【全文翻訳】香港版国家安全法(香港国家安全維持法)の全条を和訳【国家安全法とは】その①
タイトルのとおり香港版国家安全法(香港国家安全維持法)の全文を翻訳していきます。
ただし各条文ごとにどのようなことが書いてあるのかの和訳で、完訳ではありません(法律の完訳なんて恐れ多いことはできません)。
これを読んでいただくことで、香港版国家安全法のしっかりとした理解をもとにその法律自体の評価やこれから起こるであろう様々な事象を批評できるようになると思います。
香港国家安全維持法は6月30日夜11時に施行
本法律は2020年6月30日の午前中に全人代常務委で162票の満場一致で可決、同日中に中国側で公布施行されました。
これを受けて6月30日の夜11:00(23時)、香港側でも官報で公告され施行されました。
香港側で施行されるまで同法案の条文が一部の概要を除き一切非公開という異常なプロセスでした。
昨夜遅くに公表されたばかりの香港版国家安全法の各条文を翻訳しながら見ていきます。
全部で66条あり、翻訳していくのも結構しんどいですが、頑張っていきます。
初回は第1条~第19条までです。
>第20条~第39条まではこちらの記事へ
なお、香港国家安全法の英語版は現時点で公開されていません。
香港版国家安全法(香港国家安全維持法)全条和訳
第一章 総則
第1条
一国二制度、港人港治、高度な自治を正確に実施し、国家の安全を守り、国家分裂や政権転覆、テロ、外国勢力との共謀を防ぎ、香港の繁栄と安定の維持、香港市民の権利と利益そして国家の安全保障のために、香港の法制度とその執行メカニズムを確立して改善する決定を行い、この法律を定める。
第2条
香港基本法の第1条および第12条は香港基本法の根本的な規定であり、香港の機関、組織、個人の権利と自由の行使はこれらに違反してはならない。
(参考)
香港基本法第1条 香港は中国の不可分の一部である。
香港基本法第12条 香港は高度な自治権をもつ中国の中の一つの地方行政区であり、中国政府が直轄する。
第3条
香港の安全保障問題の基本的責任は中国が負うものである。
また、香港は中国国家の安全を維持する憲法上の責任があり、国家安全維持の義務を果たすべきである。
香港の行政機関、立法機関、司法機関は本法およびその他の関連法に則り国家の安全を驚かす行為や活動を防ぎ、処罰する。
第4条
香港における国家安全保障の維持は人権尊重、法律順守により香港市民を保護することで達成される。香港では香港基本法および市民的権利や政治的権利、経済的権利、社会的権利、文化的権利などに関する国際規約が適用される。香港の関連規定により言論の自由、報道の自由、結社の自由、集会やデモの権利が与えられる。
第5条
国家の安全保障を驚かす犯罪を防ぎ、処罰するために法の支配の原則が遵守される必要がある。犯罪は法律に基づいて処罰される。推定無罪の原則が採用される。弁護および訴訟の権利は保障される。一事不再理の原則が適用される。
第6条
国家主権、統一及び領土の保全は香港の同胞を含めた中国全国民の義務である。香港のすべての機関、組織、個人は国家の安全保障に関する本法および香港の他の法律を遵守し、国家を危険にさらす行為や活動を行ってはならない。
香港市民は中国の中の特別行政区である香港基本法を支持し、中国の中の香港特別行政区に忠誠を誓い、公職についた時には署名を行う。
第二章 国家安全保障を維持するための香港の責任と制度
第二章第一節 責任
第7条
香港政府は基本法に定められた国家安全法を早期に制定し、関連法を整える。
第8条
香港の法執行機関および司法機関は国家安全を危険にさらす行為を防止し、処罰する現行の法律を効果的に実施する。
第9条
香港政府は国家安全の保障とテロ防止の取り組みを強化する。また、学校、社会団体、メディア、インターネットなどにおける国家安全保障に関する広報、指導、監督、管理を強化するために必要な措置を講じる。
第10条
香港政府は学校、社会団体、メディア、インターネットなどを通じて国家安全保障のための教育を実施し、香港市民の国家安全の意識と順法意識を高める。
第11条
香港行政長官は香港の国家安全保障について中国中央政府に責任を負い、香港における国家安全維持の義務を果たしたことの年次報告書を中央政府に提出する。中央政府からの要請に応じて国家安全維持の報告を適宜提出する。
第二章第二節 体制
第12条
香港政府は国家安全維持委員会を新設する。同委員会は香港の国家安全保障維持に責任を負い、中国政府の監督と問責を受ける。
第13条
香港政府の国家安全維持委員会は行政長官が主席と務め、構成員は財政司司長、律政司司長、保安局長、警察長官、および本法第16条に規定されている警察の国家安全維持部門の長、入境事務長官、税関局長、行政長官官房長とする。
国家安全維持委員会は事務局を持ち、事務総長は行政長官の指名に基づき中国中央政府に任命される。
第14条
国家安全維持委員会の義務は次のとおり。
(1)香港の国家安全保障状況を分析、評価し、安全保障政策を策定する。
(2)香港における国家安全保障維持のための法制度と執行メカニズムの構築を促進する。
(3)国家安全保障維持のための香港における主要な事務と行動を行う
国家安全維持委員会の活動は香港内の他の機関、組織、個人の干渉を受けず、情報は非公開とする。また、国家安全維持委員会の決定は司法審査の対象とならない。
第15条
国家安全維持委員会は中国政府が任命する顧問を置く。顧問は委員会に出席する。
第16条
香港警察は国家安全部門を新設する。また法執行官を配置する。国家安全部門の長は行政長官が任命する。任命前には本法第48条に規定する機関の意見を書面提出する。国家安全部門の長は就任時に中国の一部である香港の基本法を支持し、中国の一部である香港に忠誠を誓い法を遵守し職務秘密を守ることを誓約する。国家安全部門は香港外から専門家や技術者を招くことができる。
第17条
国家安全部門の責務は次のとおり。
(1)国家安全保障にかんする情報の収集と分析。
(2)国家安全を維持するための措置と行動を行い、調整し、促進する。
(3)国家安全保障に対する犯罪の調査。
(4)政治的介入にかんする調査を行い国家の安全保障を評価する。
(5)国家安全維持委員会から委任された業務の実施
(6)本法で定められているその他の職責
第18条
香港立律政司(司法省)は国家安全事案および関連事案に対する犯罪の訴追を責務とする扱う特別な国家安全保障検察部を新設する。本部の検察官は国家安全維持委員会の同意を得て律政司司長が任命する。
(※施行前の新華社の報道では行政長官による指名となっていたと思いますが、法律では律政司司長になっています。)
国家安全保障検察部長は本法第48条に規定する機関の意見を受けた上で行政長官が任命する。国家安全保障検察部長は就任時に中国の一部である香港の基本法を支持し、中国の一部である香港に忠誠を誓い法を遵守し職務秘密を守ることを誓約する。国家安全部門は香港外から専門家や技術者を招くことができる。
第19条
香港財政司司長は行政長官の承認を得て、政府の一般財政から特別の資金を配分して国家安全保障維持のための活動に充て、必要な人員配置を承認する。香港の関連法の規定は適用されず、制限を受けない。財政司司長は毎年香港立法会にその資金状況について報告書を提出する。
今日も香港の状況は刻一刻と変わっています。そんな状況の深層を理解できるような基礎知識を得られる記事を目指しています。皆様からのサポートは執筆の励みになります。どうもありがとうございました