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第221話 私も必ず、現れるから。


「Kさん。」

 ん……。なんだろう。
今、彼のエゴセルフから旧姓で呼ばれた気がする……。

「Kさん。」

 やっぱりだ。どうして旧姓がわかるんだろう。何でそんな場所へとアクセスしてきたんだろう。

 時空間を超えた彼の意識が、私のことを旧姓の苗字で呼んでいる。

……

 スサナル先生があきらの担任だった年。
彼のエゴセルフによると、その時の私の想いは最初からしっかり筒抜けだったらしい。先生から見た私とは、好意を誤魔化そうとするその振る舞いとは裏腹に、いつも嬉しそうにぴょんぴょんしていたのだという。

 だから当初、彼はそれを利用して、「この女を支配しよう、従順にさせよう。」と、そんな風に考えていた。ところがスキー教室での出来事を境に私の『白さ』に圧倒されて、自分の小ささを感じさせられるようになってしまった。

 彼が言うには、私とはあり得ない存在だったらしい。

「人はみんな、愛がないのが当たり前だと思ってた。そんなのは小説や映画の中だけのもので、たとえ現実に繰り広げられても、みんな演じてるか自分に酔ってるとしか思えない。
 それなのに、いた。一目見た時から『この人だ。』ってわかってた。
 そしてすぐに自分も好意を抱き、且つ服従させたいとまで思った時点でやはり普通の人じゃなく特別なのに、更にあなたの本質を見て、愛を持った人が本当にいることに驚いた。そして同時に怖かった……。」


 一週間ばかり前から出てきてた、「Kさん」と呼ばれるその理由。それは彼の怒りであり、同時にどうしようもないSOS。

 生まれつき、一般的な人よりかなりサイキックだった彼の心の中には、子供の頃からずっと一つ“決して消えない火”があった。現実的にどんなに孤独を感じても、その光がいつも彼を支えていた。
 それなのに、私が旦那と結婚してしまうと途端にその光が消えて暗闇となり、精神的にも肉体的にも体調不良に陥った。

「Kさん、どうして他の人と結婚しちゃうの?
『許せない。』また置いていかれる。
『裏切られた。』ずっとそばにいるって思ってたのに。
ここに僕がいるのに!!」

 はっとした。
去年私がビジョンで視た、二本の大きな棘の刺さった彼の心臓。一本目の原因は彼の実のお母さん。そして残るもう一つは、私が他の人のところへ嫁いだときに刺さったもの。

 それは彼にとって致命傷だった。
私という火が消えたことでいよいよ希望を断たれると、彼はその時『心』を捨て、それから心臓自体も棘ごと闇へと葬った。

「本当に、本当にごめんなさい。
私があなたを苦しめていたのね。私があなたを傷つけていたのね。私こそが、あなたを孤独に追いやった張本人なのね……。」

……

 結婚した時のことを振り返って視ていった。
もしも私が旦那と結婚しなければ、そもそも彼を傷つけることなどおそらく最初から無かったはず。
 だけどそれだと神奈川で暮らすこともあきらと出会うこともなく、それに離婚やあの子の入院など、“今世”の彼に釣り合うほどの闇の学びを得られていなかったのではないか。いずれやらなければならない課題なら、結婚も離婚も天意のうち。

 けれども同時にその結婚自体が、当時まだ出会ってすらいない彼を相当傷つけた。彼の中のあらゆる闇の感情の元は、すべてそんな私に起因していた。

 怒り、嫉妬、淋しさ、悲しみ、恨み、孤独……。

 すべての闇は、私が彼の内側から消えてしまって生まれた感情。だからそれらを一つ残らず愛すると決めて、でも、謝ることしかできなくて。 
 それでも懸命に言葉を掛ける度ごとに、不思議とそこに反応してどんどん私の胸の真ん中が氷のように冷たくなっていく。

 少し前、私の子宮がたくさんの闇で塞がっていた頃。おへその下から下腹部にかけて、常にひんやりとしてチャクラも頑なに閉じていた。
 それと同じで、彼は心臓に血が通っていない状態で生きてきていた。常に心が冷えていて、泣くことすら忘れて日々を送っていた。
 私たち二人の幽体と肉体の統合が進んだことで、改めて思い知った今までの彼の深い闇。こんなに心を閉ざした状態で、一体どうやって生活してきたというのだろうか。


 幼少期からの彼にとって、『私』とは希望そのものだった。
 家族に全く相手にされない孤独の中でもなんとか生きてこれたのは、そんな彼をいつでも包んでくれた“優しい女性”の存在があったから。

『自分だけを、こんなにも愛してくれる人がこの世界のどこかにいる。』

 微かな、でもそれが唯一の確かな希望。

 子供の頃の彼に伝える。

「ずっとあなたと一緒にいるよ。
だけどこの先一度だけ、あなたが大人になった時、一時的にあなたの目の前から私がいなくなるように感じる時期が来るかもしれない。
 それでも決して完全に消えたわけじゃなくて、もちろん嫌いになったりしたわけじゃなくて、あなたを愛する気持ちはいつだって変わらない。」

 聞きたくないと、半泣きの彼にどう言葉をかけたらいいか……。私にとっても苦しかった。

「その時ね、私という光が完全に消えてしまったように感じても、それでも必ず一緒にいるから。そうして必ず、あなたの前に再び現れるから。」

 そう言いながら、気づくと自然に涙が出ていた。実体の彼と入学式で出会うその半年前、私のほうこそ彼から同じ言葉を言われたことを思い出す。

『必ず、現れるから。』

 ツインレイというもう一人の自分に、感謝と畏怖を抱かざるを得なかった。
 彼のこの言葉が示すもの。それは紛れもなく、私こそがこの一生を通じて、彼に導かれ続けていたということに他ならない。お互い真っ暗闇の中にいて、それでも私のことを先に光へと押し上げてくれた人。
 彼の深い愛こそが、全ての私にとっての希望の光だったのだ。



written by ひみ

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実話を元にした小説になっています。
ツインレイに出会う前、出会いからサイレント期間、そして統合のその先へ。
ハイパーサイキックと化したひみの私小説(笑)、ぜひお楽しみください。

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ツインレイをやればやるほど、相手のあらゆる時空間に自分が干渉しているのだろうと、そう思えてなりません。
あらゆる過去の出来事は、出来事としては変わらないのだけど、その出来事に別の見方を与えることができる。光と闇こそ双子だったのだということ。一つの出来事の中にこそ、光と闇が同時存在しているのだということ。
結果的には、辛い経験の中に最高の宝石が眠っていたのだと、そんな風に『反転』していきます。
サイレント(を利用した苦しみ)がなければ、私は自分という宝石には一生出会えなかったかもしれません。
今、彼という人こそが、私の心を灯し続けている明かりなのだと、そんなことを思っています。

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