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【188/1096】【映画鑑賞記録】パラサイト 半地下の家族

188日目。2020年1月に観たパラサイトの感想を下書きに熟成してたんで、
昇華させたい・・・ということで、今日はこれです。


韓国映画が好きなら観るであろう一本。
ポン・ジュノ監督&ソン・ガンホ主演。
カンヌ国際映画祭パルムドール受賞作品。(なんと韓国映画初!らしい)
アカデミー賞有力候補だそうな。
(追記:20220411 その後アカデミー賞、作品賞、監督賞、脚本賞、国際長編映画賞を獲りました。)

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ポン・ジュノ監督作品は全部観ている。
殺人の追憶なんて何度観たかわからない。
このパラサイトも、日本語のタイトル決まる前の記者会見の頃から観るの楽しみだった。
どこかの映画で、予告編を観て、今回はなんか笑えそうだと期待。(前半は笑える)

この人の世界観が好きだ。
パラサイトは、本国のタイトルは「기생충(寄生虫)」。
寄生虫のママだとグロテスクな感じがするから、カタカナに変えたのだろうか?とちらっと思う。
でも、なんというか、質感は「기생충」って感じそのままの映画だった。

ここからガンガン、ネタバレします。
公式サイトに、ネタバレ厳禁って書いてるので、
観る前の人は観た後に読んで。
それで観ないで読まないほうがいいと思う。
観て。とりあえず、観て。もう一度いうけど、観て。
(大事なことだから3回言う)

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半地下

半地下とは、韓国独特の住まい方だと思うけど、貧困層の人が住んでる象徴の一つ。韓国の作品には、お金ない人は、半地下もしくは地下か、屋上の小屋みたいな賃貸借りて住んでるって言う設定が数多くあるけど、現実でもそうらしい。
半地下に暮らしているキム一家は全員無職。
過去になんども事業に失敗している父、キム・ギテク(ソン・ガンホ)
甲斐性なしの夫を嘆いて、当たり散らしてる母のチュンスク(チャン・へジン)
大学に通うお金がなく、若さと能力を持て余している兄のギウ(チェ・ウシク)
美大を目指すも予備校に通うお金が無く才能を腐らせている妹のギジョン(パク・ソダム)
映画ジョーカーの時も書いたけど、この貧しい暮らしの閉塞感がリアルだ。

トイレの便器の方が暮らしている床よりも高い位置にある。
上に住んでる住人のWi-fiをパクっていたのがパスワードを変えられたと家中、どこかWi-fiが入る場所を探しながら、家中の様子を映し出す。
この演出!

カビが生えて、もう黒カビが取れない感じとか。
散らかって片付かない感じとか。
日当たりがうっすらで、なんと無く不衛生さが漂う感じとか。
半地下のリアルさが映し出される。
半地下は、窓を開けるとネズミの消毒剤が入ってきたり、酔っ払いが立ち小便していたり。窓から見えるのは、家のまえを通り過ぎる人々の足だけだ。

家族は口は悪いけど、お互いを助け合って、支え合って生きているけど、なんかほんの少し抜けている。
一家は贅沢を望んでいるのではなくて、望むのは、『普通の暮らし』である。
映画の冒頭から、格差社会で生きる貧しい家族の様子が映し出されていく。
ピザ屋の内職(ピザを入れる箱を組み立てる)を一家4人でやっているシーンは、一見、家族で協力しあって、微笑ましい。
だけど、この家族縛りがきつい、とも感じた。韓国は血縁家族に、日本よりも疑いがないように感じる。だから、子どもが父母を敬い、助けるのは当たり前だ。親のツケを子どもが払う。そのループが格差社会を作っているのに。

エリート一家との遭遇

ある日、ギウは幼馴染でエリート大学生のミニョク(パク・ソジュン=カメオ出演。出てきてびっくりしたw)から、家庭教師のアルバイトを紹介される。

大学生でないギウは一旦は固辞するものの、4回も大学受験したギウより、適した家庭教師はいないとミニョクに説得され、ギジョンに卒業証書を偽造してもらい、IT企業の社長パク・ドンイク一家が暮らす高台の大豪邸で、家庭教師のアルバイトをすることになる。
ミニョクがギウに家庭教師を紹介する理由が、ダヘ(家庭教師している高校生)と付き合っていて、同じ大学の工学部の奴らに紹介したら気が狂いそうになるから。その点、ギウなら、心配ない。「ダヘが大学生になったら真剣に付き合う」と念押ししていく。
ここにも、格差社会の前提が散りばめられている。ギウは、ミニョクの相手になっていない。ミニョクはギウに友情があるし、優しさも感じるけれど、根本的には対等じゃない。でもそれが当たり前なのだ、と言う前提。
後半で、「ミニョクだったらどうしただろう?」と言うギウのセリフがあり、ギジョンが「ミニョクオッパなら、そもそもこんなことは起こらないのよ!」と激怒するシーンがあって、持てる者と持たざる者の対比と当たり前に刷り込まれている思想が浮き彫りになっていた。

