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トウシューズは12歳から?〜トウシューズのガイドライン〜

今回はWhen Can I Start Pointe Work?ーGuidelines for Initiating Pointe Trainin(David S. Weiss, M.D., Rachel Anne Rist, M.A., and Gayanne Grossman, P.T., Ed.M.)を読んでいきます。(一応日本語版もでていますが原文の一人抄読会です。)

ガイドラインの内容は以下の箇条書きの内容であり、それぞれの内容について以下でまとめていきます。(実際は論文のような形式で書かれているため、興味のある方はぜひ本文を読んでみてください!日本語→https://iadms.org/media/4698/iadms-resource-paper-guidelines-for-initiating-pointe-training-japanese.pdf 英語原文→https://www.researchgate.net/publication/26812833_When_can_I_start_pointe_work_Guidelines_for_initiating_pointe_training

1,12歳以上から。

2,もし生徒の膝や足の可動域が不十分な場合やアライメントが良くない場合はポワントワークは許容しない。

3,もし本当にプロフェッショナルを目指す生徒でない場合はポワントワークは推奨しない。

4,もし体幹や脚が弱い場合はポワントワークの開始を遅らせてこれらを強化するためのプログラム(トレーニング)を行う。

5,もし生徒が過伸展(柔らかすぎる)の足と膝を持つ場合はポワントワークを遅らせて筋力を強化するためのプログラム(トレーニング)を実装する。

6,もし週に1回しかレッスンを受けていない場合はポワントワークは推奨しない。

7,もしクラスを週に2回受けていて、上記のどれにも当てはまらなければバレエのトレーニングを開始して4年でポワントワークを開始しても良い。

以下本文の解釈付き要約です。(一部文章を解釈しやすいように飛ばしたり付け足したりしています。)
成長と発達
【平均的には12歳になると脚や身体の成長が緩やかになるが、個人差はとても大きい】「X歳」になったらトウシューズが履けるわけではない。女子の身長の成長速度は10歳ごろから急激に増し、12 歳で1年におよそ 10.5cm 伸びるピークを迎える。体重の成長速度は、12.5 歳で 1 年に 8.5kg のピークを迎 え 15 歳で 1 年に1kg 以下に急激に減速する。ロイヤルバレエ学校とロイヤル アカデミーオブダンスの元顧問整形外科医である、ジャスティン・ハウスは、

「最も重要な要素はその子の発達過程であり、子供の成熟度に年齢は何の参照にもなりません。」

と 言いきっており、 またこの急成長時期において、当然それぞれの子供によって成長段階に著しい違いがあるため注意が必要である。


【足の成熟程度はトウシューズを履くタイミングの判断に有用だが、レントゲンなどでは評価することは難しいため評価基準には用いにくい】トウシューズの練習を 12 歳で始める理由として「12歳になれば足の骨が成熟したと考えられている」ということがよく挙げられるが、この概念は基本的には間違っている。なぜなら、管状骨(長骨)の成長が完了するのは、骨端(成長プレート)の融合あるいは閉鎖によってわかるのだが、最後に足の骨端の閉鎖が起こるのは女子では平均 14 歳だからだ。平均的な女の子の足は12歳まで毎年0.9cmづつ成長し、その後 2 年間の平均成長は 1 年に 0.8cm と遅くなる。足の骨の成長が完了していない状態でトウシューズの練習を始めたとして、トウシューズの練習が成長過程の足の骨を痛めるという医学的な証拠は現在のところはない。しかし、体操選手に関する研究文献においては「反復的な微細な外傷が成長過程の骨に害を与えうる」ということが立証されているため、12 歳以前(成長段階の足)にトウシューズの練習を始めることが全く安全であるというわけではないのだ!であれば、骨が成熟したのかどうか知ることができればよいのだが、骨の成熟過程についてレントゲンでは詳しく知ることができないし、暦の上での年齢が骨の年齢と同じように変化しているとは限らないため、骨端(成長プレート)の閉鎖以前の骨の成熟過程を決定する(知る)ことは難しいのだ。 

【セリアスパージャーは生徒がどのような状態になればトウシューズで踊って良いのかという目標を示している】暦の上での年齢は当てにならず、骨の成熟過程もは上手く評価できないとしたら、トウシューズを始める時期について他にどのような要素を考慮すればよいか。 セリア・スパージャーは、「解剖学とバレエ:バレエの先生のためのハンドブック(第5版)」という本でこう述べている。

