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レビュー The Lyrics① 序文
Paul McCartney The Lyricsの日本語版が発売されて2ヶ月が経った。英語版発売から数えると9ヶ月。
デビュー前から今日に至るまでの154曲を、ポール自身の言葉で語り尽くし、またプライベートに保管されてきたメモ、写真などさまざまなメモラビリアを惜しむことなく公開してくれている傑作本だ。
が、その情報量の多さゆえかあまり多くのレビューを見かけない。ビートルズアンソロジー本、ポール自伝メニーイヤーズフロムナウに匹敵するこの作品が多くの目に触れられないのはあまりにももったいない。大きさゆえになかなか開く手が進まないみなさんに腰をあげていただくためにも、数回に分けて読みどころレビューを書こうと思う。
初回のテーマは「序文」。
もちろん書いているのはポールマッカートニー本人。この序文が実に濃い。Kindleのマーカー機能を一番使ったのは序文じゃないかと思う。(日本語版ではマーカーや辞書機能が使えないそうなのでご注意)曲作りへの意識から、自身のバックグラウンド、聴く人に向ける想いをあますところなく語っている。短編自伝ならここだけでいいんじゃないかという充実っぷり。
序文はトレイラーに使われているこのフレーズから始まる。
何度も自伝を書かないかと声をかけられたけど、子育て中だったり、ツアーに出てたりタイミングが合わなかった。でも家でもツアー中でも同じくやっていたことといえば、新しい曲を書くことだ。ある年齢になると日記を見返して思い出に浸る人たちもいるけど、僕にはそんなノートがない。僕にあるのは日記のように書かれた何百もの曲だけだ。
そして、14才で初めてギターを手にした時から、ジョンレノンに出逢い、ビートルズとして曲を書き、ファンへの想いもアートとしての物語も歌詞に取り込まれていったことが語られていく。
ファンや読者あるいは批評家だって、本気で僕の人生を知りたかったら、どんなビートルズ本を読むよりも、僕の歌詞を読んでほしい。
また、ポールの曲作りに影響を与えた人たちのことが語り続けられる。
この本を作ることが決まった時、頭に思いかんだ人たちは両親じゃなかったけど、振り返るとどんな段階の曲でも無意識に両親がインスピレーションになっていた。
母親の口笛が幸せの象徴的な記憶になっていること、カーペットに寝転びながら聴いていた父親のスタンダードソングが親戚との楽しい思い出だけでなく、リズムやメロディやハーモニーの学習にもなっていたこと、マッカートニー家の「寛容性や良くあることがイイコト」という信念がみずからの思考に大きな影響を与えていることなどが語られていく。
これと対比して語られるのが、ジョンレノンが育った家庭環境だ。父親が家出をし、育ての叔父が早くに亡くなり「男系には運がないんだ」と語るジョンに「君のせいじゃないよ、どうにもできないだろ」と慰めの言葉をかけたエピソードが展開されている。
ジョンレノンについては、「お互いにとってあまりにも大きい影響だった」と語りながら、以下のように語るのが興味深い。
読者は、ジョンの思い出に真逆の感情があることを読み解くかもしれない。なぜなら、彼との関係はとても複雑だったからだ。
あるときはとても大きな愛と敬意に溢れていたけれど、そうでない時もあった。
ジョンのウィットや賢明さには敬意を抱かずにいられなかった。けれど時々、ジョンは本気でただのバカなんじゃないかと思うこともあった。
(曲作りに関して)
僕らはお互いの意見を、あらゆる特別な意味で尊重しあってた。
これらの内容については、各曲での説明でその複雑な感情を読み取れる。これまでのマッカートニー本が、(聖人扱いされるようになった)ジョンの言葉がすべてではないことの証明だったのに対し、この本ではポール自身のジョンの印象、特に家庭環境がつくった彼の人間像が繰り返し語られている。
次いでリンダとのエピソードが展開される。
リンダは妻であっただけでなく僕にとってのミューズだった。
当時、彼女以上に僕の作曲・作詞に影響を与えた人はいない。
本書に掲載されている多くのメモラリビアはリンダのススメによって保管保存されたものであることが説明されている。本書のきっかけがリンダの実兄ジョンイーストマンからのススメでもあることが記載されており、このプロジェクトを始めた時期にMPL Archiveなる会社が設立されていることも無関係ではないかもしれない。
序文の最後には、セレブリティとして生き続けることの難しさが率直に語られている。
今もって突然にリンゴとの不和やヨーコとの喧嘩がでっち上げられること、名声で潰されてしまった同業者たちへの深い哀しみ。それでもビートルズ時代のエピソードとともに持ち前の楽観性でこの序文は締め括られる。
どんなにやけくそな時も、すべてが悪く思える時も、「きっと何かが起きる」
そういう考え方が助けになるし、抱き続けるべき哲学だと思う。
冒頭にも書いた通り、短編自伝にもなりそうなほど充実した大ボリュームの序文だ。序文だから、よんだことあるエピソードっぽいからと飛ばさずに、ぜひポールの一言一言を噛み締めてほしい。
※本書より引用した節は、英語版を元に自身で訳したものを掲載しました。日本語版とは言い回しや詳細が異なると思いますが、ニュアンス訳と思ってお許しください。
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