IT企業社長の高台の家は、半地下の家とは正反対の、燦々と光が差し込み、美しく、豪華で惚れ惚れするような空間だ。
ここに住む、パク社長(イ・ソンジュン)と妻のヨンギョ(チョ・ヨジン)も美しい!
ソン・ガンホは、普通のおっさんやらせたらピカいちだと思ってるんだけど、(映画祭とかでみると別人です)この映画でも貧乏くさい、なんかちょっと臭いそうな感じをほんとうにうまく醸し出していて、それに対比してパク社長はいい匂いしてそう感がすごい。
リアルさがすごいんだよ、ほんとこの人すごい。

この映画は、「におい」を貧富の差のテーマにしている。当然だけど、映画からにおいはしないので、観ている観客には実際のにおいは届かない。
にも関わらず、映像を観ていると、そのにおいがほんとうにしてくるような気がした。
それほど、ディティール細かく作り込まれている。さすがポン監督作品。

寄生する家族

パク社長家に、家庭教師としてうまく入り込んだギウ。
奥様は「ミニョク先生はブリリアントな人でしょ」とかなり気に入っていたようで、ギウの授業を観て決めるというシーンがある。
「実践は勢いだ」と言って心をつかむところが、ギウの心理とマッチしていて面白かった。
ダヘともすぐに打ち解けて、教え方もうまいし、「なんで大学生になれないんだろうか、この人」と切ない気持ちになる。
ヨンギョ(奥様ね)は、ミニョクが「なんて言うか、あの人はシンプルで、いい」と紹介していたのだけど、その通りで、単純と言うか、人を疑わないと言うか、難しいことを考えることを避けている。シンプルでわかりやすい人だ。

ダヘの弟のダソンの美術の先生を探していると言うヨンギョの話を聞いて、ギジョンを紹介することを思いつく。
「ジェシカ先生は、ほんとに紹介ですか?彼女じゃなくて?」とダヘに言われて、まんざらでもないギウの様子は、ミニョクに「真剣だ、手を出すな」とくぎを刺されたから、余計だよなあと思う。

ギジョンは、「ダソンは、1年生のときになにかありましたか?」と聞くと動揺する奥様を言い含めて、高額な家庭教師として契約に成功する。
そして、運転手に送ってもらう途中で、ベンツにパンツを脱いでおく。
そして、お父さんに運転手の経験があるか聞くのだが、この悪知恵の働く感じ、だんだんと寄生していく感じが、面白い。
次はきっと、母親を家政婦にして送り込むんだろうなと思わせる。

そして、IT社長の夫婦の会話が、なんというかちょっとズレていて、金持ちで権力を持っていてなんでも思い通りになる人たちは、少しずつズレちゃうのかしら・・・と、くすっと笑いながら、ちょっと奇妙な気持ちになる。

家族がちょっとずつ、ウソをついて、設定を変えて、IT社長宅で仕事をもらい、だんだん侵食していく。

父親に息子が、家政婦の交代をするためにウソを言うのに演技指導する場面があるのだが、天下のソンガンホ相手にするのはすごくプレッシャーだったというチェ・ウシクのインタビューを見たので、そのシーンがまたウケた。

こんなウソをそのまま信じるなんてと思うのだけど、奥様はまったく疑うことなく信じるのである。
そして、長年勤めていた家政婦に辞めてもらうことに成功する。
家族全員でIT社長宅に入りこむ。
ダソンに、「匂いが一緒」と言われて、ドキッとする。
半地下の匂い。

IT社長一家がキャンプに出掛けた日。
家族で、豪華な家を堪能する。
そしてギウがダヘの日記を見て「ダヘが大学に入ったら付き合う。真剣に」と言う。ミニョクが言ったとおり。
本当のことがひとつもない、危うさ。
自分たちがだましているのに、IT社長家族を心配したり。
辞めさせられた運転手のことを気にしたり。
この家に住んだらどうする?
もうここは俺たちの家だと話しながら。
雷と大雨の中。

