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Patient Voice /患者と医師、それぞれに必要な情報とは

難病や希少疾患を抱える患者さんをゲストにお招きし、診断や治療でのご苦労、日常生活のこと、患者さん一人ひとりのナラティブをお話いただくトークイベント「Patient Voice」。

本企画はMediiで働くメンバーが、医師の先にいる患者さんを強くイメージしながら、Mediiが掲げるミッション「誰も取り残さない医療を」の達成に向け取り組んでいくための理解の場として、全メンバー参加のオンライン社内イベントとして定期開催しています。

第1回目ゲストにはクローン病と診断を受けてから約15年、そして医師になってから10年と、患者でもあり医師でもある両者の視点をお持ちの大野洋平さんを招き、前編では診断を受けるまでのお話、そして診断後の気づきや難しさをお話いただきました。

本記事では、「いま、医療業界とMediiに期待すること」をお聞きするとともに、Mediiメンバーとの意見交換による医療業界の可能性について話された模様をお伝えします。

診断まで6年、診断から15年、見えない病気を伝える難しさ

大野さんはクローン病と診断を受けるまでに6年という長い時間がかかりました。診断がつくまでずっと症状を訴えても、だれも取り合ってくれなかった、だれも原因を教えてくれない中で大きな不安を感じ続け、診断を受けた時はとにかく「ほっとした。」と言います。
診断を受けてから現在まで約15年の間には、症状と薬と付き合いながら生活をするため“勉強と経験”を繰り返しています。その中で感じた、また今も感じている「苦痛」について4つに分けて前編ではお話しいただきました。ぜひ前編から読んでいただけると幸いです。

医療業界とMediiへ期待すること

大野さん:
「Mediiのみなさんには『情報の収集と提供』をぜひお願いしたいと考えています。薬ひとつをとってみても、飲み始めがあれば飲み終わりもあると思います。

私の今の治療薬のお話になりますが、錠剤の治療薬、漢方薬に栄養剤、自己注射のバイオ製剤の4種類を使ってまして、一年間にかかる金額を調べるとおよそ250万円ほどかかっています。

もちろん難病の申請ができるので自己負担はこの数十分の一なんですが、それでも薬価としてはかなりの金額になっています。平成30年に指定難病に対する医療費助成の制度も変わってきており、少し厳しい方向に向かっています。軽症の人だと非該当になってしまい、薬価が3割負担になる可能性があるんですね。そうなると経済的負担が大きく変わってくるので、私も色々と勉強をしました。

こうしてみても、『いつまで薬を使わなければいけないのかな』という不安は常に付きまといます。そこで、薬剤の中止や減量をした場合の影響なども情報提供してほしいなと感じています。例えば、ヒュミラの場合は中止後の一年で再発率が約5割というデータが出ており、こうした情報がわかると薬を継続するかもモヤモヤ悩むのではなく、しっかりと検討することができます。

薬剤の研究情報のほかに、患者さんの声なども収集して伝えていただき、患者のサポーター企業になってほしいなと思います。

そして、精神的苦痛とスピリチュアルな苦痛についてお話ししたように患者の心理というのは複雑なところがあります。食べない選択を尊重するとか、食べられる可能性を模索するとか、そういった患者の視点を知っていただき、適度な距離感で患者さんに頼られる存在になっていただければ一番ありがたいと思っています。」


大野さんのお話を伺った後に、Mediiメンバーとの質疑応答と意見交換の時間をいただきました。患者という立場から、自分自身の見解と合わせた診断に関する質問や、医師としての立場から診断当時に対するディスカッションなど、多様なバックグラウンドを持つMediiメンバーと大野さんの活発な意見交換を少し抜粋してご紹介します。

なぜ診断可能な医師まで患者がたどり着かないのか?

お話を伺って第一に挙げられたのが、診断まであまりに長い時間がかかってしまったことへの課題感です。診断まで約6年がかかった大野さん、またMedii代表の山田も難病診断までに9年がかかっていることからも、「なぜ診断まで長い時間がかかってしまうのか」が掘り下げられました。
大野さんの経験をもとに考察されたのは大きく2点。

一つ目に「症状の重さ」です。腹痛や下痢といった症状はあまりに一般的な症状であり誰しもが経験するであろう症状です。誰しもが経験する症状が一般的な風邪などの症状なのか、クローン病の症状なのかは、クローン病である確率から考えても診断するのは難しいです。
よほど重症な状態で初診を受けない限り、積極的にクローン病とは疑われない場合が多いのかもしれません。

二つ目に「疾患自体の認知度の低さ」が挙げられました。当時クローン病は今以上に患者数が少なく、疾患の情報が医師に広く知られていない状況でした。患者数が少ない難病や希少疾患の場合は、情報の少なさも診断の遅れにつながっているようです。

専門医が診察していたらもっと早く診断できたのか?

