできるだけ細かに書き出し、全体像を把握しましょう。細かに管理する必要はありませんが、それぞれの工数を把握することでコストや予算を立てられるようになります。
コラム:改めてここで整理しておきます。目的は「最終的に成し遂げたい事柄」で、目標は「目的を達成するための指標」です。
例
目的:東大に行く
目標:東大に行くために毎日勉強する
手段(戦略):東大に行くのに最も確実な方法は◯◯をやって、◯◯は勉強しない
手段(戦術):具体的な勉強方法は過去問を◯時間、応用を◯時間
ここの話は、森岡毅著「USJを劇的に変えた、たった1つの考え方」が、とてもわかりやすいのでぜひご一読をおすすめします。
◎撤退の条件
目標を考えた矢先に撤退というのは嘘のような話ですが、とても重要な話です。勘の良い方ならすでにおわかりだと思いますが、新規の商品開発は下手な成功よりも、早い失敗の方が長期的に見れば成功の要因になります。
下手な成功は成功か失敗かの判断がつきにくく、サンクコストバイアスもあるため、撤退の決断をくだすのは非常に難しいです。chat-GPT登場後、AIシステムが雨後の筍のような速さで登場してくる現代では、1日遅れるだけで立場が様変わりします。そのような状況では、スピードこそが命になります。
「決して他社には真似できません!」というのも、いつまで持つかはわかりません。撤退のルールは必ず決めておきましょう。ポイントは、成功と失敗の境界を明確にしておくことが重要で、成功に届かなければ、すぐに撤退するぐらいの気持ちでいましょう。
そのためにはリリース直後の反響を図る必要があります。当たり前の話ですが、広報も広告も発売日に集中するのは、発売日が最も注目されやすく、一番注目されているときの反応を見極めることが重要だからです。とはいっても、私たち弱小企業は、全国CMなんてできるはずもなく、判断が非常に難しいので、目標を細かく設定し1ヶ月〜3ヶ月程度で判断できる指標を設けておきましょう。
具体的にできることと言えば、日別目標、週次目標、月次目標の細かな設定です。ただ、参考指標まで露出ができないと判断の仕様がありません。教育が必要な商品では難しいですが、WEB広告で売上度外視でも魅力的なオファーを売って、できるだけ多くの露出とリアクションを獲得しましょう。
小規模事業者の商品が発売後何年も立って流行るということはまずありません。それは奇跡であり、それにかけるのは博打です。撤退して、リニューアルして再発売すればいいんです。
はじめから大ヒットを狙うのは止めておきましょう。
ちなみによく、参考にされるのが下記のような方法ですが、小規模事業者ではこれらを判断するに足る最適な指標を得るのは非常に難しいので、あまり参考にはならないと思います。1%でも市場シェアをとれるのであれば有効でしょう。
KPIを用いて判断する
会計上の損益または投資回収率で判断する
市場の成長性・シェア率で判断する
SWOT分析を通して弱点を再度把握したうえで判断する
事業が赤字でも貢献利益から判断する
◎目的が変わる=ふりだしに戻る
撤退は市場に投入してからですが、アイデアが固まったと思っても、市場に投入するまでの間に仕様が変わることは多々あります。よくあるのはコストの問題ですが、それ以外にも見た目の変更などはよくあります。
また、本来ならあってはならないのが、責任者の上に権限を持っている人がいる場合ですね。テレビなどでもおなじみの、鶴の一声というやつです。
仕様が変わっても、最も重要なその商品が果たす役割(目的)がブレなければ良いですが、捉え方によっては変わっている場合があります。自分ひとりで考えるのでなく、チームのメンバーなど、必ず他の人の意見を取り入れて、目的に変わりがないかを確認しましょう。
◎責任者は代表者
商品開発は、新規事業や起業と同じです。企業の代表が1人のように、商品開発の責任者も1人です。これを読んでくださっている方は、事業主で必然的に1人責任者の方が多いと思いますが、もし、会社勤めの方は企業の代表になったつもりで考えましょう。
章の冒頭に述べたように日本では、失敗を汚点として、なかったことにする風潮があります。商品開発の道は長く険しい道程です。当然ですが、長く険しい道程がなかったことにされる可能性があるようでは、モチベーション高く挑戦しようという人は現れません。できるのであれば、最初から魅力的な賞金を用意するぐらいわかりやすいほうがよいでしょう。会社勤めの方は、自分のモチベーションが上がるような見返りを要求しましょう。
事業主の方は、改めて述べるまでもありませんが、精一杯頑張りましょう。
◎情報の共有
すべての関係者に情報を共有するのは非常に難しいです。商品開発の責任者をしたことがある人であれば「自分が分身できればいいのに…」と思ったことは、何度もあるでしょう。言葉としての情報はもちろんですが、考え方や想いも共有されなければ意味がありません。
理解力の低いでも伝わるように、言葉だけでなく、絵やサンプルなど、伝えるための手段を模索するようにしましょう。
今だと、Midjourneyなどを使うのがおすすめです。開発者はMidjourneyを始めとしたAIツールを使えるようになっておくとこれからは非常に活躍できるでしょう。
◎その他検証項目の設定
・顧客ニーズの検証
5W1Hで想定した、WHOにあっているかを分析します。分析方法は、購買データやアンケートなど、リサーチの章で使ったものを使って行います。
年齢や属性、ライフスタイルなど検証していきます。SNSが有効
・スピードの検証
文字通りスケジュール通りに進行しているかの確認です。基本的に開発は遅れるものです。スケジュール通りに進むことはまずありませんが、販売のタイミングが遅れるということは、販売機会が減ることと同位です。1日で10万円の売上があがるとしたら、1週間送れてしまっては70万円の損出になります。ギチギチに詰めたスケジュールは、破綻しチームワークを乱す原因になるのでやめましょう。デザイナーや製造業者等、制作チームとしっかり連携し、適度な管理体制を保ちましょう。
これはもう経験のなせる技です。
・資金の検証
予算が回っているかの確認です。スケジュールと同様、ギチギチな割り振りは絶対に失敗します。必ず想定外の出費があるぐらいのつもりで、予算を確保し、足りなくなる前に調達を行いましょう。スケジュールと同様、足りていないとその分だけ機会損失になることを考えて対策をしましょう。
・不足の検証
予算、機能、処方などなど、あってはいけないものですが、不測の事態は必ず起こります。それが、リカバーできるものなのかどうか、目的が変わるものではないか、サンクコストバイアスに囚われないで冷静に不足したことによって、どういう変化が起こるのか現在の状況を分析していきましょう。この場面では代替案が持ち込まれることが非常に多くあります。売上へのインパクトと、開発目的を第一義に変更点と、変更がもたらす可能性を検証します。
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