第214話 倦怠のうちに死を夢む
(けだいのうちにしをゆめむ)
プレアデスの崩壊から幾星霜ののちだろう。
スサナル先生の魂は、地球において一国の戦国武将として乱世を生きていた時期があった。
「騙された。民を守れなかった……。」
そしてそれは私の現し身。
「騙された。愛する星の人たちから故郷を奪ってしまった……。」
そしてそれは彼の闇。
彼が何故、負け戦となるかもしれないそのカルマを“敢えて”生きようとしたのか。
『私』という魂が負った傷を、私に代わり取り戻そうとしていたのだ。
それがわかって涙が出た。彼のことを馬鹿だと思った。
堕ちた私を救うため、一か八かの命に臨み自らも焼け野に佇むと、天には厚い覆いが掛かり泥濘(でいねい)は容赦なく彼を飲み込んだ。
……
双子とは闇まで平等。
複数の過去世、複数の感情体験を視れば視るほど知れば知るほど、『同じ闇』を『同じ量』だけ背負ってきていることがわかる。
するとまたそれを足掛かりに、今度は私の闇が噴き出す。それに気づくと絶叫する。
プレアデスを崩壊させたトラウマが自分の感情を蝕むと、私の魂とは長い歳月をかけて、今度は地球に対してこんな想いを抱くようになっていく。
もしまた彼らがやってきた時、地球がプレアデスと同様、私にとっての“弱み”だと気づかれてしまったら。
私がここにいることによって、地球のことも破壊されてしまうかもしれない。もしも愛する地球まで再び巻き込んでしまったら、私は二度と立ち直れない。
だから。
地球を決して愛してはいけない。絶対好きになってはいけない。私は地球を嫌いになろう。
『地球なんて……大嫌い!』
灼けるような吐瀉物が喉まで上がってくると、慌ててトイレに駆け込んだ。涙でぐちゃぐちゃになりながら、もはや空っぽの胃袋を殴られるようにして嘔吐する。止め処ない闇は肉体への手加減というものを知らない。
四、五日がかりでひと通り泣き晴らすと、頭上にプレアデス、そこから地には地球のエネルギーを一直線に通す。
すると、今まで私自身も気づかなかった本心にようやく出会うことができた。
……だからだったのか!
今までずっと地球で生きていることに対し、「いずれ宇宙へと帰る交換留学生」のような気分でいた。私とはいずれ、“本当の場所へと帰る者”。
けれども一番愛した蒼い星は今はなく、かといって一線を画した地球とは相容れない。
根無し草となった虚しさは常に、いつもどこかで死を望んでいた。
『死ねば、帰れる。』
ずっと死への憧れがあった。
納得と共にそんな呪縛が薄れたその日、彼女はどこまでも優しかった。母なるガイアはずっとこの日を待ち望んでいてくれて、殻に閉じこもっていた私に対する眼差しに、『私の安堵』がたくさん泣いた。
「お帰り。」というその声はあたたかく、やっとほんの少しだけ、私は彼女のゆりかごの中で地球人になることができた。
それからまるで赤子のように、信じられないくらいの長い時間を眠り続けた。
……
頭痛がする。
けーことあちこち出掛けてはいても、家に帰って一人になると著しく体調が変化する。
うっかりソファーで昼寝をしたあとの、気怠く重たい時間帯。そしてその日はいつの間にか、ぼんやりする私の頭と彼の記憶が同期していた。
「お前の意見より俺のほうが正しい。」
奥さんの助言に聞く耳を持たない先生の人格が顔を出すと、亭主関白を発現させることによりなんとか自分を保っていることが伝わる。
そこでより深く探っていくと、ほんの隙間の日光でさえも嫌う暗闇に籠城する、どんな悪役よりも悪魔のようなセリフを吐く黒い感情と対峙した。
「支配、支配、支配!」
あらゆるものを支配したい!
あらゆるものを蹂躙したい!
あらゆるものを服従させたい!!
誰よりも人当たりの柔らかい“スサナル先生”の核にいるまっ黒い感情は、それまでの彼の人生において満たされたことなど決してなく、貪っても貪っても埋まらない。
教室も奥さんもそのための道具。
しかし、何より一番憎いのは『私』。
私のことこそ支配したく、私のことこそ支配できず、その葛藤に懊悩(おうのう)している。
ガンガンする頭痛でこめかみを押さえると、真っ黒い怪物の真ん中に小さな男の子がいるのが視えた。その瞬間に申し訳なさと愛おしさとが込み上げる。
『支配欲』の鎧を被った男の子の両手には、『孤独』の二文字が載っていた。
※タイトル……中原中也の詩『汚れつちまつた悲しみに』より。
written by ひみ
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実話を元にした小説になっています。
ツインレイに出会う前、出会いからサイレント期間、そして統合のその先へ。
ハイパーサイキックと化したひみの私小説(笑)、ぜひお楽しみください。
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小説に書いていない私の過去世。
日本ではない国で、私は児童労働という搾取を受けていました。男の子だったこともありその時は性搾取はなかったんですが、代わりにストレスの吐け口として日常的に虐待も受けていました。
スサナル先生が子供の頃、とある悲劇に見舞われました。
彼はそのことを教室で自虐ネタとして喋っていて、知ってる人にはわかってしまうため内容までは書けないのですが(だから小説にできなかったのですが)、過去世の私への、当時の雇い主からの虐待の手段だった同じもので、今世の彼は危うく命を落とすところでした。
同じ体験を別の形でやっています。
あきらを産んだことでようやく少し「生きたい」と思うようになりましたが、あの子の入院があまりに絶望で、その時もいつも死ぬことを考えていました。
御嶽山の噴火や、フランスのテロがあった時期です。それが病院でも起こらないか、そしたらあきらと二人死んでしまえるのにとずっとそればかりを求めていました。
死ばかり追っていた私ですが、その後彼に出会いこのことを知った時は「生きててくれてありがとう」と思いました。
彼にも、私にも。
そんなことまで気づかせてくれるのがツインレイという双子です。
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→第215話 いつつとななつ
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