コンビニ店員

母子家庭の一人っ子(カギっ子)で、しかも母親とは仲良くなく育った私は、
小学生の頃から『専業主婦』に憧れていました。
小学校の卒業文集に将来の夢を書かされたときには、仕方なく、なりたいわけじゃないけど特技を活かした職業を無理やり書きましたが、中学生のときには、はっきりと『専業主婦』と書きました。

私がこどもの頃には母子家庭は少なく、
テレビ番組には家族物のドラマやアニメが多く、
なにより、放課後に友達の家に遊びに行くと、家にいる友達のお母さんがおやつや飲み物を出してくれて、一緒に話を聞いてくれることが本当に嬉しく羨ましく、私はこんなお母さんになりたい!と理想ばかり強くなっていきました。

しかし実際に自分が『お母さん』になってみると、理想の生活をするためには何よりもまず『お金』が必要でした。
夫の給料のやりくりには日々苦戦していて、かといって働くとなると、こどもを一度入園させた幼稚園から保育園に転園させることが必要だし、そのためには、手続きが面倒だったり、待機の時期の問題があったり…

でも、夫の転勤・引っ越しをきっかけに、ずっと夢だった専業主婦は諦め、こども達は保育園に入れて働くことにしました。
パートタイマーなら、幼稚園が終わるのと同じくらいの時間に保育園に迎えに行くことが出来る。
それなら夢を諦めた自分への罪悪感も感じずにすむ……

短い時間で働ければどこでも良かったのですが、牛乳配達の大変さを経験した私は、『屋根がある・どんな天気でも仕事には関係ない・お客さんのところに自分が行くのではなく、お客さんが来てくれるところ』だけは譲れないと思いました。

自宅近くにコンビニがあったので、早速電話をし、面接に行ってみました。

優しそうなおじいちゃんが、履歴書を見て「お子さんはうちの孫と同い年だわ」とか、「母子家庭で双子の男の子を頑張って育てながら働いてくれてる人もいるよ」などと言い、すぐ採用してくれました。
元は酒屋だったそうで、家族で経営しているコンビニなのでした。

お客としてコンビニに行ったことしかもちろんなかったわけですが、
やることや覚えなければならないことが想像以上にたくさんあり驚きました。
レジや品出しの他に、コピー機やコンビニに設置されている機械の操作方法も覚えなければなりませんでした。

1日4時間程度の就業時間でしたが、
接客し、
ホットスナックを補充し(つまり揚げ物を揚げ)、
トラックが来ると、届いた商品をスキャンしてから日付を確認しながら棚に並べ、
暑い日や寒い日はドリンクがよく売れるので補充し、
1回は必ずトイレ掃除をし、
当時は外に設置してあったゴミ箱のゴミをまとめて倉庫に運び新しい袋をかけ、
ちょっとの時間も棚や床掃除をし、
廃棄時間になった商品をよけ、
レジ締めなどしていると、あっという間に時間は過ぎました。
幹線道路沿いにあり駐車場が広かったそのコンビニでは、お客が途切れるということがあまりなく、通常はパート2人と店長という3人体制でありながら、店長は全く動かなかったため、パート2人ですべてをこなさなければなりませんでした。

お店の裏には住宅街があり、コピー機などを利用する人もそれなりにいて、
やれ紙がつまったの、操作方法がわからないだの言われると、もう大変でした。
改めて考えてみるとかなりの重労働で、時給は馬鹿馬鹿しいくらい安かったです。

今でこそ、ガムや飲み物だけという場合にはテープだけはって商品を渡すのが当たり前になりましたが、小さなガムひとつでも小さなビニール袋に入れていたその時代に、その店では
「できるだけ一つしか物を買わない人に袋はあげないで」という方針でした。
世の中のごみ問題が気になっていた私は、最初は
「素晴らしい!」
と思いましたが、
コンビニでの買い物とは思えないくらいたくさん商品を買ってくれた場合でも
『できるだけ小さい袋に』
『袋には入るだけ詰める』
というただのケチで、お客さんから
「これじゃ重くて持って帰れない」とか「持ち手に手が入らない」
と苦情を言われたことが何度もありました。
それを予測して、お客さんがいくつものペットボトルの飲み物を買ってくれた場合などに、大きな袋や2つの袋を使って商品を入れようものなら、すぐにもう1人のおばあちゃん(オーナーの奥さん)にしつこくブツブツ文句を言われるのでした。

面接をしてくれたおじいちゃんがオーナーで、この人も柔和な顔をしているもののかなり気分屋でした。
奥さんは、私や他のパートやバイトと一緒にシフトに入っていました。
息子が店長でした。
面接のときに『孫』と言っていたのは外孫で、店長は独身でした。

この店長がかなりの変人で、対面恐怖症なのか、1日中バックヤードにいて、全く接客はしませんでした。
バックヤードで何をしているかというと、ずっと店内のカメラの様子と、パソコンを見て、何が売れたとか、〇〇が残りあと何個だとか、常連さんがまた同じ物を買ったとか、そんなことばかりブツブツ言っていました。
1日中です!毎日です!
休む日などあるのだろうか?と思うほどいつも店にいました。
レジにお客さんが並んでいてもなかなか出て来ず、どうにもならずに呼んだり、お客さんが機嫌が悪くなってきた様子などを見て、やっと仕方なくバックヤードから出てくるのでした。
接客に慣れていないため、声が上ずってしまい、レジも間違えたりしていました。

この店長とオーナー親子は仲が悪く、従業員に言うこともバラバラでした。
例えば、オーナーにはトイレ掃除は床に水を流すように言われ、店長には、床が濡れていると店内の床も汚れるから水は流すな、と言われました。

その店では、お客がいなくて暇な時間にも、ただ立っていることは許されず、
常に商品棚を拭くように言われていました。
ただ雑巾で拭くだけではありません。
棚の商品を一度カゴに入れ、棚を外し、洗剤を吹きかけ、濡れた雑巾で拭き、雑巾はバケツに用意した水ですすぎ…

おかげで店内は常にピカピカ。
「毎日ここまでする必要ある?」と思っていましたが、一緒に働いていた人達は皆人が好く、文句も言わずに毎日やっていました。
人を見る目はあるオーナーだな……と感心したものです。
5年以上働いているのに、全く時給が変わらないことに何の疑問も持たずにほぼ毎日出勤している人もいました。

廃棄弁当はその当時は絶対捨てなければならない物でしたが、何せケチなオーナー家族は、自分達の食べたい物をとった後には「本当はダメなんだけど好きなの持ってっていいよ」と言ってくれ、それは助かりました。
おにぎりなどは冷凍しておけば、どうしても食事を作る時間がないときに温めるだけですみました。


ところで、
働いているコンビニと同じコンビニに自分がお客として行くと、つい品揃えや棚の汚れなどが気になるようになりました。
ある日、お客として行ったコンビニにもかかわらず、お客が入店したときに鳴る音に反射的に「いらっしゃいませ!」と大きな声で言ってしまったことがありました。
店の奥で周りに人はいなかったので、誰にも見られませんでしたが、そこの店員はさぞビックリしたことでしょう。
自分の店でそんなことがあったらと想像するとおかしくておかしくて、何も買わずにニヤけながら店を出ました。

最近になり、テレビ番組で、コンビニで働いている人が同じことをしてしまった話をしていたので、コンビニ店員あるあるのようでとホッとしました。

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