では、クローン病に詳しい医師が当時の大野さんを診察していたら変わったのでしょうか?専門医が診ていたとしても診断は難しかったのでしょうか?大野さんに意見を伺います。

大野さん:
「どうでしょう…。ただ、医師の方がもう少し詳しく突っ込んで聞いてくだされば、当時10代だった私はもっと症状に関して具体的に言えたんじゃないかと思います。例えば、丸1時間トイレに籠ってしまう状況や体重が5キロ落ちてしまっていることなど、長期間生活に支障をきたしていることが把握できればただ事ではないと察してくれたのかもしれません。

私の時は、大学に入ってから5軒目のクリニックの先生が初めて肛門鏡という、腸を直接見る検査をしてくれたんですよね。それまでの診察では問診だけで整腸剤を処方され終了、となるばかりで検査はありませんでした。やっと、私の症状を医師に伝えられたんだなと感じました。」

きちんと病歴を把握することの重要性が挙げられましたが、どうすれば医師の立場で実際の症状や困っている状況を患者さんと共有できるのでしょうか。

また、きちんと病歴が把握される必要に加え、Mediiの医師メンバーからは検査のハードルの高さも早期診断を難しくする要因のひとつとして挙げられました。

クローン病が疑われる場合には血液検査などだけではなく、より細かに診ることができる内視鏡検査をする必要がありますが、身体的負担の大きさや、「内視鏡検査を受ける」こと自体への抵抗感から、若い世代の方は特に検査に対して高いハードルを感じてしまいます。また、クローン病を診断できる内視鏡検査を受けられる病院も限られています。検査に対する精神的ハードルをできるだけ下げられるような医師側の説明が大切だと思います。

診断後の日常生活、患者さんにとって必要なものは?

小児科医のMediiメンバーのもとに、自身が担当する患者さんから「診断を受けてからの生活の中で、毎日のニュース番組やテレビCMで流れる多くの情報は、患者というマイノリティの方々の生活を無視した情報ばかりでつらい」という声が実際に寄せられました。

どうしてもマジョリティ向けの情報が多く患者自身に直結する情報が世の中に少ない状況に対し、医師メンバーから大野さんへ「患者側の生活を知ってもらうこと」の必要性について意見を求めました。

大野洋平さん

大野さん:
「そうですね、やっぱり『知ってもらう』という点で言うと個人的に一番良かったのはピアサポートですね。同業の方といろんな話ができたり、実際の食事はこうしてるよといった具体的な話が聞けたりと、同じ病気を持つ同世代の人と繋がれていたというのは得られたものとして大きい気がします。

また、私は炎症性腸疾患を持つ小児患者さん対象のキャンプにもずっとスタッフとして関わっているのですが、そこでは親御さん同士が夜通ししゃべって情報交換をしていました。同じ立場の人同士、もちろん症状はそれぞれですので全てが一致するわけではないのですが、各人の工夫や世の中との向き合い方を知ることができる。そういった点で、ピアサポートはとても大事なんじゃないかなと思います。

さらに理想を言えば、患者さんたちがもっと情報発信を自分たち自身でしていくというのも大事なんだろうなと思っています。」

病歴をきちんと把握すること、同じ患者という立場の方とのつながり、目に見えない病気と付き合う難しさ、診断に必要な疾患情報の普及と、「クローン病」と一口に言っても取り巻く情報は多岐にわたります。これらの情報が多く発信され、正しく受け取られる仕組みが必要です。

病気“かもしれない”と悩む方々にも情報を

診断を受けるまでの経緯や不安な気持ち、クローン病で感じられた4つの苦痛と食の障害についてお話しいただき、目に見えない難しさがいかに多く存在するのか知ることができました。

最後に大野さんからMediiに対し、「医師向けの支援だけでなく、昔の私のように病気“かもしれない”と思い悩む方々にも届くような情報発信や啓発活動にも期待したい」と激励をいただきました。

希少疾患は7000以上あるとされ、全人口の5%を占める難病患者対策は、重大な社会課題です。Mediiは、各領域の高度な知見を持つエキスパート専門医にすべての医師が気軽にアクセスできる仕組みをつくりあげ、診断困難な難病の早期診断と最適治療促進を目指し「誰も取り残さない医療」の実現に取り組んでいきます。

大野さん、貴重なお話を頂戴しありがとうございました。

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