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人材採用において、“学習障害・発達障害・グレーゾーン”とどう向き合うか?人材の雇用と脳の働きの多様性〜ニューロダイバーシティ

とある面接において・・・

 とある企業において、マーケティング組織の組成に関わっている関係で、毎月100件以上の履歴書や業務経歴書を見ている。そしてそこから絞った人たちについて、面接官として面接する側に座ってる。

 先日、

「データとかを見てずっと分析してるのが楽しい」

「けれども、他の人と大人数で会議とかするのが苦手」

と正直に話す30代前後の男性を面接した。

 この男性について、協調性やチームワークという側面をもって考えると、きっと多くの人はNGを出して次に進めることはしないだろう。

 そうした“苦手”の原因は、本人の話し方や本人自身がそのような話をしていたこともあり、発達障害・学習障害・グレーゾーンに属した特質を持っているからだということがわかった。

 しかし色々と話をしていると、データの扱い、分析においては人が嫌がることもやるタイプで、仕事への向き合いは真面目で、過集中なことがあるくらいだろうということも理解できた。

 面接後のレビューにて、正直、他の面接官はあまりいい評価をしてなかった。上述したように“普通”の定型的な見方を持ってすれば、他の面接官の評価も納得できる。しかし、面接後のディスカッションにて、私のコメントや考えを共有することによって次に進めてもらえることになり、今彼は順調に進んでいる。

「ニューロダイバーシティ」

 さてこの文章にたどり着いて読んで頂いてる皆さんは、この記事の表題にもしてある「ニューロダイバーシティ」という言葉・概念をご存知だっただろうか?

 私が面接後のレビューで他の面接官と共有したのは、この「ニューロダイバーシティ」と、この視点から見た男性のスキル・可能性について私の見立てだったのである。もしこの説明をもって理解を得られてなかったら、おそらくこの彼は次に進むことはできなかったであろう。

 「ニューロダイバーシティ neurodiversity 」とは、簡単に言えば、そもそも脳の働き方は人それぞれに違いがあり、発達障害や学習障害に分類される自閉症やアスペルガー症候群なども「多様性の一つ」である、という考え方である。その言葉の通り、neuro 脳の神経の - diversity 多様性 に対するものだ。

 なので、“多数派”と考えられる「定型的な」(つまり“普通”と一般的に言われる)脳の働きを持つ人も、落ち着きがない、社会性がないといった、発達障害や学習障害という(一般的に“障害”という名付けのもとに“障害”であると考えられている)脳の働きを持つ人も、どちらも同じく多様で違った働きをもった人々なのであり、どちらが優れていて、どちらかが劣っているという話ではない。それが「ニューロダイバーシティ」という概念である。

 この"neurodiversity" は、もともとは社会学者である Judy Singer の論文によって1997-1998年にまとめられた言葉である。

 以下の "Disability Discourse"の7章に収められている、‘Why can't you be normal for once in your life?’ From a ‘problem with no name’ が今手に入るもののうちでは、原点・原典と言えるだろう。

 Judy Singer自身がアスペルガー症候群を持った一人であるが、その生きづらさをもとにして、それを個人の病ではなく、社会学的な視点を持って、disability discourse (障害者に対する言説)として扱ったのがこの論文である。興味がある人はぜひ読んでみるべきだと思うが、その内容も含めて次の一冊が本の数年前に発刊されているので、最初はこちらを手にされる方がいいかもしれない。

 また、日本人研究者が書いた日本語で読めるものとして、村中直人先生による以下の本や、

つい先月(9月)に翻訳本が発売された、Mona Delahooke の "Beyond Behavours" なども参考になると思う。

「ニューロダイバーシティ」と企業・組織・人的資本

 上に挙げた「ニューロダイバーシティ」の本や関連する多くの論文は、心理学者や社会学者、教育学者によるアカデミックなものも多いが、この考え方はすでにビジネスの世界においても切り離せない概念となってきている。

 例えば、多国籍企業として各国文化に対応した組織マネジメントを推進し、そして性差を超えた雇用・働き方について常にいち早く動きを見せ、いわば、色々なダイバーシティ対応のベンチマークとも言えるIBMの場合。

 IBMでは、すでにニューロダイバーシティな人々の雇用と能力発揮の場作りを始めている。

また、HSBCも同様に neurodiversity  への対応をプロジェクトとして推進している。

他にもこちらの文章にあるような企業が、neurodiversity に対して積極的なのである。

 もちろん我々が、いきなり IBM、HSBCや上に挙がってるような企業がやっていることを真似てそのままできるわけではない。

 しかし、少なくとも「ニューロダイバーシティ」という考え方について正しいと考えるなら、私の視点では面接をした件の男性を落とすべき理由は何もなかった。

 もちろん、そうした“特質”を理解した上で、業務を渡す、まわりの人々との付き合い方をサポートするという必要はあるだろうが、面接をした彼自身の能力を見ると、いわゆる定型的な物の見方をもってして落としてしまうのは勿体ない気がしたのである。

 もし、発達障害や学習障害・グレーゾーンと言ったものへのネガティブな認識が、そうした“特性”を持つ人々の“能力”を買わない理由になっているとしたら、これは社会的な人的資本面でおおきな損失と言わざるを得ない。

 そしてその損失を発生させてしまうのは、「定型的」でなければならないとする、我々の“普通”を重視する思考そのものにあるだろう。

 なので、「ニューロダイバーシティ」という“見方”を手に入れて、脳の働きの違いによる多様性を認識し、受け入れるようにしようではないか。

 ニューロダイバーシティとは、人はさまざまな方法で周囲の世界を経験し、相互作用しているという考え方であり、考え方や学習、行動の「正しい」方法は一つではなくその違いは多様であり、(この概念においては)そうした違いを欠陥と見なすことはありません。
 Neurodiversity describes the idea that people experience and interact with the world around them in many different ways; there is no one "right" way of thinking, learning, and behaving, and differences are not viewed as deficits.

Nicole B. and Julia F. (2021), What is neurodiversity?, Harvard Health Publishing, HARVARD MEDICAL SCHOOL 

  最後にもう一冊。実務家にとっての「ニューロダイバーシティ」への入り口としては、もしかするとこれが一番良いかもしれない。


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