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第236話 隠されていた本当の秘密


 毒づいていた。
来る日も来る日も浄化をしても、未だ私の子宮の奥底に憑依しているヤマタ先生の意識に、もういい加減鬱陶しさを募らせていた。

 もちろんこの教師の他にもいくつか憑依は残っていたが、スサナル先生との間にある『性』エネルギーをクリアに浄化しようとする度に、必ずといっていいほどヤマタ先生が表面へと浮かんできていた。

「もう!私があなたのお相手じゃないってことは嫌というほどわかってるでしょう?一体いつまでくっついてるの?全部私に面倒見てもらって闇まで綺麗にしてもらっちゃって、自力で進化していかなくてどうするの?」

 途切れることのない鈍い偏頭痛。さらに目眩(めまい)まで加わると、ベッドに沈んでこめかみを押さえ、そうして暴言を吐いていた。
 もちろん『烈火』にも光を当ててはいたが、それでも“性を盗られた”悔しさが渦巻き、螺旋状の闇が何度も何度もぶり返す。

 箱根から、五日ほど経とうとしていた。

……

「あっ!」

 その気づきは唐突にもたらされた。
ヤマタ先生の憑依が、何故他の男性以上に私の子宮にこびりついているのか。

 彼は過去世で、私の子宮の中にいた。
私の胎内で大きくなり、出産を経て赤ん坊として産まれていたのだ。盲点だった。

 じゃあ、じゃあ、他の人の意識よりも下地がある分、温床にして、よりより“侵入”しやすいってことでは……。

 愕然となったところに更に、追い討ちをかける出来事を思い出す。

 鹿島の剣をオオナムチに還したことで、鴉天狗からいただいたあの時の卵。十月十日(とつきとおか)ののちに私のお腹から孵り(かえり)、その正体をヤマタノオロチと現した者。

 あの時鴉天狗……太陽の眷属であるカラスと共に飛び立ったオロチを追っていくと、そこで待っていた人こそ根の国の深い崖下で微笑むスサノオノミコトその人だった。


 観念するしかなかった。

 今までは、ヤマタ先生のほうに“わかってもらおう”とこんな風に話しかけてきた。

「あのね、私とスサナル先生とは表と裏なの。あなたが『愛してくれた』私という人こそ、あなたが『憎悪した』スサナル先生とひとつなの。だから残念だけど、私はあなたを男性として決して好きになることはない。スサナル先生以外の男の人を愛するなるなんてあり得ないのよ。」

 それなのに、いつまで私に憑依し続けるの?と。

 けれども今目の前に、もう一つの表裏一体が炙り出される。私のお腹で温めたオロチこそ、スサノオが斬ったオロチであると気がついた。
 そして、スサノオが『戦った』ことにより尾の中から三種の神器の剣が出てきたということは、私の役目とはオロチその人を『愛する』ということ。
 八岐大蛇を8の字の中心に、スサノオと私とは対をなすことで“成立する”。


 パチンと何かが弾けた。

 ヤマタ先生、ごめんね。
やっと気づいた。そういうことだったんだね。
……愛と憎悪は表と裏で一緒だったのに。それをわかっているつもりでも、あなたをずっと憎んできたの。本当にごめんなさい。
 あなたが“性を盗る”というシナリオを演じてくれなかったら、私は真実に目隠しをされたまま狭く限られた視野の中で、誰かを心底『憎しむ』という体験をやりきることができなかった。やり切れたから、私は『憎しみ』を『愛する』ことができたんだね。
 本当に、本当にありがとう。


『誰かがやらなきゃいけないんでしょう。
それが私なんでしょう。』

 そんな私の信念は、義行であるヤマタ先生に受け継がれていた。
 彼こそ、過去世における母親だった私のために、すべての憎まれ役を“体現”してくれたのだ。


……九頭龍を媒体にして少しの間、キラキラと美しい金龍の姿が視えると、こんな声が遠くから聞こえた。

「役目は終わった。」

……

 けーこと二人で箱根に行き、同じく体調不良に陥った彼女はこの時毒を出すことで浄化していた。自分の中にある毒を表に出すことで彼女は毒を制し、復活への舵を切った。
 それに対して同じ毒でも、私は飲むことによって消化した。飲んで、味わい、咀嚼することで無に帰した。


『必ず勾玉の二人で来るように。』

 かつての邪龍もそうして『在りて在る』役目を果たすと、剣である先生とタケくん、勾玉である私とけーこも本来の姿へと一歩近づき、その螺旋を一段また一段と昇っていくことになる。

 宇宙の旅に終わりはない。
『毒にも薬にも』と言うように、ヤマタ先生というオロチの愛は、私にとってのありがたくも苦い薬となった。



written by ひみ

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実話を元にした小説になっています。
ツインレイに出会う前、出会いからサイレント期間、そして統合のその先へ。
ハイパーサイキックと化したひみの私小説(笑)、ぜひお楽しみください。

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世界と統合してくると、本当の意味で悪者っていなくなっていきます。私にとってもヤマタ先生って最初、「一生許さない」って決意して、その決意を絶対弛めることなどあってはならないって、そこまで思った相手でした。
その一番の『憎悪すべきもの』が、ようやくガラッと反転しました。

そしてまた、こういう形で箱根とのご縁が続いていくとはまさか思ってもみませんでした。
たぶん箱根ってね、かつて地獄だった力を、今は必要に応じて処方してるんだと思います。
何でもない人に対して何でもない時に行っても平穏な箱根ですが、化学変化が必要な時にはごく少量使う……みたいな。
けれども荒療治な分、越えればものすごく成長できます。

あと昔、諏訪大社にも行ったことがあるんですが、その近くには毒沢という温泉があると聞きました。現地ガイドの方に尋ねたら、素晴らしい温泉の効能を知られてはよその人が多く来てしまうから、敢えて毒の沢と呼んで独り占めしようと、そんなことから名づけられたそうです。

なるほどね。不動明王からも教わった通り、毒も使い方次第。この温泉では、事実名前に毒を盛ることで、独占するための効果が抜群だったわけですね。
……てか書いても怒られないこと知ってるから書いちゃうけど、不動明王自体が仏教界においての毒みたいな、そんな存在な気がする。
わからないのが何故かこの彼、弁財天と一緒で寺だけじゃなくて神社にもいるんだけどね笑

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