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シチュエーション・コメディの苦労と限界~きまぐれ映画館2~

映画「泥棒役者」をAmazonプライムで鑑賞。関ジャニ∞の丸山隆平主演で贈るシチュエーション・コメディ。

主人公の大貫はじめは過去に窃盗を犯すという前科を持ち、少年院暮らしを経験しているが、現在は更生して定職にも就き、まともに暮らしている。

彼女とのデートを控えたある日、はじめは不良時代の先輩・畠山則男(宮川大輔)から新たな仕事、つまり金庫破りに誘われる。

かつての前科を恋人に言いふらすと則男から脅され、断りきれなくなったはじめは仕方なく誘いに応じ、絵本作家・前園俊太郎(市村正親)の豪邸へと泥棒に入ってしまう……。

泥棒に入ったはじめが編集者から本物の家主と勘違いされ、当の前園からは新しい編集者だと思われ、飛び込み営業のセールスマンからは編集者のフィアンセだと思い込まれ……と、一軒の家のなかでいろいろなハプニングが起こるのでここでは書ききれないのだが、形式としてはシチュエーション・コメディである。

シチュエーション・コメディと言えば三谷幸喜。三谷幸喜と言えばシチュエーション・コメディ……ということで、監督こそ違うものの、本作もシチュエーション・コメディの王道らしく、勘違いが勘違いを生み、さらに厄介な勘違いとしてふくらんでいく、という展開を期待していたのだが、いろいろな意味で予想を裏切られることになった。

前半こそ主人公のはじめの存在を軸にすれ違い劇が展開されるものの、誤解はわりと早々に解消されてしまう。そして、はじめの正体が明らかになってからはシチュエーション・コメディの要素は薄れ、家主である前園俊太郎の過去へと焦点があてられていくのだ。

アンジャッシュのすれ違いコントにも言えることだが、シチュエーション・コメディにはひとつの大きな弱点がある。それは、「作為性」だ。

日常生活を見てもわかることだが、普通に生活していればそうそうすれ違いなど起きるはずがない。ふとしたはずみでささいな勘違いが起きたとしても、たいていそれはその場かぎりの誤解で終わってしまい、捧腹絶倒のコメディに発展することはまずない。

この映画にしても、豪邸のなかに見知らぬ青年がいれば真っ先に不審者の可能性を疑うのが自然である。女性編集者(石橋杏奈)がはじめを前園俊太郎と錯覚するところまでは百歩譲っていいとしても、当の家主である俊太郎が彼を新たな編集者と思い込むのはやや強引だ。これが現実なら、はじめと俊太郎が鉢合わせした時点で警察に通報され、すべてが終わるところだろう。

もちろん、それでは物語にならないから、映画としてはさまざまな仕掛けを用意し、すれ違いが少しでも自然になるように持っていくのだが、仕掛けに凝るほどに作為性が目立ってしまうのもまたシチュエーション・コメディの致命的な欠点である。

それでも舞台劇ならば、舞台劇特有の空気感と一回性によりシチュエーション・コメディの持つ作為性が目立たなくなり、観客は「起こり得ること」として純粋に楽しむことができる。

しかし、映画となるとどうだろうか。映画は、言ってみれば作為性の連続である。カットを割ることでシーンに意味を持たせ、登場人物の心情やセリフの意味を補足する。観客は監督の見せたい部分を見せたいように見せられ、そこに自由が入り込む余地はない。

これこそが、映画と舞台劇の決定的な違いである。舞台劇における作為性はつねに偶発性と等価であり、時として押し負けてしまう可能性をはらんでいる。

コンマ数秒の手違いによって泥棒と家主が予想外に鉢合わせしてしまうかもしれないし、たった1行のセリフを飛ばしたことでまったく違う(台本外の)展開が巻き起こるかもしれない。観客は舞台隅のドタバタ感に目をむけることもできれば、脇役の「やっちゃった」という表情を楽しむことができる。だからこそ、2時間弱の物語が終わった後、観客と演者の間には一体感が生まれ、目の前のフィクションをもうひとつの現実として楽しむことができるのだ。

いろいろと小難しい理屈を並べてしまったが、要するにこの映画について言いたいのは、「舞台で見たほうがいいよ」ということである。本作ももともとは舞台劇として書かれたものだが、それを知っていれば舞台版のほうを先に見ただろう。

監督もそのことを見越しているのか、すれ違い劇は早い段階で終わらせ、登場人物の群像劇のほうにスライドさせている。後半部分ももちろん見ごたえがあるのだが、三谷幸喜フリークである私としてはやはり、最後までシチュエーション・コメディとして押し通してほしかった。

きまぐれ採点は75点。恋人(高畑充希)とのラストシーンは可愛らしいが、はっきり言って蛇足である。

個人的にはタイトルに難あり。ややネタバレになるが、「君とまた」のほうが映画全体を象徴しており、響きもきれいなのでタイトルとしてはいいのではないか。

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