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「小説家になりたい人(自笑)日記」はじめました。 

ブックサイト「好書好日」の連載「小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。」の、「小説家になりたい人」こと、清 繭子。地方文学賞の〈審査員特別賞〉を10年以上も前に貰ったきりの私が、無謀にも会社を辞め、小説家になろうとする、もう自分で自分を笑うしかない(自笑)な奮闘の日々。


清、会社辞めるってよ。

2022年春。コロナの感染者数が急増し、会社のイントラネットでは「出社をなるべく控えるように」というアナウンスが赤ボールドで掲出される中、編集部のフロアで私はまばらな拍手を受けていた。

17年勤めた会社を退職する。

22歳、新卒で入社した私は、気づいたら同じ会社で39歳になっていた。
その会社を、今日辞める。

人間関係とくに問題ないけど辞める。

むしろ上には可愛がられ、下には支えてもらい、同期には甘え、何もかもスムーズで快適だけど辞める。

産休・育休・時短勤務とやっぱり正社員最高だけど辞める。

雑誌・書籍の編集の仕事だから服装・髪型自由だし、フレックス制だし、長期休暇もとれるけど辞める。

最近、副業OKになったけど辞める。

今辞めるとずっと憧れてた退職の挨拶とか送別会とか自粛になっちゃうけど辞める。送別会で山口百恵の「さよならの向こう側」歌いたかったけど辞める。45歳まで待てば、退職金にチャレンジ資金追加されるけど辞める。仕事、やりがいあるけど辞める。私ってこの仕事向いてる~って思うけど辞める。家のローン組んだばっかだけど辞める。相談すると「今じゃないでしょ」ってだいたい言われるけど辞める。コロナで先行き不安だけど辞める。何度も辞めるタイミングあったのに、結局辞めなかったけど今度こそ辞める。

辞めるったら辞める。

出版社辞めて、フリーライターになる。

そんで合間に小説書いて、応募して、文学賞獲って、

小説家になる。


怖っ! こうして書いてみたら怖すぎる。「(自笑)」とかいう前に、もう「怖っ!」の一言。

タイトルの「(自笑)」で「はいはい、そうですよ、なれるわけないですよね」て予防線張ってるとことか、透けて見えてムリ。そんなんしても、重いって。人生の選択ミスが重すぎるって。

でも、小説家になりたかった。

そのためには、会社員じゃ無理だった。

私には子どもがいる。
子どもにご飯を食べさせ着替えさせ連絡帳を書き薬を飲ませ、保育園へ送り、仕事をし、保育園へ迎えに行き、ご飯を作り、食べさせ、お風呂に入れ、着替えさせ、薬を塗り、寝かしつけ、生協の発注やら片付けやら最低限の家事をして、そのあと、夕方以降に来た会社のメールに目を通す。合間にSNSチェックして、ネットフリックス見たら、就寝時間。

そこには、小説を書けない言い訳が無限にあるのだ。

書けないから、応募できない。応募してないから、受賞できない。
だから小説家になれなかったのは、しょうがない。

そうやってやっていくのが、やっていけるのが、急に嫌になった。
尊敬していた人の人生が、突然止まってしまった日に。





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