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第157話 地獄の般若


「ではまたいつものように、お祈りから始めていきますね。」

 この、宇宙子さんとのセッションのスタート時。毎回彼女が口にするアファメーションを、私は最後まできちんと耳にしたことがない。ハイヤーセルフ、守護天使、それから高次元意識体あたりと融合し始まるとすぐに意識がトランス状態へと入り込み、集中していくにつれて、途中から一切の音が聴こえなくなる。

 ただ今回に限っては、その祈りの文言が途切れ、宇宙子さんが少しの間黙っていることに、頭の隅の小さなハテナマークと共に気がついていた。

「……リトのおじいさんも、ひみさんのガイドとして一緒にいますね。」

 なるほど!こんなに嬉しいことはなかった。うわぁと心があったかくなり、一気にホクホクしてしまう。
 ただしそれも一瞬のこと。今日これから潜って行くのは、例の性搾取されたあの江戸時代の女の人。阿鼻叫喚の地獄絵図へとこのあと入っていくことになる。

……

 そこで待っていたかつての私は、当初思っていたより遥かに幼い少女だった。おそらく十代半ばくらいだろうか。
 自分たちの欲望のままに多くの悪事を働いてきた三人の男たちはその日、何の罪もない、何も知らない私が一人で留守番なのを確認すると、簡素な扉を開け放ち、いきない家に押し入ってきた。
 『恐怖』が全身を駆け巡る。そんな彼女の絶叫を、こちら側からしっかりと向き合って直視する。

「大丈夫だよ。怖かったね。あなたは何も悪くない。
苦しかったよね。辛かったよね。痛かったよね。
“どうして私がこんな酷い目に遭わなければいけないの”って、どうしようもないくらい絶望したよね。」

 二人がかりでそんな彼女の『痛み』に共感していくと、今度は『憎悪』が待ち受ける。
 世の中にいる“男性という生き物全て”に対して、『許せない』といった咆哮が響く。この女の子の中に今まで圧縮されていた復讐心が一気に暴れ出す。
 そしてそんな『復讐心』こそが、私の中で自分でも気づかずに長い時間持ち続けていた“潜在意識下の本音”だった。思春期頃から、人並みに彼氏が欲しいと願った私はその実深層意識では、常に男を切り刻みたく、鋭い切っ先は相手がスサナル先生であっても容赦なくその標的だったのだ。


 意識の世界は、時にこちらの私が予想すらしていない能力を発揮する。
 今や深い闇から解き放たれ、低次四次元空間をある程度自由に行き来できるまでの軽さになると、彼女の視線は直接裁きを下すために当時の犯人たちを探し回りだした。

 そんな暴走直前の状態の少女に、宇宙子さんの声が届く。

「この宇宙にはね、必ず、因果応報がある。何にも悪くないあなたのことを傷つけた犯人たちは、その後うんと地獄の苦しみを味わうことになっている。
あなたがね、自分で復讐してやっつけても、スッキリしたって感覚が得られるのはほんの一瞬。
それよりも、この人たちが自分のやってしまった罪の深さに気づくまで、宇宙はその何倍にも膨れ上がった苦しみを彼らに用意しているの。彼らは必ずもっと酷い目に遭うことになってるから。」

 怒りで煮えたぎっているそんな彼女の視界の左端から、般若が睨んでいるのが視えた。

「赤い、般若の面が視えます。角が二本あって、男性側をものすごく睨んでいます。」

「ひみさん、六道(りくどう※)わかりますか?」

「はい。」

「餓鬼、畜生、地獄。彼らには、まだまだこれらの世界が待っています。
この人たちは、ひみさんにだけではない。何人もの女性に対して、こうして多くの罪を働いてきました。その分の清算を、何度も生まれ変わって彼ら自身がしなければならない。」

 般若には、あんなものに睨まれたらと思うだけで、それだけで人を竦み(すくみ)あがらせるほどの威力があった。白眼の部分は金色に発光し闇を照らし、黒眼は犯人の姿を少しでも捉えた瞬間に凄惨な裁きを与えようと待ち構えていた。
 恐ろしいエネルギーがビリビリと放電していて、見えない世界にはこんな存在がいるんだというだけで恐ろしかった。

 この般若が私たちの側でよかった……。

 その形相は凄まじく、決して敵に回したくはない存在ではあったけど、そのおかげで心底こころ強かった。罪人には確実に、宇宙が天罰を下すのだ。深いところからそのことを理解し、ようやく敵討ちの荷が降りる。

 女の子の意識がだいぶ軽くなったところで、センタリングして戻ってきた。「凄かったね、相当楽になったでしょう。今日のひみさん一人だけで、かなり地球の集合意識が浄化されたね。」と、宇宙子さんに笑われてしまった。




※六道……天道、人間道、修羅道、畜生道、餓鬼道、地獄道。
アセンションで目指すのはこの六つから成る輪廻から出ることで、それが涅槃。
天道は一見そこそこ良さそうに見えても自己統合でききっていない残念賞。


written by ひみ

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実話を元にした小説になっています。
ツインレイに出会う前、出会いからサイレント期間、そして統合のその先へ。
ハイパーサイキックと化したひみの私小説(笑)、ぜひお楽しみください。

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この、因果応報に自分で気づけるまで闇を学べるということ。どんな地獄でも味わえるということ。それがどんなに恵まれているか。それもまた愛なのだと気づけるか。

光と闇が表裏一体と言われる理由は多々ありますが、この、「地獄を学び、自分が犯したことの意味を自分自身で知ることができる」のもそんな表裏一体の一つなのではないでしょうか。

だったらね、今、目の前にある厄介ごと。
例えば人間関係でも何でも。それってちゃんと、あなたのために与えられているんですよね。もちろん因果の回収だけが目的じゃなくて、成長のためのハードルだったりとケースバイケースですが、すべてその魂のためのオーダーメイドなんですよ。  
だから文句言っても構いませんが、着手しない限りは肥大しますよ。

おお、あと忘れるところだった…。
ツインレイに取り組んでいる方で、相手への闇感情が出てきたら、そいつを否定しないでください。「自分の中に、彼への闇があるんだ」って認めてください。
「ツインの彼が浮気したから憎い」はおそらく二次的です。もっと根底に深い闇があって、浮気は「憎しみ」の答え合わせ現象だと思います。根底まで潜ってください。行けるところまで行ってください。

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