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蒼生 行(道等棟エヴリカ)
2023年6月10日 17:17
水気の抜けた、見るからにぱさぱさとした質感をした白い髪が、その痩せた背中に垂れている。ライオンみたいだろ、と自らの髪を称していた彼女のことを思い返しながら、僕は帰宅したばかりの、夜の空気を吸い込んだままの身体から薄いカーディガンを剥ぎ取った。あれはどれほど前の出来事だっただろうか……仔細を思い出そうとしても僕の萎縮した脳はその芯の辺りを小刻みに震わせるだけで、思考のポーズですら取ってはくれない。
2023年6月20日 00:00
(前編) 髪はもう永いこと伸ばしている。切らない理由はちっぽけだが、僕にとってはそれがなによりも嬉しい楔だった。 初恋の女がいた。小学校に入学した次の日、通学班の集合場所で出会った彼女とは、高校を卒業するまで一緒だった。気付いた頃にはその子のことを愛していて、いなくてはならない存在で、僕はずっとこの子の言うことを聞いて生きていくのだと思った。彼女の少し身勝手な言動は、僕を酷く喜ばせ、彼女に従