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第169話 曇りのち鶴のち花吹雪


「ひみ今度、私、鹿島に行ってくるよ。何かのトリガー発動だってさ。」

「鹿島神宮?いってらっしゃい。タケミカヅチによろしくね。」

……約三週間ほど前、けーこと私の間ではこんな会話がなされ、その数日後に彼女は鹿島の地を踏んできた。「誘ってもひみは行かないだろうな。」とけーこが思っていたとおり、その時鹿島と聞いても私も私で行く気がなかった。

 ところが今回、似たような会話が始まった時には私もけーこも少し違った。

「ひみ私、次は鎌倉に一人で行ってこようと思ってるんだけど……ひみも一緒行く?」

「鎌倉…………うん、行く。」

 それを聞いたけーこもびっくりしていたけど、「行く。」と返事をした自分にも、自分でびっくりしていた。


 ウエサクから十か月振りとなる“剣と勾玉の旅”、久々の目的地は鎌倉市の鶴岡八幡宮。川崎市の稲毛神社と、さいたま市の白山神社に行ったのが前回の最後になる。あの日出発前に降ろした船のアンカーも、少し前に引き揚げ済みだった。

 ここのところ少し春めいてきたとはいえ気温はまだまだ低く、パーキングに到着してから濡れたアスファルトに降りると、「今日もっと気温上がるって言ったじゃん。」とけーこが悪態をついた。“彼”に会うために選んだ私のフレアスカートも生地が薄くて寒さがこたえ、念のためにと手に持った傘とも相まって、二人して気温と格好とがチグハグだった。

 鎌倉といえば平日でも人出が多く、特に鎌倉駅と八幡宮とを結んでいる小町通りは普段は異常な混み具合なのだが、いいのか悪いのか今はゆったりと歩くことができた。
 その通りの終点から三の鳥居へ向かうと、まだ敷地の外だというのにご祭神のホムダワケさん(※)が既にニコニコと笑顔で迎えてくれている。それから一礼して鳥居を潜る(くぐる)と、「待ってたよ。」と優しい眼差しを寄越してくれた。スサノオであってスサノオでない彼は、ある意味“スサノオ本人”よりも甘い雰囲気の人だった。

 参道を右に外れ(それ)、先に源平池の橋を渡って旗上弁財天社へとご挨拶に行った。寒さで羽を膨らませ、丸まったまましゃがみ込んで動かない鳩たちの間を通り抜けていって手を合わせる。あまりやり取りができたとは言い難かったが、それでもイチキシマヒメは私を迎え入れてくれ、再び神社に来れたお礼は受け取っていただけたようだった。

 それからいよいよ階段を上がり、本宮へと歩いていった。さっきから、お会いできる喜びが漏れてしまい感情が抑えられなかった。
 手を合わせ、半分勝手に顔がにやけてしまいながら、それでも心を込めてご挨拶をする。

「ホムダワケさま、お久しぶりでございます。」

 すると不思議なことが起こった。
目の前に現れた太陽から一羽の鶴が飛び出してきて、まっすぐ私の身体の中を通過していったのだ。均整の取れた、美しい鶴だった。バサッと羽音が聴こえると、すり抜けたその瞬間、私の背中に天使の羽ならぬ“鶴の羽”が生えた様子が一瞬だけ視えた。

 思わぬビジョンへの感激と心地よい畏敬の念とでいっぱいになると、興奮しつつもすっと自分に芯が通る。お礼を述べて、意識でしっかり目を合わせてから彼の元を後にした。

 続けてけーこと二人、今度はまだ階段を降りずに、少し小高い場所にある丸山稲荷社へとやってきた。朱い鳥居と旗の並びがお稲荷さん特有の空気を作り出している。そしてまた、いつものようにご挨拶をしていく。

「ウカノミタマさま、お久しぶりです。またお会いできて嬉しいです。
あれから一度皆さんの世界から離れてしまい、申しわけ……(……謝罪、謝罪を……謝罪を……)」

 心の中で“私”が喋ろうとしている言葉に被せるように、私自身の内側から別の声が聴こえてきていた。

 ん?「謝罪、謝罪」ってなに……?
ああ!これは私が四次元を切り離してしまったことで、神様たちであっても実は深く傷つけていたってことだ。さっきのイチキシマヒメを感じられなかったのも一番はそういうことだったんだ。
 だからここは今、私が自分の言葉でしっかりと謝らなくちゃいけないところなんだ……。

 それに気がつき、心を整える。

「ウカノミタマさま。それから多くの神様がた。
私があなたや他の神様たちを疑い、切り絵からお守りから全て処分してしまいすみませんでした。一方的に四次元を否定し、いきなり拒絶して嫌な思いをさせてしまってすみませんでした。悲しい思いをさせてしまって、本当にすみませんでした。」

 視界にパッと花吹雪が舞った。
それまでとは打って変わり、目の前のウカノミタマは泣き笑いの表情を浮かべていた。
 舞い散る花の中、『寿ぎ(ことほぎ)』の言葉と共に金色の打ち出の小槌をいただくと同時に、続けて彼女からとんでもないことを言われてしまった。

「あなたは私の憧れです。どうか、『憧れ』らしくあってください。」

 よりよりきまり悪く、座りも悪く、申し訳なさでいっぱいになった。
 たとえ高次元の存在だって、否定されれば悲しむのだと、その当たり前に気づけなかった自分を反省した。

 私の至らなさを教えてくれたウカノミタマにたくさんの感謝をしながら再び鳥居を潜ると、少し遅めのお昼を食べに小町通りへと降りていった。風が少しだけ強かった。





※誉田別命……以前も書きましたがこの方はなぜか私の中で「さん付け」です。全国の八幡宮で、応神天皇(おうじん天皇)として祀られています。



written by ひみ

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実話を元にした小説になっています。
ツインレイに出会う前、出会いからサイレント期間、そして統合のその先へ。
ハイパーサイキックと化したひみの私小説(笑)、ぜひお楽しみください。

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こないだちょうど、ユニバースとマルチバースをスクリーンに喩えましたが、神社もそんなかんじですよね。
混んでる時なんてたくさんの人が同時に参拝してますけど、一人一人、それぞれ違った遣り取りをしています。
自分の周りで自分と同じように手を合わせて目を瞑っている参拝者が、お願い事をしているとは限らない笑

とはいえ最近では、神様や仏様たちの方から私らに向かって砕けすぎ!
特にけーこはかなりな冗談を言われる頻度が高く、手を合わせた瞬間にしょっちゅう私の隣で吹き出してます。

時々アメブロにどんな遣り取りがあったか書くけどね。最近はそっち系のネタ、あんまり書いてないけど、無い訳じゃない。むしろある笑
気が向いたら書きまーす。

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