格安ラーメンチェーン店

離婚する際、私達家族は、
夫と長女、私と次女
というふうに、2人ずつに分かれることにしました。
理由はまた別の機会に記すことにします。

とにかく、次女と2人だけの生活が始まりました。
快適なことこの上ありませんでした。
次女は赤ちゃんのときから、常にご機嫌なこどもで、
いつもニコニコしていて扱いやすく、
それでいてしっかりしていたので、
ストレスになることなど何もありませんでした。
夫が帰ってくる心配もなく、
毎日好きな物を食べ、
週末は家に友達を呼んだり、
友人家族と外食したりして過ごしました。
自分の稼いだお金を、自分の好きなように使えることも快適でした。

しかし、しばらくすると
「あれ?このままじゃ貯金もすぐになくなっちゃうぞ?」
と気づきました。

離婚する前から働いていた飲食店の他にも、
何か仕事を探そうと思いましたが、
『労働時間が被らないような時給が高い仕事』
を探すと、どうしても深夜の仕事しかありませんでした。

母子家庭で育った自分が子供の頃、
母が飲み会などで夜に出かけてしまい
1人で就寝しなければならなかったとき、
とても不安でした。
自分が嫌だったことや辛く感じたことを、
自分の子供にはさせたくないし、感じさせたくない。。。
そう思いながら子育てをしてきましたが、
『貧乏でいろいろ我慢する暮らし』と、
『週に数回寂しい思いをさせてしまう』のと、
どちらがいいだろう……と考えた時、
『貧乏は欲しい物を我慢するだけじゃなくて
普段の自分がイライラしてしまうな、
そっちの方が嫌だな』
という考えが勝ちました。
自宅から車で5分程度のお店なら
「あそこでお仕事してるんだ」
と娘も想像もしやすいかと、
近くの格安ラーメンチェーン店に早速電話をし、面接に行きました。
感じの良い女性の店長で、採用してもらえました。

数日後からすぐに仕事に行き始めました。

そのチェーン店は夜中の2時までの営業で、
私はその深夜時間のシフトを希望したのですが、
深夜はホールを1人で回すため、まずはランチ時間にシフトに入り、
仕事を覚えて欲しいと言われました。

オープン時間の1時間前に出勤し、まずは掃除。
店内全部に掃除機をかけ、テーブルと椅子を拭き、
外に出てのぼりを立て、外側の窓の桟を拭き、
トイレ掃除をして、何本もあるピッチャーに氷と水を入れ…

これを1時間で1人でしなければならず、
毎回息をきらせて汗だくでした。

初出勤の日、店で会うスタッフは全員が初対面だったわけですが、
その全員が、私の本業や年齢や家庭事情を知っていました。
個人情報保護法ができたばかりの頃でした。
今では考えられないことですし、
まだ世の中にそれが浸透していないとはいえ
スタッフ全員に、新しく入る人がどんな人なのか知らせる必要がある?
と、初日から店長に不信感を抱いてしまいました。
また、店長は面接のときに
「この店はオープニングスタッフがほとんどそのまま残っていて、みんな仲がいいんだよ」
と話していたのですが、
そこへ後から入ってきた私には、すべての人が
『よそ者』
という態度でした。
何かいつもと違っていることや、仕事のやり残しやミスがあると、
すべては私のせいにされます。
「こんなこと他の人はしないんだよね」と。
証拠もなく。
また、自分と違う動きをすることが許せないという感じのおばさんがいて
ピッチャーに氷と水を入れる入れ方や、
お客に出すためにグラスに水を汲むときの汲み方にさえ、
いちいち口を出されました。
水が入ってりゃなんだっていいでしょう…
と思うのですが、1日中監視されていて、
私の一挙手一投足がすべて気になるようでした。
そして、出勤した日の私の様子を、
スタッフの皆で報告し合っているようでした。

このチェーン店は、
昼間だけ、夜だけ、どちらもできる、
平日のみ、土日のみ、どちらもできる、
ホールのみ、キッチンもできる、
など、仕事のでき方によって時給が違うようで、
働いているパートのおばさんも、
「あたしは出来るのよ!」という気迫のようなものが感じられる、
気の強い人が多いお店でした。

その店の近くには、国立大学がありました。
なので、アルバイトの学生も、その国立大の子が多くいました。
学生達は、私と2人だけのときには話をするのですが、
他に誰かがいると明らかに
「話しかけてこないで」という態度でした。

その店では、出勤日に(給料差し引きで)250円を払うと、
メニューの中から
ラーメン1食・餃子1食・ご飯もの1食を選んで食べることが出来ました。
まさに、1人暮らしの学生にはありがたい話です。
ですが、1人暮らしどころか自宅通いの細身の女子学生が毎回
ラーメン大盛と餃子2人前と普通サイズのチャーシュー丼等を頼むのです。
もちろん、そんなに食べきれるわけがなく…
「普通盛のラーメンと餃子1人前とご飯もセットの半分のものにすればいいんじゃない?」と言ってみると
「どうせ食べきれなかったら残せばいいことなんだから、
頼むときはMAXでいいんですよ」という返事。
こんな子達が世界の未来を考えられるのか?
と、とても不安になりました。

