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映画「ビートルジュース」の指輪 〈映画の指輪のつくり方〉第42回

非常の場合はドアを描け!
1988年公開映画「ビートルジュース(Beetlejuice)」
文・みねこ美根(2020年10月19日連載公開)

ついこの間まで金木犀の香りがしていたのに、数日の雨で近所の金木犀は散ってしまっていた。金木犀の香水が夏の終わりに良く売れたらしい。確かに良い香り、センチメンタルな秋の匂いがする。でもきっとずっとつけていたら、分からなくなってしまうと思う。シャンプーの匂いだって、買ったばかりの時は香りがするけれど、段々慣れてしまうと分からなくなる。なりませんか?だから私は、金木犀は秋の初めに香るだけで十分かな。「あれ、この間夏が来たと思ってたのに、あれれ」みたいな気持ちですが、もう10月。ハロウィンなので、らしい映画をご紹介。

ティム・バートン監督作品の「ビートルジュース」は1988年の作品。合成や特殊メイク、そしてストップモーションを駆使して作り上げられた世界で、「ティム・バートン、好き勝手やってて楽しそうだな!」と観てるこっちも楽しくなっちゃう作品。シーンごとに見たこともない不思議な世界が広がるので常に目が楽しい。ずっと気になっていた作品だったのだが、「Day-O(The Banana Boat Song)」を歌いだすシーンをSNSでたまたま観たことがきっかけで、映画を観たい気持ちが盛り上がって、やっと観るに至ったのでありました。

アダムとバーバラはのどかな田舎でお気に入りの大きな家に住む若い夫婦。ある時買い物の帰り道に車ごと川に落ちてしまい、なんとか家に帰ってきた…と思いきや、自分たちが幽霊になってしまっていることに気が付く。家の外に出ると砂漠のような異世界に迷い込んでしまうため、家で幽霊として生活をしようとした矢先、生きた風変わりな3人家族が家にやってきた。自分たちの生活と家を守るため、幽霊二人はなんとか新しい住人を脅かして追い出そうとするが失敗続き、アダムとバーバラは平穏を取り戻せるのか…というホラーだけどドタバタコメディな話。

タイトルになっている「ビートルジュース」というのは、この後登場する“バイオ・エクソシスト”であるかなりいかがわしい謎の人物の名前。人間を追い出す仕事をしていると言うが、実はとんでもないトラブルメーカーなのだ。

ビートルジュース含め、登場人物の個性が強いというのも見どころの一つ。主人公の幽霊夫婦のキャラが薄くなるほどに、生き死に関係なしに周りの人物が強い。アダムを演じるのは、アレック・ボールドウィン。「ミッションインポッシブル/ローグネイション」から2作、長官として出演している。最初気が付けなかったが、確かに鼻元に面影が!バーバラを演じるジーナ・デイヴィスはとにかく美しい。巻き髪に、はっきりした目鼻立ちに見とれる。驚いた時の目を大きく開ける表情も好き。ビートルジュースはマイケル・キートン。初代バットマン、「スパイダーマン:ホームカミング」の悪役や、「バードマンあるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」(←これもすごかった!)でも知られているけれど、ビートルジュースのような下品(笑)でハイテンションな怪人も演じられてしまうのだからすごい。新しい入居者である家族の娘はウィノナ・ライダー。「シザーハンズ」のヒロインとしても知っていたが、本作の彼女はまだ幼さがあってとても可愛い。あの前髪も似合っちゃう。彼女の母親役はキャサリン・オハラ。「ホーム・アローン」の母親役としても有名だが、本作ではかなり癖の強いユニーク過ぎる芸術家で幽霊夫婦を困らせる張本人を演じている。

常に想像もし得ない世界が登場するのだが、中でも冥界と家の外の異世界。冥界は、困ったアダムとバーバラが訪れる場面に出てくるのだが、皆、かなり個性があるのだ。死後の姿は、死因に関係しているのだが、これを観て、生きている私たちの姿も、生き様がおのずと表れているということなのかも…と思ったりした。個性というものをブラックに、ユニークに、表していて興味深い。冥界にも役所があり、並ばされるのも皮肉が効いている。家の外の冥界はストップモーションが使われていて、サンドワームのぐねんとした動きを見ていると超わくわくする。

そして、どーにもこーにも人間を脅かせないアダムとバーバラ笑。生真面目そうな二人が試行錯誤する様子がチャーミングに描かれている。ただし最初の方の脅かすシーンは、びっくりシーンが多いので要注意!こういった若干のグロテスクさも一筋縄ではいかない感じで好き。でもきっとこれがマジのホラー映画だったら怖いだろうに、ここまで信じない一家も逆にすごい笑。

そして、字幕。吹き替えアドバイザーを所ジョージさんが担当したらしい。調べてみたらところ評価は賛否両論、でも私的にはこのへんてこりんさが面白かった。最初は「なんか字幕間違ってないかい…?」と思ったし、実際“かなりの”意訳と付け足しだけれど、そこまで不快感はなくて、「当たり屋ジェリー」とか納得だし「チョロピー」も笑っちゃった。みんなはどう思うかな?私は自分でもちゃんと英語勉強して訳してみたくなったよ。

この映画のポイントまとめ:もし自分が幽霊になってしまって、アダムとバーバラみたいに大切にしていた家がめちゃくちゃにされたらとても悲しいだろうな。これを観ると他の映画で生者を呪ってしまう幽霊たちの気持ちもわかってくる。生きていてもそうでなくても、魂は忙しいらしい。それなら、今を思いっきり楽しみたい。エーオ!って歌っちゃおう。踊っちゃおう。

これを観た皆がハッピーな気持ちになれますように。(おまけ:映画冒頭の景色、どこで○○に変わるか、よーく見てみてね。)

今回の指輪は、映画に出てくるミニチュアや大きなサンドワームからイメージして、大小さまざまに再現してみました。一番のお気に入りは、車と犬がシーソー状態になっているあのシーンの再現。動画の最初も、一工夫。お見逃しなく。

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モチーフ:サンドワーム、キャラメルパパ(アダム)、アングリカン(バーバラ)、丘に建つアダムとバーバラの家、落ちそうな車と犬、新人死者ガイドブック、デリアの謎の彫像、リディアのカメラ、ビートルジュースの墓と突き出した手
音楽:Harry Belafonte「Day-O」オルゴールver. Cover

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