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Medii Patient Voice/クローン病診断まで6年、診断から15年。いま伝えたいこと

難病や希少疾患を抱える患者さんをゲストにお招きし、診断や治療でのご苦労、日常生活のこと、患者さん一人ひとりのナラティブをお話しいただくトークイベント「Medii Patient Voice」。本企画はMediiで働くメンバーが、医師の先にいる患者さんを強くイメージしながら、Mediiが掲げるミッション「誰も取り残さない医療を」の達成に向け取り組んでいくための理解の場として、全メンバーが参加するオンライン社内イベントとして定期開催しています。

今回ゲストにお招きしお話を伺うのは、クローン病を患う大野洋平さんです。

大野さんはクローン病と診断を受けてから約15年、そして医師になってから10年と、患者でもあり医師でもある両者の視点をお持ちの方です。19歳でクローン病と診断されてから、入院歴はあるものの大きな手術などはなく、現在を迎えており、クローン病患者として積極的に講演活動やサークル活動でお話をされています。

今回は「診断を受けるまで」のお話と、診断を受けてからこれまでの気づき、そして病気と付き合ううえでの難しさについてのお話、そしてMediiメンバーとの意見交換内容を前編後編に分けてご紹介します。

6年かかった診断、とにもかくにも「ほっとした。」

19歳でクローン病と診断を受けた大野さん、実は中学2年生頃から症状がありました。しかし重度の症状ではないために自身でも思い悩む日々を過ごしていました。

大野さん:
「症状としては下痢だったり腹痛だったり、体がだるく感じられる症状が、年単位で慢性的にありました。当時大変だったのは、電車で1時間かけて通学するなかで、電車のトイレに長い時間こもってしまう状態だったこと。

高校生になってから病院へ何度か受診するも、自分でも恥ずかしさもあってかうまく症状を伝えられずにいつも様々な整腸剤や坐薬を処方されました。当時の医師からは「受験のストレスとかもあるから、それでお腹がまいってるんだと思うよ。」と言われ、クローン病を疑われることはありませんでした。

その後、大学受験に失敗し予備校に通いながら、『大学に合格すれば受験のストレスが消えてお腹の調子もよくなるだろう』と思い勉強をがんばりまして、大学に入りました。

しかし、大学に入り友達とラーメン屋台に行ったり遊んだりと、普通の大学生の生活をしようと思ったんですけれども、思うように体が動かないことがありました。体重も5キロほど減ってきて下痢も続いて、という感じで、授業中もトイレに行ってばかりで存分に授業に臨むことができない状況でした。

大学入学後も病院の受診も続けており、5軒目に行ったクリニックで肛門鏡という検査を受けて初めて言われたのが『潰瘍性大腸炎かもしれない』ということでした。大学病院に紹介され、自分が通学していた大学の病院に行くとすぐに検査の指示を受け、その後内視鏡検査を受けました。実際に当時の内視鏡検査で撮った写真がこちらですが、この右側にある縦に走っている潰瘍がクローン病の特徴です。病理検査もふまえてクローン病と診断されました。大学一年生の夏でした。」

症状を感じられてから診断まで約6年。当時どのような気持ちを抱いたのでしょうか。

大野さん:
「ショックだったんじゃないかとよく言われるのですが、実はあまりショックではなくて、どちらかというと『ほっとした』気持ちでした。診断までずっと症状を訴えても、だれも原因を教えてくれなかったんです。そこで初めて『原因はこの病気だよ』と教えてもらえたので、とても安心しました。

それと『ずっと(大腸癌などの)悪性の病気なんじゃないか?』という不安や警戒があったので、難病ではあるけれど良性の病気だとわかり安心しましたね。

ここまでのお話でお伝えしたいのは、患者さんの病歴というのは事実も大事なんですが、そこには感情が伴っています。感情を知ることで、より深く患者さんの考え方を理解できるのかなと感じています。」

診断されてからは“勉強と経験”の繰り返し

診断を経て自身の病気を受け止めてから、治療に関しても、日常で欠かせない食事に関しても勉強と経験を繰り返し、積みあがっていると話す大野さん。1日3回服用の成分栄養剤との奮闘エピソードを教えてくれました。

大野さん:
「エレンタールという成分栄養剤という薬を毎日三本飲むように指導されたのですが、一本飲むだけで下痢をして、なかなか飲めなかったんですね。これはクローン病の症状なのか副作用なのか、それも最初はよくわからなくて困っていました。

しかし、副作用として『下痢は起こりやすい』と書かれてはいました。病院の先生にまず相談したんですけれども、『ゆっくり飲んだらいいのでは』というアドバイスをいただき、大学の授業中も含めてちびちびと、5分に一回ずつぐらい飲んでいました。

同級生から見ると、何度も薬かジュースかわからないものを飲んでいて不思議に思ったかもしれませんし、大学の先生も僕がクローン病で治療を受けていることを知らないので、授業中に何度もジュースを飲むなと怒られました。『いや実は薬なんです』という説明を繰り返しました。
また最悪なことに、ゆっくり飲んでも別に下痢は止まらなかったんです。本当に困ったなあ、と。」

大野さん:
「下痢が続くと外出があまりできなくなるし、周囲に対して説明をしても、医学部の先生や先輩は理解してくれますが、当時同級生(1年生)の友達にはクローン病の知識がないために十分に理解してもらうことが難しいこともありました。

こうした経験から『説明する難しさ』を強く感じました。一見して病気とわからない疾患なのでやっぱり誤解をされやすい。内部障害とか内臓の病気ってわかりにくいんだなってことも感じました。」

薬との付き合い方の難しさが社会活動にも影響しています。どうにか改善することはできなかったのでしょうか?

