清 繭子/小説家になりたい人(自笑)日記

きよしまゆこ/小説家になりたい人  四十を過ぎて小説家を目指す、己を笑うしかない日々の…

清 繭子/小説家になりたい人(自笑)日記

きよしまゆこ/小説家になりたい人  四十を過ぎて小説家を目指す、己を笑うしかない日々の記録。web「好書好日」にて新人賞受賞者へのインタビュー「小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。」連載中。出版社で雑誌・まんが編集を経て独立。「深大寺恋物語大賞」審査員特別賞受賞。

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  • ひとひら小説

    これまでのひとひら小説をまとめました。400字から1000字の掌編です。

  • 刺繍詩集

    清 綿子(きよしわたこ)として、刺繍で詩を描いてたときの作品集です。 「ことばを持って歩く」をコンセプトに、ことばと、そのことばの持つ情景をハンカチに刺繍した「ことばハンカチ」を作っていました。毎年個展をし、装苑で「新しい詩集作家」として取材されたことも。またいつか、詩の続きを描きたいな。

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「子どもを産んだ人はいい小説が書けない」

「子どもを産んだ人はいい小説が書けない」と言われたのだった。 あまりの衝撃で唖然としてしまった。ひとまず、公平にするためには文脈もあわせて伝えるべきだろう。 その人は「新人賞を獲るような小説は今は書けないのかもしれないね。別のやり方で小説を書くしかないのかもね」と付け加えた。 理由は、「子どもという大事なものがすでにあるから、(小説と子どもという)二つのものを同時に極めるのは難しい」というようなことを言った。 「今じゃないのかもしれないね」気の毒そうに少し愉快そうにそ

    • みっともないまま人生は美しい 古矢永塔子「夜しか泳げなかった」書評 

      ライトノベルに偏見がある。 読んだこともないのに、「たぶん……合わないな」とページをめくったことがない。 余命系恋愛映画にも偏見がある。 「あーはいはい、なるほどなるほど」と予告編でわかった気になって、「1リットルの涙」も「世界の中心で愛を叫ぶ」も「糸」(あらすじ知らないけど余命系な気がする)も観てこなかった。 『夜しか泳げなかった』は、そんな私の偏見レーダーに引っかかりまくりの始まり方をする。 中高生に人気のベストセラー小説『君と青宙遊泳』は高校教師・卯之原がかつて封

      • ポッドキャストで公募歴語る

        好書好日のポッドキャスト「 本好きの昼休み」 におじゃましました。 深大寺恋物語審査員特別賞をもらった受賞作の話、 6年間片思いしていたこと、 演劇での挫折、 エッセイストデビューのきっかけなどなど かなりのびのび話すことができました。 色んなところで聞けます。 来週の後編もお楽しみにー! https://youtu.be/f7ye610GBXM?si=C5oBbM8T7imXRTc-

        • 藤井裕子さんのこと。

          「夢みるかかとにご飯つぶ」で、出版社にいたころの先輩・藤井裕子さんについて書いています。 藤井さんは、うちの会社の名編集者。 数々のヒット料理本を手掛け、料理好きな人だったら絶対一冊は藤井さんの編集したレシピ本を持っていると思います。 しかもそのレシピ本はその人にとっての生涯ベストレシピ本になっていることが多い。 「私、藤井さんの本から料理家目指したんです!」なんて料理家の先生が目をきらきらさせて話すのを何度か目にしました。 そんな藤井さんはアナ・ウィンターみたいな鋭い目

        • 固定された記事

        「子どもを産んだ人はいい小説が書けない」

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        • ひとひら小説
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        • 刺繍詩集
          4本

        記事

          戦争を描くことの傲慢と希望 「生きとし生ける」長谷川未来

          父方の祖母は満州からの引揚者だった。 それまで満州国で優雅な暮らしをしていたけれど 日本が負けてそれまで虐げられてきた中国の人々による暴動が起き、家に火をつけられた。 火が燃えさかる2階から顔をだすと、当時、書生として雇っていた中国の青年が両手を広げて僕のところへ飛び降りろ、と言う。 思い切って飛び降り、青年が抱き留めてくれ、逃がしてくれ、急死に一生を得たそうだ。祖母はずっと感謝をしていた。 母方の祖母は親戚を広島の原爆で亡くした。 赤ちゃんを負ぶって配給の列に並んでいた時

          戦争を描くことの傲慢と希望 「生きとし生ける」長谷川未来

          不幸じゃないと芸術できない? 洸村静樹さんの書評から

          洸村静樹さんが「夢みるかかとにご飯つぶ」について紹介してくださいました。 「クウネルかと思ったら、ぎらついてた」という評が嬉しかったです。私、前にいた雑誌編集部の面接で「天然生活とか、ああいう嘘っぽい丁寧な暮らしって私、嫌いなんです。それに比べて御社の雑誌は地道でいい!」って言い放ったんです……何様なんだ、という……。 「丁寧なくらし」系だと決して思われたくない、「丁寧なくらし」なんかできない人たちとともにありたい、と思いながらやってきたので、嬉しい限りでした。まあ、クウ

          不幸じゃないと芸術できない? 洸村静樹さんの書評から

          ネガティブ読書案内「何者でもない自分が情けない時」

          集英社文芸ステーションの連載「ネガティブ読書案内」にて、 「何者でもない自分が情けない時」というお題でおすすめな本を二冊紹介しました。 何者でもない私から、何者でもないあなたへ……。 台風の夜、楽しんでいただければ幸いです。できればちょっと笑ってほしい。

