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第3話 顕れ

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 その年の年末は穏やかだった。
ちょうど一年前、クリスマス翌日に死の宣告を受けたことのほうが夢だったかのように、それまであたりまえだと思っていた毎年と変わらない家族の団らんがあった。
 退院からのこの半年の間には、公園に行けないあきらのために友達が家に遊びに来ることもあったし、学校の宿泊行事も先生方の協力のおかげで参加することもできた。そしてまた家族三人旅行にも行ったりと、徐々に社会復帰できるようになっていた。

 絵を描くことが得意な私は毎年の年賀状を自分の絵で印刷しているのだが、この年、支えてくれた私の友人たちと旦那の友人たちに向けた年賀状は、お礼の意味を込めて元気に過ごすあきらのイラストにすることにした。
(私の血を引いたあきらも、自分の友人に送るものは毎年自分の力作である。)

 こんな絵になった。
車椅子にふんぞり返ったあきらが、松葉杖を銃のように天に向け、
「××寄越せ」(××は失った体の機能)と言って不敵に笑っている。
うちの子をよく知る友人たちはみな「これはあきららしい」と笑ってくれたし、
高校の恩師に至っては「あなたの絵を見て涙が止まりませんでした」とまで言ってくれた。

 ちなみに余談だが、この「××寄越せ」というセリフは病院のリハビリ室で、あきらが松葉杖と共に一歩歩くごとにゆっくり低い声で言うという遊びをしていた時のもので、居合わせた人たちにずっと笑われていた恥ずかしいものだ。
 カツーン、××寄越せー、カツーン、お前の××寄越せー、カツーン…


 そして、しばらくこの自分の絵を眺めているうちにあるアイディアがひらめいた。
 「この絵を切り絵にしたい。」
 唐突にそう思った時にはすでに、頭の中に設計図も手順も浮かんでいた。
元々物を作ることが好きだったことが幸いして、道具も、それに材料も、そのほとんどが手元にあった。
紙ではなくて、カッティングシートの黒にしよう。裏から和紙やホイルペーパーを入れてカラフルにしよう。A4サイズのイラストボードに仕上げよう。

あっという間に作品になった。

 すると次々と創作意欲が湧いてきて、毎日の余暇の幾らかは作品づくりの時間になった。
細かく全身に花模様をあしらったインドっぽい象に虹。
イギリスのアシッドジャズユニットの曲をイメージしたラクダと女の子。
翼にホログラムペーパーを混ぜ込んだペガサスなど、気の向くままに作っていった。

 そして、蝶々の羽に模様をつけて、色は大天使のイメージカラーにしようとハガキサイズの作品を作っているとき、不思議なことが起きた。

 
written by ひみ


⭐︎⭐︎⭐︎
実話を元にした小説になっています。
ツインレイに出会う前、出会いからサイレント期間、そして統合のその先へ。
ハイパーサイキックと化したひみの私小説(笑)、ぜひお楽しみください。

気づいたらリハビリ室にいたおばあちゃんたちも理学療法士さんたちも
「うん、うん」と頷いて微笑んでいましたとさ。


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