中国からの留学生もいました。
ある日、休憩室でその男子留学生と2人だったときに突然、
彼は私の本業に関する問題を出してきました。
突然すぎて「え?」と戸惑っていると
「答えは〇〇だよ!!そんなこともわからないのか!!」
と怒鳴ってきました。
私はその男とあまり一緒のシフトになったことはなく、
迷惑をかけたことも怒らせるようなことをしたことも記憶にはなかったので、他の人達に私がどんなことを言われているのか、
何となく想像が出来ました。

その店の副店長は20代後半の若い男性で、
主にその人は深夜時間担当でした。
スタッフの誰とも仲良くはなく、信用もしていない様子。
いつもやる気がなさそうで、一匹狼のような態度だったので、
私は逆にその人を信用することが出来ました。
少なくても、他のスタッフと私の噂話や陰口を言ったりすることはないでしょう。
ホールの仕事に慣れて、深夜の時間に入れるようになると、
たいがいはその副店長がキッチンに1人、ホールは私1人で、
とても気楽でした。
たまに入る他の深夜スタッフも、昼間の学生達とは違い、皆親切でした。

でも、深夜はとにかくお客の質が悪いのです。
格安ラーメン店なので、それを食べることが楽しみな人というのは、
やはりお給料もそれなりなのか…
また、普段自分が職場で受けている扱いを、
自分が他の人にしてみたいのか、
とにかくクレーマーが多いのです。
「なぜ?」と思うことで突然キレだし、
大声で怒鳴り、謝ってもしつこく同じことを言い続けます。

月に2回程、どこかの店で飲んでから来店する、2人組がいました。
2人とも60代くらいのおじさんでした。
1人は店に到着した時点で足元もおぼつかないほど泥酔していて、
1人はそれほどでもありません。
おつまみになるような餃子やトッピングと、アルコールを注文します。
そして支払いは毎回泥酔おじさん。
そして、泥酔ではない方が、領収書を要求します。
タクシーをよび、泥酔おじさんだけを無理やりそれに押し込めるように乗せて、泥酔じゃないおじさんが運転手に行き先を告げるのです。
おそらく来店する日は、泥酔おじさんのお給料日なのでしょう。
2人がどういう関係なのかわかりませんが、
泥酔おじさんが抵抗してなかなか財布を出さないことがよくあり、
それでももう1人の方は「早く支払え」というように促しながら待ち、
こちらもホール1人で忙しいのにそれを待ち、
毎回とても嫌な気持ちになりました。

スタッフも客も、なんて嫌な店なんだろう…

だんだんそう思うようになり、出勤日が近づくと気分が重くなるようになりました。

ある日、副店長が休みで、代わりに店長が深夜時間のキッチンに入った日がありました。
深夜時間のちょっと前にいた学生が仕事を上がると、
学生を追いかけるように休憩室に入っていった店長が、なかなか表に戻ってきません。
店には次々とお客が入って来て、私は1人で注文を聞きオーダーを入れるのに、作る人がいないのです。
店長を呼びに行くにも、ホールは私1人なので、
客を放置するわけにもいかずアタフタしてしまいました。
とりあえず数組の客を座らせて水を出し、オーダーを入れて休憩室へ行ってみると、アハハオホホと笑い声が…
オーダーがたくさん入ってしまっていることを伝えると、
店長はあわてて出て来て、ラーメンを作り始めました。
その店は、オーダーが入ってから〇分以内にラーメンを出さなければならない、という決まりがあって、その時間を過ぎてしまうと、
なぜ過ぎてしまったのか理由を報告しなければならないようでした。
いくつものオーダーが時間を過ぎてしまい、店長に、
なぜもっと早く呼びにこなかったのかとキレられたときに、
私もプチッと何かが切れた気がしました。
そしてその数日後、
今度は副店長が、自分のミスを私のせいであるかのように舌打ちしてきました。
唯一信用していた人にそれをされ、私はその店を辞める決心をしました。

ところが、
辞めたい旨を伝えると、
店長はどうしても辞めないで欲しいというのです。
私のことが嫌いなくせになぜ…?
シフトを減らしてもいいから、在籍はして欲しいと。
ある日、仕事終わりに、副店長に食事に誘われました。
深夜の仕事終わりですから、食事と言っても24時間営業の牛丼屋でした。
そして、仕事を辞めないように説得されました。
店長に頼まれたようでした。

辞めたい仕事をスッキリ辞めることが出来ず、
毎日気分がどんよりしてしまいました。
店長からは何度も電話があり、
「月に1回だけでいいし、短い時間でもいいから」
と言うのです。
それで私はピンときました。
保険屋と同じ仕組みなのでしょう。
スタッフが辞めると、店長としての評価が下がるのだと思いました。
私が月に1回3時間出勤するなら、
その分誰かしらが1日多く出勤すれば、それで済むはずなのだから…

どうしても入れられてしまった出勤日が近づいてきたとき、
深夜のシフトに私と交替で入っていたおばさんが働くコンビニに行ってみました。
真面目な私は、仕事に行きたくなくても、
黙ってすっぽかすことは出来ませんでした。
おばさんに、私の出勤日に代わりに出て欲しいと頼むと、
彼女は快く引き受けてくれました。

それでやっと店長も諦めがついたようで、そこを辞めることが出来ました。

今まで働いた飲食店の中で、
ワースト1の店でした。


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