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【恋愛小説】ミッドナイトジュエリー-star-[後編]


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溢れる涙に光が乱反射する。
その先に居る貴方の表情が見えない。きっと申し訳なさそうに私を見つめているのだろう。
現に彼の手がそっと私の肩を包みこんでくれた。その優しく乗せられた手は、その優しさ故に貴方の方へ引き寄せられることは無いということが分かってしまって逆に辛かった。

「泣かないで。ね?」

そう言って私の涙を服の袖で拭ってくれる。貴方にしては少し荒っぽいその触れ方すら愛おしく感じられた。
貴方との距離が縮まり、控えめに香る香水の香りが鼻を抜けた。それが男性に人気なあのブランドの香水だと知っていた。貴方から香るとこんなにも爽やかで、温かいのが不思議だった。今はそれさえも切なく、胸が痛かった。

『ごめ‥‥なさい。』

言葉とは裏腹に、止めようと思えば思うほどに私の気持ちを表すように涙は奥からどんどん溢れ出した。
今、この瞬間。ここで貴方と別れを告げてしまえば、もう二度と貴方の腕の中に受け入れられることは無いだろう。あの大好きな温かい笑顔も、心から応援したい貴方の夢も。貴方のどこにも私の居場所は無くなってしまうのだろう。もしかしたら記憶にさえそう長くは留まらないのかもしれない。情緒が不安定で自嘲気味にそう思うと余計に胸が苦しくなった。

貴方にとって私がそうであっても、私にとっての貴方はそうじゃない。

きっとこの先、私が貴方の未来にいなくても、私がどこで誰と何をしても、貴方を思い出してしまうだろう。貴方と歩みたかった未来だと思ってしまう。今伝えなくては、きっとずっと後悔する。

『…話、聞いて欲しい。』

「わかったよ。」

『私、やっぱり貴方の一番近くで貴方の夢応援したいよ。いってらっしゃいも、おかえりも言いたい。私に貴方と一緒にこの先歩んでいきたい。こんな事言える立場じゃないけど、分かってほしい。これが変わらない私の気持ちなの。』

「俺は君が嫌いになって別れたわけじゃなかったんだ。ただ、喧嘩が絶えなくなってお互いがお互いを大事に思えなくなってしまっていたのが苦しかった。それほどに君が大好きだったから。」

貴方の素直な気持ちが私の胸に突き刺さるように痛かった。でもそれは、温かくて切ない痛みだった。


「別れてから色々考えて、当たり前に思っていたことがこんなにかけがえなかったんだなって気づいたよ。だから‥‥」

そこで言葉を切って、貴方は私に向き直り目を見つめた。時が止まったような錯覚がした。それはまるで初めて出逢った日に初めて目を合わせた時のように、鼓動だけが身体中に響くような時間だった。


「もう一度俺の彼女になってくれませんか?」


止め処無く流れていた涙が止まって、大粒の涙となって後から後から溢れ出した。
声が声にならなくて、首を縦に振ると耐えきれなくて声を出して泣いてしまった。

顔もぐちゃぐちゃで涙が流れ続けてるボロボロな私を貴方はそっと抱き寄せた。温かくて少し硬い胸元は、私のと同じ速さの鼓動が感じられた。
そして今度は貴方の香りに全身が包まれた。単に香水の匂いではなく、これは私を安心させてくれる貴方の香りだ。

ようやく落ち着いて涙が止まった私に、貴方はにっこり微笑むと言った。


「さっき俺、家庭持ちたいなぁとか考えてたって言ったけど、君としか考えられなかったよ。」


真夜中の浜辺。暗闇の中だからこそ光り輝く月と星、私には貴方だ。

ミッドナイトジュエリー-star-  FIN

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