「トウシューズを履いて踊ることは、全身、 背中、腰、太もも、脚、足、動きの調整、そして体の動かし方を、ゆっくりと徐々に鍛えるトレーニングの結果なのだと強調せずにはいられません。トレーニングによって、子ど もたちは、重心が高い位置に保たれ、膝が伸びて足部に体重がかかりすぎず、完璧なデミポアントを行い、かま足の傾向もなく、つま先が内にも外にも入らず、足指が曲がっても 掴んでもいない状態で、完璧なバランスで踊れるようになります。その時期は、子どもに よって全く違うタイミングで現れます。そして、そのタイミングは、これまでの訓練だけでなく、骨の成長をも含んだその子の体格や体質によって決まるのです。」

要するに、
① 重心が高い位置に保たれ、膝が伸びて足部に体重がかかりすぎていないこと、②完璧なデミポアントができる、③かま足の傾向もなくつま先が内にも外にも入らずまっすぐ伸ばすことができる、④足指が曲がっても 掴んでもいない状態になっている、というこの4つを目標にして生徒を評価すればよいのだ。具体的にどのような点に注目して生徒を評価すればよいのかに関してはこのあとに述べられている。では、この目標を達成する前にトウシューズを履き始めるとどのくらい危険なのか。


【提示した目標に達する前にトウシューズを履いてしまうことはとても危険、特に関節が柔らかい子や硬い子は更に危険である】スパージャー氏が提案しているように、子供たちの身体が準備段階に至る前にトウシューズを履くことの危険性は、生まれつきの骨や関節の形によってもたらされることは実際には少なく (もちろん関わっていることは事実なのだが)、不十分な関節可動域、筋力、そして安定性といった身体の機能とより深く関わっている。すなわち、早くトウシューズをはいてしまうと脚・骨盤・胴体への過剰なストレスをもたらすかもしれないのだ。

関節弛緩性が高く、柔らかすぎる足と足首を持った子供にとっても、早くトウシューズを履 くことは特に危険である。こういう子は一般的に「甲の高すぎる」もしくは「つま先を伸ばしすぎる(ポワントしすぎる)」と思われる足のことだが、必要なあるいは過剰すぎるほどのポアントの形と柔軟性を持つがために、一般的にはバレリーナとして期待されがちである。しかしながら、このような生徒は往々にして、トウシューズを履いて安全に踊るための筋力と姿勢を調整する能力に欠けているため、トウシューズの練習を始める前に、脚のすべての筋肉を鍛え、自己受容性感覚を発達させ、正しい身体のポジション(アライメント)を身につけさせなければならない。

また、逆に硬い足と足首をしている子供には、ポアントをする時の足関節底屈(つま先を伸ばすほうへの)可動域が不十分であることによる危険がある。正しいポアントのポジションを確実にするためには、ポアント(足首とつま先の底屈)で立った時に、中足骨(足の甲)が脛骨(すね)と平行でなければならない。しかし、このような正しいポアントをすることに適した身体の条件を伴わない状態でトウシューズを履いて踊ろうとすることは、足と足首にだけでなく、脚・骨盤・胴体にも過度なストレスをかけることとなる。もし膝が過伸展し、 反張膝であったら、ポアントでたった時の正しい身体のポジションのために、通常以上の足と足首の関節可動域(底屈)が必要であるが、残念ながら時間をかけても足と足首の関節可動域が十分なレベルに達しない場合があり、このような制限をもった子供たちは、トウシューズの練習のための十分な可動域を得ることができない可能性が高い。 

【目標に達しているかどうかはどのような点を具体的に評価すればよいのか】筋力と自己受容性感覚の成長に関係している要素の 1 つは、バレエのレッスンを始める年齢である。4歳から始まるエクササイズクラスは、他の目的(音楽性とか)には有効かもしれないが、バレエの動きを習得するための適切なトレーニングは 8 歳以前には熟達しない(チェケッティもバランシンもこれには賛成している)。もう1つの要素は、子供が行うバレエレッスンの頻度でである。一般的に 1 週間に 2 回レッスンを受けている子供は、1 週間に 1 回レッスンを受けている子供よりも早く上達するし、1 週間に 4 回レッスンを受けている子供は最も早く上達する(ちなみに週に4回のレッスン頻度は、通常プロを養成するバレエ学校で行われているものである)。