大野さん:
「実はその後、薬局で薬剤師さんと話す時にエレンタールが飲みづらいと相談したところ、薬剤師さんからゼリーミックスというものを試してみてはと言われました。エレンタール専用のものがあって、処方で出されるのではなく、薬局に置いてあるものですね。これを使ってゼリーを作ってみたところ下痢をしないことが分かりまして、エレンタールを続けられるということになりました。

下痢しないということはわかったので、やっぱり下痢の原因はクローン病の症状ではなく薬の副作用であって、病気の方は良くなっていたんだということも分かりました。薬によって状態も良いので外出もできるようになりました。

大学六年間の前半はあまり調子が良くなく部屋にこもり気味だったのですが、後半の三年間は逆にめちゃくちゃ外に出るようになって、勉強とか部活とか積極的に活動できるようになりました。」

どの薬を使うかの選択だけでなく、処方された薬とどのように付き合っていくのか、症状と薬を鑑みたうえで考える日々の食事と、病気と付き合ううえでは勉強と経験の積み重ねが大切です。ただ、腸の調子が悪くならないように気をつけつつ、調子がいい時には新しい食べ物にチャレンジする思い切りも大事にされているようです。

薬との付き合い方の難しさを教えていただきましたが、まだまだ他にも存在する難しさをお話しいただきます。

クローン病で感じた4つの苦痛

大野さん:
「クローン病になってから感じた悪かったことを緩和ケアの世界で言われる4つの苦痛にかけてみました。左上から話すと、一つ目の『身体的苦痛』というのは、単純に症状ですね。睡眠不足があると腹痛や下痢が出やすいということだったり、毎年のカプセル内視鏡検査や3年に一度検査入院して小腸まで達する特殊な内視鏡検査を受けたり。前準備の下剤も大変ですし、検査中は鎮静剤で眠らされるのですが、それでも腸が引きつれている箇所を通るときは痛みを感じます。

二つ目に右上の『精神的な苦痛』。こちらはいくつかあるのですが、『トイレに途中で行きたくなったらどうしよう…』という不安でトイレのタイミングや場所を気にします。また、食べられるものが制限されることはそこまで苦ではないのですが、むしろ食べられないということを“伝えなければならない”会食の場面であったりとか、何かお土産のお菓子をもらったりする時に直接その場で食べられなかったりするので、その事情を説明したりすることの方が苦痛に感じます。

続いて三つ目の左下、『社会的苦痛』は経済的なコストを指しています。治療にかかる出費がどうしてもかかってしまうことや、毎年難病申請を更新しているのですが、その手続きには難解な書類をたくさん書かないといけなかったり。それと、そもそもトイレに居る時間がおそらく他の人より長くて、その分社会活動できる時間が若干少ないのかなとも感じます。もちろん定期的な受診の時間を取られたりもしますし、その時間は仕事を休むことになったりと時間的なコストもあります。

最後に四つ目の右下、『スピリチュアルな苦痛』と書いていますが、ここは自分の気持ちの部分です。『なぜ自分だけが治らない病気になったのかな』という答えの無い問いは、病気になった当初ものすごく考えていました。何度考えても答えはないんですけれども、数年間かなり悩んでいたところですね。現在は特に感じてはいないです。あともう一つ、薬もいつまで飲み続けなければならないのかという、漠然とした先行きが見えない不安というのが常にあります。」

「知ってほしい」、見えない病気を伝える難しさ

純粋にクローン病の症状がどのようなものなのかを知ることはもちろん大切ですが、大野さんはクローン病による苦痛に伴う日常の制限について知ってもらえると嬉しいと言います。

大野さん:
「クローン病の患者は目に見えない障害があって、平たく言うと『食の障がい者』と言えると思っています。

X(旧Twitter)で『#IBDあるある』と検索すると食事関連の悩みがたくさん投稿されているのですが、そこには食べると調子が悪くなってしまう食べ物、食べやすいもの、勇気を出して炭酸を飲んでいるだとか様々な投稿が挙がっています。なかには『食べずに腸を休ませる日を設けている』なんて人もいます。これは食べないという選択肢を尊重して欲しいというメッセージでもあります。食べられる可能性をみんな模索しているんですよね。

食べるものへの制限もあれば、食べること自体への制限もあります。そういった理由から、例えば会社で飲み会をするといった社会的な活動への参加が難しいことも。

そんなこともあり、クローン病患者にはいろんな苦痛があるのですが、食事がストレスになることが大きなところとしてあります。食べたいって言うだけじゃなくて、食べられないことを伝えるのが億劫でちょっと面倒くさい感情もありまして、そんな背景があることを知っていただければ大変ありがたいです。」

クローン病で感じられた4つの苦痛と食の障害についてお話しいただき、目に見えない難しさがいかに多く存在するのか知ることができました。
大野さんはこれらの経験から「情報」の大切さを改めて感じています。後編では大野さんの経験と気づきを踏まえた「いま、医療業界とMediiに期待すること」をお聞きしていきます。また、患者であり医師でもある両者の視点を持つ大野さんとMediiメンバーとの意見交換による医療業界の可能性について話された模様をお伝えします。

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