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エッセイ「三人の幼子たち」

 ネット通販をよく利用する。もっぱら「コンビニ支払い」を使うのだが、最寄りのコンビニが改装工事中のため、いつもとは違う経路を歩くこととなった。
 テクテクと歩いていると、とある路地で3人の幼児が遊んでいる姿が目に入った。そうか、今日は日曜日だ。見たところ、年齢に少し差がある。年長の女の子が小学校3年ぐらい、二人の男の子は一年生、4歳児といったところか? たぶん兄弟だ。
 近づいて行くと、年長の女の子が僕の姿に気付き、声を発した
 「わあ、すごい。きんきらきん!」
 目を見開いて驚いている。
 その姿が可愛かったので、思わず言葉を返した。
 「珍しいでしょ?」
 「うん」
 「マジックやるから、見た人に覚えてもらいたくて、こんな目立つ格好してるんだよ。普通の恰好してたら、忘れられちゃうでしょ?」
 「ああ、そうかぁ」
 「そうだ、何かマジック見せてあげようか?」
 「うん、うん!」
 財布の中からコインを取り出し、消失、出現、コインチェンジを披露すると、3人とも目を皿のようにして見つめている。
 変化が起こるたびに、
 「え?」
 と声を発する。
 「今消えたコインは、ここにあるよ」
 そう言って、片手で空間からつかみ取る動作。
 「何も見えないでしょ? 今、コインは四次元空間にあるんだよ。ここは三次元でしょ? これから四次元と三次元を結ぶトンネルを作るよ」
 もう片方の手を示し、指を丸める。
 「コインがここをくぐった瞬間に見えるようになるから、よ~く見ててね」
 コインが見えた瞬間、
 「え、え?」
 驚いて顔を見合わせている。その可愛い反応に心がなごんだ。
 「じゃあね!」
 出会ってから別れまで、ほんの4、5分といったところだろうか。
 3人の幼い子どもたちにとって、珍しい人との珍しい体験が、マジックに興味を持つきっかけになってくれれば嬉しいことだが、僕にとっても日ごろなかなか得られない新鮮な体験だった。
                      (2022年11月)

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