どんな 13 歳のクラスの中にも、それぞれ違った体つきや能力の女の子がいるように、トウシューズで踊ることについても、異なる発達段階にある子どもたちがいる。これは、 ダンスの指導者にとって大きな責任があるということであり、それぞれの生徒の成長と発達段階は、子供にトウシューズの練習を始めさせる前に十分に考えられるべきである。指導者は、生徒がトウシューズの練習を始めるかもしくは続けるために、①正しい姿勢のコントロール(よい腹筋と胴体の安定性)ができているか、②十分な脚の筋力があるか、③そして正しい脚(腰、膝、足首、そして足)のアライメント(位置関係)があるか、それぞれ各自で評価を行うべきであり、さらにトウシューズで踊る事に関するすべての判断理由を生徒の両親に説明しコミ ュニケーションをとることは誤解を防ぐ意味でも重要である。

【このガイドラインの重要性】最後に、トウシューズの練習を始める時期を決定する上で、正しく評価をすることの重要さを強調する理由を 2 つ紹介する。まずひとつめは、トウシューズで踊ることに苦労しているダンサーは、トウシューズで立つこと以外の他のバレエの技術の上達も難しく感じている場合があるということ。次に、要求された動きを適切にトウシューズを履いて踊れないことによって、こうしたダンサーは、自信と自尊心の損失を含む精神的な問題を抱えることがあるということ。 したがって、私たちはトウシューズの練習を始める時期を決定する時には、用心深い方が賢明であると思われる。ハウス氏がこう書いている。

「有名なダンサーたちの中には、16 歳を超えるまで身体がトウシューズを履くのに十分な強さを備えなかったため、トウシューズを履かなかった人もいます。このことは、トウシューズを履き始める年齢が遅いからといって 経歴に不利になることがないということの証明です。」

トウシューズを効果的に用いた踊りの振付家として著名なジョージ・バランシンは、「ベビーバレリーナ」を創り出した人であり、彼は「もし幼いダンサーがトウシューズで立っても何もできないんだったら、トウシューズで立たせる理由はないよ!」と言ったと伝えられている。

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以下に本論文の冒頭にある要約を添付します。

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トウシューズのトレーニングを開始する場合は、その生徒がいくつかの要素を満たしていることを慎重に見極める必要がある。要素には以下の点が挙げられる。

生徒の身体の成長段階、体幹の強さ、重心のコントロール、腰・膝・踵・足の骨格配列、足と膝の強さとしなやかさ、ダンストレニーニングの期間(少なくとも4年)と頻度(少なくとも週2回)、など。これらがすべて満たせていない生徒には満たすまでトレーニングを重ねる必要がある。

また、レッスン内容はプロフェッショナルダンサーを目指したレッスンであるべきであり、プロフェッショナルを目指したクラスでない場合はトウシューズは見送るべきである。

幼いダンサーがこう聞く、「いつトウシューズを履いていいの。」答えは大抵ほぼ 即答で「12 歳になったらね。」。「あなたはどんなダンスを学んでいるの。」と答えてくれれば良いのだが。12 歳でトウシューズの練習を始めるということは、プロのバレエダンサーを育てるよう組まれたプログラムを持つバレエ学校で4 年目を迎えようとして いることが前提となる。プロフェッショナルなクラスを8歳や9歳で受けることは、すなわち骨格的にバレエに向いているということであり、最初の3年でレッスンはだんだんとより高度な内容で頻度が上がっていく。12歳の頃には週4回のレッスンを受けているであろう。そのころには足や膝が強くなり、体幹や骨盤のコントロールも良くなり、感受性も発達しているだろう。ポワントワークは初めはレッスンの最後に15分から始めるべきである。

バレエ学校に入学を許可された生徒は、5 歳で地元のダンス学校でレッスンを始め、10 歳になった今、週に 1 度バレエとタップのクラスを受講しているような子供とは、別に考えられなければならない。ある子は年の割に体も小さく、足も足首もあまり強くなかった。背骨、膝、足、足首の関節もとてもゆるく、いわゆる柔らかすぎるタイプであった。 その子の先生は 2 年前にトウシューズの練習を彼女に始めさせようとしていたが、母親は子供がそれほどバレエを本気でやっていないと感じていた。従姉妹は 10 歳でトウシュ ーズの練習を始めているのに、なんで自分は 10 歳になったのにトウシューズが履けないん だろう、と彼女は思っているかもしれないが、それでも、こういう子供とバレエ学校の生徒と別に考えなければならいないのだ。

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