今は只、足を進めるだけ
大好きだった人がいた。
12歳歳上で、The 仕事人間。
自分の仕事に誇りを持っていて、毎日朝から晩まで働いている人だった。
恋愛感情だったのかと言われると、それともまた違っていて
どちらかと言えば「尊敬」とか、「憧れ」に近しい感情だったのだと思う。
東海地方の出身だったけれど、若いころに大阪に住んでいた経験から、大阪弁寄りの方言を話す人だった。放っておくと、とにかくずっとしゃべり続ける。毎回、話のオチもしっかり用意している。
何より、目元をくしゃくしゃにして笑う顔が大好きだった。
当時、仕事をしていく中で、環境が変わり、役職も変わり、わたしの心の余裕がどんどん無くなっていった時期だった。
忙しい合間を縫って、せっかく会いに来てくれているのに、うまく笑えない。
何を話していても涙目のわたしに「よし、今日はお前の話を聞こう」と、優しく手を伸ばしてくれる人だった。
どんなにわたしが泣き尽くして、ぼろぼろになっても、最後には「わたしちゃんが頑張ってるのは僕がよくわかってるから、大丈夫」と優しく頭を撫でてくれた。
わたしは、今彼がどこで何をしているのかを知らない。
彼も、わたしが県を跨いで引っ越して、新しい土地で生活をしていることを知らない。
たくさんのありがとうを伝えたかったけれど、
もう伝えれらえる手段は無い。
もう二度と会えない。でも、それで良い。
わたしが大好きだった笑顔のまま、どこかで幸せに暮らしていてくれたら、それだけで良い。
触れたはずのあなたが 遠く霞んでいく。
それでもあなたに胸を張れるように
歌ってるんだよ、今も。
先の見えないこの道の
先の景色を見てみたいよ。
あなたは僕が辿り着いても
その先に居るのだろうけど。
無駄と思えることも 全て繋がっていた。
いつかそうやって思えるように
今は只、足を進めるだけ。
シャドウ / cinema staff
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