          ネガティブ読書案内「何者でもない自分が情けない時」

          文學界新人賞・福海隆さん 原因は友にある。

          連載「小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。」 最近特別回が続いていましたが、久しぶりの通常回が公開されました。 「日曜日(付随する19枚のパルプ)」で文學界新人賞を受賞した福海隆さんです。 新人賞受賞者のインタビューをするとき、他の媒体はまだどこもインタビューしていないことが多いので、手掛かりは「受賞の言葉」になります。 福海さんの受賞の言葉には、友人の名前がたくさん出てきました。 ふぁにーちゃん(大田ステファニー歓人さん)の受賞の言葉に、当時恋人、今妻の「かおり

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          「元カレが坂口健太郎に似ていてね、」裏話つき試し読み

          私のデビューエッセイ「夢みるかかとにご飯つぶ」の中から、試し読みのリンクと、そのエッセイにまつわるちょっとした裏話をご紹介します。 元カレが坂口健太郎に似ていてね、 (試し読みリンクです↑)やまもとりえさんが続編を熱望してくださった、恋バナエッセイです。 彼にまつわる他のエピソードは二冊目のエッセイ集に残しておくとして(いっぱい語れることあります、乞うご期待)、同じ失恋シーンを刺繍作家・清綿子(きよしわたこ)として活動していたときに、詩にしているのでご紹介します。 別れて

          「元カレが坂口健太郎に似ていてね、」裏話つき試し読み

          ラジオ出ます!

          8/5月曜日、てか、今日! 18:10からJ−WAVE出ます。 グランドマーキー! 小説ともだちのタカノシンヤくんの番組です。 そうです! ともだちだから呼んでくれたんです。 優しい…!ありがたい…!せっかく頂いたこの機会…無駄にしたくないー! ちゃんと喋られますように…。 本を買いたくなるような話ができますように…。

          明日てか今日!月曜!ラジオ出るよ!J−WAVE、グランドマーキー、18:10ごろ!

          明日てか今日!月曜!ラジオ出るよ!J−WAVE、グランドマーキー、18:10ごろ!

          「子どもを産んだ人はいい小説が書けない」後日談つき試し読み

          私のデビューエッセイ集「夢みるかかとにご飯つぶ」、いくつか試し読みできます。そのリンクとちょっとした裏話をご紹介します。 じつは、このエッセイ、後日談があります。 「子どもを産んだ人はいい小説が書けない」と私に言った人に、このエッセイ集を見られたら気まずいな…とずっと気に病んでいて……。 その方の創作論に助けられたこともたくさんあるし、ベースはいい人間だと知っているので、断絶したいわけではなかったのです。 というわけで、発売前にその方にお会いして、「言われた悔しさをぶつ

          「子どもを産んだ人はいい小説が書けない」後日談つき試し読み

          初めて市川沙央さんに会った日のこと。

          あの芥川賞作家・市川沙央さんに「夢みるかかとにご飯つぶ」の書評を書いてもらった。 エッセイを出したら市川さんに書評をお願いしようと、最初から決めていた。 私が本を出せたのは、連載第一回目に市川さんと出会えたからだと思っているから。あそこがすべての分岐点だった。 そして、何より私はいっちーのエッセイが好き。その視点で「夢みるかかとにご飯つぶ」をどう読んでくれるのか、知りたかった。 恐る恐るお願いすると、二つ返事でOKしてくださった。 そして、届いた原稿――。 第一回目の

          初めて市川沙央さんに会った日のこと。

          「サ行の恋」おまけ(第二部チラ見せ)

          第一部はこちら>>  時を戻そう。  背緒くんが指定したのは、ファミレス「わかば」だった。DMでそれがきたとき、うちらは歓喜した。背緒くんは本当にうちらを覚えていてくれたのだ。レンタルビデオ屋もカラオケも潰れて大型スーパーに変わったのに、わかばだけは昔と変わらないまま建っている。内装は明るい木目調にリニューアルしたし、メニュー表はタッチパネルになったけど。  なおなおとドキドキしながらドアを開ける。「何名様ですか」と尋ねる高校生バイトに、自慢するように「待ち合わせで」と

          「サ行の恋」おまけ(第二部チラ見せ)

          「サ行の恋」第7話 第一部完

          7 再会の「さ」は情報量過多 ――ちょっと待ってや、たあやん。 ――とにかく会おうよ、たあやん。  うちらはグループLINE〈SMK〉に同時に送った。 「もどかしい」 「私、言いたい。名古屋の会社でやっぱりあんまりしゃべられんと、毎日会社と家の往復やった間、たあやんが大阪にいてくれてることが救いやった。お盆がきたら、お正月が来たら、会いたい人がおるっていうのが。同じ好きな人のこと、思う存分話せる人がおるってこと。背緒くんとの思い出も支えやったけど、それよりたぶん、うう

          「サ行の恋」第6話

          6 さみしいの「さ」はいつも子どもじみている  ジョーは東京でラジオ局のADになって、なおなおは名古屋のインターネット事業の会社で働き出した。あたしはその間も「ファミレスわかば」で働いていた。 「背緒くんは、大阪の会社らしいから、たあやん目撃したらすぐLINEしてや」 「いいなあ、背緒くんに会えるかもしらん場所におれるなんて」と二人は言ったけど、二人のいない「わかば」でずっと背緒くんを待っているのが虚しくなった。  当時、お母さんの肝臓の病気が悪化して、お金も必要に