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第160話 隣り合わせのマトリックス


「ねぇけーこ、アンカー外すってどうすればいい?」

「いや今回は、建物の中に入っちゃえばそれでいいと思うよ。
それより行きたくねぇー。さっきからアウェー感が半端ねぇ。本っ当ひみはルンルンしてるよね。」


 高次元と自分たちとのやり取りの正誤は、向き合っていれば肌感覚として自ずと掴めるようになってくる。けーこがアウェー感を感じ、尚且つ私の足取りが軽い時。それは間違いなく“正解”していることを表していて、だからこそけーこからは冗談混じりに睨まれた。

 地下駐車場からエレベーターとエスカレーターとで建物内を上がっていくと、その『船』に対するわくわく感が止まらなくなった。音楽ホール自体は複合商業施設の最上階。構造上、せり出したホールの一部が空中階から見える造りになっていて、そこにちょうど、湾曲した船底としての意匠が凝らされていたのだ。

 その見事な曲線に、これだったのかと納得した。大晦日の満月の深夜、スサナル先生のエゴセルフの案内を受けて訪れた時に見た宇宙帆船と、殆ど同じ大きさ、角度でそれを見上げた。ちょっとだけ込み上げてくるものがあった。

……

「ほらひみ、もう帰るよ。」

 けーこの声に、「あとちょっと。」と言いたいところだったけど、私の場合ちょっとどころではなく永遠にこの船を眺め続けてしまいそうな気がしたので、大人しく言うことを聞いて駐車場へと戻ることにした。この建物にいるだけで船に乗っている気分の私は、すでに一時間近くを過ごしても飽きるということがなかった。
 その時パッと振り返ると、すれ違った人のトートバッグに帆立の貝殻が描かれているのが目についた。船の帆立て。少し気になった。


「えーいおつかれ。
あのさぁひみ。帰り、もう一か所って寄れたりする?
あのね、ちょっと前に夢で、私タケくんのこと置いてきちゃってるんだよね。二人で一台の自転車に乗ってたんだけど、途中でチャリごと放置して一人で帰ってきちゃったんだよ。
行けばなんとなく“この辺”ってわかるんだけど、その場所経由で帰ってもらうことってできる?少し、探しながらになるかもしれないけど。」

「オッケーいいよ。じゃあナビ無くてもけーこに案内任せていいかな。出発しまーす。」

「お願いしまーす。」

 けーこの記憶を頼りにおおよその場所まで行くと、「そうそう、この辺この辺。」と、彼女の夢と現実とが重なり始まった。

「ここの、A大のグラウンドの……。あ、その辺り。」

!!

 ドーンと、脇腹に衝撃を受けた。
けーこがタケくんを落としたという場所の横を通った瞬間、まさにエネルギー砲とでも呼ぶべきものが塊となってぶつかってきた。
 久しぶりに、高速で両目にチカチカと光が射していて、足やらお腹やらで受け取ったエネルギーもじわじわと痛み、ちらっと隣の様子を伺うと、同じくけーこも悶絶していた。

 なに今の!これタケくん?

 二人して受けた衝撃に半分やられながら、それでも気をつけながら運転してけーこを家まで送ると、お互いにそれぞれ落ち着ける環境下でザッと浄化をしてからスマホの通話を開始した。
 けーこと私の浄化とチャネリングとで、私たちがさっき拾ったのは『タケくんの悲しみや淋しさ』という感情だということが判明した。表向き、涙の感情を持っている様子など普段は見せないタケくんだけど、彼もまた奥には闇を背負っていた。そして後々になるにつれ、彼は時々けーこに対してそんな闇感情の所在を訴え続けていたことが段々とわかってきた。

 “夢”とはいえ、次元によって棲み分けているだけの話であって、三次元も四次元も五次元も過去も未来も、実際には同じ座標を共有している。
 だからこことは別の場所に住んでいるタケくんだけど、夢の中でけーこの幽体に置いていかれたことによって、元々奥にあった悲しみが地縛霊のように“そこの場所”に絡まってしまっていたのだ。


「A大タックル。」
けーこはそう名づけた。

 スサナル先生の闇の一部をけーこが世話をしたように、タケくんの闇の一部もまた、今度は私が浄化した。思い返すとけーこがタケくんに出会ったのは、太陽暦の十二月十二日。そしてタックルを受けたのは、今度は旧暦十二月十二日の出来事だった。

 こうして少しずつ、私自身もタケくんの意識と繋がるようになっていった。


(参考)
第154話 『光の彼と三種の神器』

written by ひみ

⭐︎⭐︎⭐︎

実話を元にした小説になっています。
ツインレイに出会う前、出会いからサイレント期間、そして統合のその先へ。
ハイパーサイキックと化したひみの私小説(笑)、ぜひお楽しみください。

⭐︎⭐︎⭐︎

いや、けーこと二人、吹っ飛んだのよ。
私たぶん、“人の想念”によってあれほど体がぶっ飛んだのは、後にも先にもタケくんが優勝だと思ってます。はい、タケ優勝。
そのあとは凄い勢いで体のあちこちから螺旋状に出ていく出ていく笑
『烈火』の時以来、慎重に運転しましたよ。

スサナル先生の闇はけーこも精神世界で浄化し、
タケくんの闇は私も現実世界で浄化しました。
なんとまぁ。
ツインレイがふた組『組まされている』と、こういう時に差がはっきりわかっておもしろいなぁと思ったりします。

けーことタケくんを傍目(はため)から見てるとやっぱ、現実面でのシンクロ率の高さが凄いなぁと思います。某得点が一緒とか、発言が被るとか目で見てわかる。
私とスサナル先生にはそれがなくて、出会いもビジョン、サイレント中のリアルな情報はほぼ皆無、彼のエゴセルフやハイヤーセルフが連絡網。

ほんとおもしろい。

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→第161話 誰にわかってほしかったの?

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