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【気まぐれ読書日記】「すぐそばにある殺人」


小説「蟻の棲み家」読了。「イヤミス」の女王・望月諒子が放つ、哀しき社会派ミステリーである。

神奈川県内の河川敷のほど近くで2人の女性が相次いで銃殺された。額をピストルで撃ち抜かれるという、あっけない犯行だった。

2人とも夜の世界に身をやつし、時として売春を生業としていたことから、事件は怨恨によるありふれた殺人ということで片付けられようとしていた。

しかしながら、大手菓子メーカーへの執拗な脅迫事件を補助線として、ばらばらでありふれていたはずのいくつかの線が少しずつひとつにまとまっていく……。

毒親、売春、貧困ビジネス……世間の片隅で細々と生きる女たちを軸に、さまざまな悲劇の断片がつながっていく。捜査一課のベテラン、秋月警部補、そしてジャーナリスト・木部美智子の地道なリサーチによって浮かび上がる事件の真実は残酷で、どこまでも救いようがない。

理由なき貧困に理由なき暴力が積み重なり、理由なき怠惰が生み出され、理由なき悲劇へとつながっていく。ありふれた悲劇は得てして、訳知り顔のコメンテーターが望むようなわかりやすく、おさまりのいいものではない。真実が明かされた後に残されるのは、それでも出口のない虚無感だけだ。

すべての事実が明らかになった後、女性ジャーナリストの手によってもうひとつの真実が暴かれ、そして、あっけなく闇に葬られる。悩めるジャーナリストがたどり着いた真実が被害者たちを救うことはない。ただ、どうしようもない現実を読者に突きつけるだけだ。

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