地下室の忘れ物

辞めた家政婦が訪ねてくる。
「地下室に忘れ物をしたので、入れてほしい」と。
地下室の奥に、扉がある。
そして、
「ヨボー!!」と叫んで降りていく家政婦。
(여보(ヨボ)夫婦間で呼ぶ呼称)
なんと、地下の隠し部屋に夫をかくまっていたのだ。
なんと4年も。
借金取りから逃げるために。
顔中なぐられた顔で、必死に頼る元家政婦。
そこで盗み聞ぎしていたギウ達がなだれ込んで、形成が逆転する。
どちらにしても、自分の家ではないのに、
なぜか、家政婦夫婦とギウ達家族が、IT社長宅でくつろいだり、
罵り合ったり、おどし合ったりしている。
そして、醜い争いの最中に、
「ジャージャー麺、つくれるでしょ?」
と奥様から電話がかかってくる。
あと、8分で帰ってくる!!!!
ものすごい勢いで片付けをし、地下室に家政婦の夫を縛り付け、ジャージャー麺をつくり、奥様に言いつけようとする家政婦を足蹴にして、階段からつきおとす。
ソファの下にギジョン、ダヘのベッドの下に隠れるギウ。
そして、モールス信号らしい、階段のライトをつけたり消したりして地下室から送るという家政婦の夫。
地下に縛り付けて、なんとか逃げ出そうとしたが、ダソンが庭にテントを張りだし、ソファの下に隠れる家族。
ところが、ダソンのテントを見張るために、社長夫婦がソファに居座る。

キム運転手のにおいがしないか?というパク社長。
煮洗いした布巾のにおい、地下鉄のにおい。地下鉄の乗客のにおい。
度を越しそうで越さないところは評価するが、
においは、車の後部座席に越えてくる、という。
パク社長がものすごく差別的に感じるのだが、そのあとに夫婦でいちゃつきだし、それがなんだか笑いを誘う。
2人が寝入った後、大雨の中、家路につく家族。
「このあとのことは、アッパ(お父さんのこと)に計画があるから、おまえたちは忘れろ」
と言って家に帰ると、便所の水が大雨であふれて、半地下の家は、水浸しになり、腰まで水につかる有様だ。
地下にいる家政婦夫婦と、水浸しの半地下の家と、テントで大雨から顔をのぞかせるダソンが映し出されていくさまは、
これが現実だ、とつきつけているようだ。

「計画を立てると人生はぜったいにうまくいかない。
ぜったいに失敗しない計画は、無計画だ」という父。
ミニョクの祖父がくれた石だけ持って逃げたギウ。この石が自分を追いかけてくるのだと。

誕生日パーティで

体育館で寝ている3人とは対照的なパーティを準備するパク社長宅。
ギウ達一家も全員呼ばれて、集まる。
インディアンの格好をして、サプライズをする準備をするパク社長とギテク。
「社長も苦労しますね。でも仕方ないですね、奥様を愛してますもんね」
というと、急に怖い顔になるパク社長。
そこはパク社長にとって、キム運転手(ギテク)が越えてはいけない線なのだろう。
このときのソン・ガンホの顔が、ものすごく印象に残った。

石を持って社長宅にやってきていたギウ。
その石を持って地下にいくと、家政婦の夫に返り討ちに合う。
非常に暴力的なシーンが続くので、外のパーティののどかな様子との対比がすごい。
ダソンのトラウマを克服するためのパーティを企画していたのに、目の前でもっとひどいことが起きる。
パク社長が、車のキーをとろうとして、刺された家政婦の夫のにおいに鼻をつまんだとき、ギテクの中で何かが切れた。
そして、パク社長をナイフで刺して逃げる。

その後・・・

私文書偽造、住居侵入、傷害致死、しかし正当防衛で執行猶予となったギウと母。
妹のギジョンは家政婦の夫にさされて死んだ。
そして、キム運転手(ギテク)は見つかっていない。
あの家(パク社長の家)を山から見るギウが、ライトのモールス信号を見る。
「こんな地下で生きていけるのか?」と聞いていた父は、あの地下の部屋で隠れていた。
あの日のことは、夢のようで、夢でないようだと。
そして、父の手紙をうけとったギウは
「計画を立てました。金を稼ぎます。そして、あのいえを買います」
と言う。
そして、お父さんはあの階段を昇ってくるだけです。
その日まで元気で、と。

そんな日はこないだろう、と思うラストだった。
そんなイメージの映像が映されたのだが、どこか現実味がない。

観終わった後、血だらけのギウを背負って逃げてくれたのはギウに好意を寄せていたダヘで、ダソンは目の前でギジュンを刺すシーンを見て倒れた。
あの姉弟は、どうなったのだろうと思った。

なんとも救いがなくて、不条理で、理不尽な映画だ。
でも、なんかそれが妙なリアルさを感じる。
妄想と現実がないまぜのような世界。
富裕層と貧困層という階級への怒りがこめられているのだろうか。
階段がとても印象に残る映画だ。

ポン監督の作品なので、ご他聞に違わず、観終わった後の何とも言えない飲み込めない感じが後を引く。
実際にあるのに、観てみぬふりをしているものを突き付けられるからかもしれない。

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