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家にこもりつつ、野菜の旬が味わえる料理本2(ミールスの舞台裏#3)

こんにちは。ミールス料理人のMitsukiです。
インド以外の野菜料理本紹介、第2回目です。(第1回はこちら)

前回は中国料理から、野菜炒めをテーマにした本を紹介しました。
今回紹介する一冊はイタリア料理からです。ナポリという南イタリアの1都市の野菜料理にスポットを当てた本で、その名も『ナポリ野菜料理』です。

南インドと南イタリア

インド料理一筋とは言えない自分にとって、イタリアン(特に南イタリアの料理)はしばしば寄り道をしてきた料理です。

同じ西洋料理でも、フレンチ(という括りが雑なのは百も承知ですが)に比べて良い意味での粗野さがあり、茄子やトマト、カリフラワーなど、扱われる食材も、南インドに通ずるものがあります。

調理法についても近いことが言えます。『ナポリ野菜料理』でも、青菜をクタクタになるまで蒸し煮にしたり、カリフラワーを厚い衣で揚げたりと、読んでいてふとインド料理との親近性に気づく瞬間がたくさんあります。

一方で、南インド料理と比べれば、素材の風味や食感をピュアに生かした料理も多く、素材の持ち味を生かした料理を目指す自分にとって、学びの多い領域なのです。

採れすぎる苦悩

食べる側にとって、食べ物の旬は楽しみに待つものですが、育てる側にとっては収穫に(加えて、自家用なら消費にも)追われる慌ただしい時期です。

「毎日食べないとナスが追いかけてくる」。
これは、表紙にもなっている「ナスのパルミジャーノ」のレシピに出てくる言葉です。ユーモラスな言葉遣いですが、野菜が採れすぎて消費しきれないという、庶民の昔ながらの(飢えとは反対の)悩みが詰まった言葉でもあります。

神戸のイタリアンのシェフでもある、著者の杉原一禎さんは、ナポリの野菜料理の美味しさを、こうした庶民の悩みに応える知恵によるものだと捉えています。自身のイタリア修行の経験を思い起こしながら綴る「現地のおいしさ」は、とてもディテールに富んでいて、その語り口は、肌で感じたものを直に伝えたいという熱量にあふれています。

その暑苦しいまでの筆致は、他のシェフと共著で書いている本(『プロのためのパスタ事典』など)でも、どのセクションが杉原さんのものかが見て取れるほどです。

「不均一」のおいしさ

追いかけてくる野菜をなんとかするために、ナポリの野菜料理には、一つの素材をたくさん食べるための知恵が詰まっています。
その知恵とは、料理の中に「食べ疲れない不均一さ」を作ることです。

例えば「ズッキーニのスカベーチェ(南蛮漬け)」。この本で紹介される最初の料理です。
薄切りにしたズッキーニを油で揚げて、粒塩と、みじん切りにしたにんにく、白ワインビネガー、ミントでマリネするシンプルな料理ですが、日本の南蛮漬けのようにたっぷりの液で漬け込むことはせず、揚げたてアツアツのズッキーニの上から、マリネの材料を上から振りかけておくだけです。

202006 note用写真 ズッキーニのスカベーチェ

漬け地をドレッシングのように合わせておくこともしないため、見た目からして味付けが不均一で、初めて作ってみたときは心配になるほどでしたが、マリネ液を含ませすぎないことで素材感がフレッシュに残るのが良いのです。飽きの来ない美味しさになっていたのが印象的でした。

その他に、日本人にとって馴染み深いトマトソースも、この本に載っているものは一味違います。

「ある種究極のトマトソースのスパゲッティ」と銘打たれたレシピでは、乾かしたプチトマトを使って、ピュレ状のソースではなく、とろみのあるスーゴ(汁)を狙って作ります。油と水を完全に乳化させないのがポイントで、敢えて不均一にする技がここでも登場しています。

解像度の高い野菜料理

『ナポリ野菜料理』において、個々のレシピは、調理時間も材料の種類もミニマムですが、注釈がとても多い(コツだらけ)ため、調理中は常に鼻を利かせ目を凝らすことが求められます。

今回紹介したものに限らず、どのレシピにも食べ飽きないためのコンセプトが事細かに設定されていて、なんとなく見知った料理でも、忠実に作ってみると想像以上の仕上がりになります。
『ナポリ野菜料理』、夏野菜の旬が始まる前にぜひ。

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