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30歳の男がSLAM DUNKを全巻読み直した話
会社の後輩に「SLAM DUNKを一度も読んだことがない」という信じられない男がいた。小さい頃に兄が全巻揃えたコミックスが実家にあって死ぬほど読み漁っていたので、SLAM DUNKの魅力などは敢えて説明するまでもないのだが、最近「新装再編版」なんかも出たのでいいきっかけだと思い、全巻揃えて読み直してみた。感想は大きく3つのブロックに分けた。
※ネタバレも若干あるのでご注意ください。
1)キャラが濃い
まずはこれだろう。とにかくキャラが立っている。主人公をはじめ常人離れした身体能力を持つキャラから、妙に親近感を覚える憎めない奴まで、キャラクターの書き分け方が絶妙に上手い。で、そのキャラの濃い選手たちの掛け合いがまた面白いのである。
自らを"天才"と呼ぶ主人公桜木は、チームメイトのエース流川に対して常に対抗心メラメラで挑むのだが、クールで寡黙なはずの流川も桜木のアツさに引っ張られて、時折ちょっとムキになる所などは読んでいてクスッとしてしまう。ちなみにこの2人の小競り合いは「湘北名物"意地の張り合い"」と言われている。
湘北高校バスケ部のスタメンは、どいつも不良みたいなおっかない奴ばかりで、現実にいたらあまり近寄りたくない感じなのだが、こいつらがバスケをやると非常にパワフルで痛快感MAXなのだ。読んでいるとなんというかガッツをもらえる。
どのポジションのキャラも本当に魅力的で、僕が小学生の頃はよくチームメイトと「おれはガードだから宮城みたいになる!」とか「シューターの三井もいいよな!」とか自分たちのポジションと照らし合わしてよく盛り上がったのを覚えている。
2)リアリティを限界まで追求
作者の井上雄彦氏がコミックスの巻頭コメントで言っていた言葉が大好きだ。かつて読者から「こんな接戦ばかりつづくわけない」と手紙をもらったという。確かにそうだ。初期の陵南との練習試合から、弱小との試合を除いてラスト山王工業戦までほぼ全て接戦の試合が続くのである。
さすがに読者から突っ込まれるのも無理はない。だがそこで井上氏は「とんでもない!現実の試合はもっとドラマチックだ!!」と言い放ったのだ。ストーリーを盛り上げるために接戦ばかり描いたのではなく、これが同氏にとっての紛れもない「リアリティ」だったのだ。
特にリアリティを最大限までとことん追求しているのが、やはり最終話だろう。死闘山王工業戦を何とか勝ち抜いた湘北は、このまま大会のダークホースとして勢いに乗るかと思いきや、続く3回戦で強豪の愛和学院にあっさりボロ負けしてしまうのだ。なんというリアリティだろう。恐ろしすぎて震えた。先程の作者の言葉にもあったように、これがリアルなのだ。
漫画は日本が世界に誇れる最高のコンテンツだが、それがリアリティを損なった瞬間に「そんな展開ありえなくね?」とか言われて読者の興奮はあっという間に冷めてしまうのだ。
細かな心理描写や表情までを丁寧かつダイナミックに描き上げた井上氏。後に「リアル」というタイトルの漫画を描くくらいだから当然リアリティにはこだわっていたのだろう。
3)言葉の力
たった6年の連載で名言がここまで生まれた漫画があるだろうか?「安西先生、バスケがしたいです。」「はらたいらさんに3000点」「オレは今なんだよ!!」「左手はそえるだけ」と上げだしたらキリがない。よく絵に力を入れすぎて言葉(セリフ)が薄っぺらい漫画なんかを見るとガッカリしてしまうが、SLAM DUNKには登場人物一人ひとりが放つ言葉の一言一句にまるで魂でも宿っているかのような力を感じるのだ。
僕の好きな言葉は安西監督がよく口癖にしていた「君たちは強い」である。この言葉に湘北のメンバーは幾度となく背中を押されてきた。いつしかこの言葉は湘北のスローガンのように定着し、選手達もここぞという局面で「オレたちは強い!!」と自分達を鼓舞するようになった。
中でも特にぐっと来たのが、全国大会1回戦でケガをしたエース流川が、このままだと負けてしまうかもしれないというムードを察したのか、珍しく自分の口から「今日もあれやりましょーよ。オレたちはってやつ」と提案し、試合の流れを自分達にもってきたのである。こういったキャラと行動のギャップが読者をどんどん物語に引き込むのだろう。
心に刺さる名言はまだまだあるので、ぜひ自分の目で確かめてほしい。
以上、SLAM DUNKの感想をつらつら書いてみた。おそらくこれを超えるバスケ漫画は自分が生きている間には出てこないような気がする。それほどまでに心を震わせた作品であった。
明日、後輩の机の上に何も言わず全巻置いておく。
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