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映画「オースティン・パワーズ」の指輪 〈映画の指輪のつくり方〉第34回

くだらない is イカしてる
1997年公開映画「オースティン・パワーズ(Austin Powers)」
文・みねこ美根(2020年2月17日連載公開)

生きている年数で必然的に生まれる世代間観念相違(ジェネレーションギャップ)。「これ知らないの?」「今はそれが当たり前なの?」と言う側の立場ともなれば、これらのセリフの影に「私は知っている」「私たちは当たり前ではなかった時代を生きた」という自慢とも自虐とも言えるかたちで、ちょっとした“特別感”に浸ることができる。しかしながら、言われる側になるのは何かと面倒くさい。「知ってます」と言おうものなら、相手が展開しようとしていた“私も年を取ったなぁトーク”を打ち壊しかねないし、盛り上がるのは言う側であって、言われる側は「へぇー、あはは」としばらく聞き手に回らないといけない。

例えば、「子どものころからスマホがあったんでしょ?そんな便利な物子どものころから持ってちゃあ、云々…」。いいえ、私の世代にスマホが登場したのは高校生くらいのころ。私も周囲も分別のある高校生だったため、話題に取り上げられるようなトラブルもなかった。「ゆとり世代なんでしょ?」残念ながら、ちょっと違う。まさにゆとりからの振り戻しが始まった移行期で、一学年上の人たちより教材を増やされて迷惑被った世代です。ビデオもカセットも箱みたいなパソコンも知ってはいる微妙な世代なので、言われる側になると大体、訂正が面倒な感じになる。昭和も平成も令和も仲良くしていこうぜ。

そんなジェネレーションギャップに笑かされる、超くだらない映画をご紹介。脚本・製作・主演マイク・マイヤーズの「オースティン・パワーズ」。マイク・マイヤーズ、良く知っているところではシュレックの声の人ですね。(あと「ベイビードライバー」で間違って買ってきたマスクがこのマイクのマスク。)酷い下ネタ&ジョーク満載で、馬鹿やってるのを何にも考えずに見るのが最高。007のパロディというとジョニー・イングリッシュの印象だったけど、こちらも全3作というからすごい。

1967年、モテモテのイギリス諜報員オースティン・パワーズは、宿敵Dr.イーブル(名前(笑)、そしてマイク・マイヤーズの二役)を追い詰めるも、Dr.イーブルは自身を冷凍保存し宇宙に逃げてしまった。復活に備え、オースティンもまた自身を冷凍し、舞台は30年後の1997年アメリカへ。復活したDr.イーブルの世界征服を阻止するため、オースティンは以前の助手の娘でエージェントのバネッサと共に、捜査を始める、という話。

レビューを見ると、酷評も多いのですが、私は爆笑した。まずオープニング。まるでミュージカル映画のようなノリノリなダンス、クインシー・ジョーンズの「ソウル・ボサ・ノヴァ」に合わせてタイトルが出るところで声出して笑った(指輪動画でパロってみたよ)。そして何といっても、オースティンとDr.イーブルを困らせる30年のギャップ。Dr.イーブルが国連を脅そうと出す案が「チャールズ皇太子が不倫しているかのようなデマを流して離婚に追い込んでやると脅そう」「レーザー光線でオゾン層に穴をあけて気象を狂わせてやると脅そう」…(どっちも実際に起きている)。オースティンも“グルービー”な言葉や考え方や格好を馬鹿にされてしまう。

でも1997年も今からしてみたら20年以上前なので、そこもちょっと面白い。60年代のサイケな感じとかおしゃれに感じるしなぁ。途中途中で偽ビートルズ?とオースティンの謎カットが入るのも笑っちゃう。一番くっだらなくて爆笑したのは、“映しちゃいけないところ”が絶対に隠れるシーン。簡単に言えばアキラ100%だな。すごい練習したんだろうなぁ、と思うと、尚更笑けちゃう。素晴らしいのは悪役の手下がやられてしまった後に、家族や友人にフォーカスするシーン。手下にも人生があるのよね…。

他にも、筋書き上ぬるい始末の仕方や、ローラーに轢かれるには距離がありすぎる!とか、この衣装と小物もこの設定もこのシーンもこの悪役も007のあれだ!みたいなのが多すぎ、とか、悪役の高笑いのカットとか、ツッコミどころあり過ぎるのでぜひその目で確かめて欲しい。そして、カメオ出演。レイア姫(キャリー・フィッシャー)が出てきて驚く。まだ見てないのだが、2、3作目の出演者もすごいらしい(トム・クルーズやらビヨンセやらオジー・オズボーンやら)。

しようもないんだけど、なんだか愛おしい映画。英語のダジャレとか、各国の訛りのある英語など、これは何となくでしか聞き取れなかったのだけれど、英語圏ではこれまた爆笑らしい。
くだらないことを全力でやって笑かしにくるのを、素直にケラケラと笑う。楽しいヨ。さ、2月もやっていきましょ。

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モチーフ:冷凍保存したDr.イーブルを乗せ宇宙へ行くビッグボーイの像、Dr.イーブルの赤電話、オースティンのカメラ、愛車“シャグワー”、歯磨き粉、デンタルフロス、Dr.イーブルの愛猫ビグルスワーク、フェムボットの足、スコットランドの殺し屋の幸運のチャーム、オースティンの首飾りの雄記号
音楽:「Soul Bossa Nova」Quincy Jones オルゴールver. Cover

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