清 繭子/小説家になりたい人(自笑)日記

きよしまゆこ/小説家になりたい人  四十を過ぎて小説家を目指す、己を笑うしかない日々の…

清 繭子/小説家になりたい人(自笑)日記

きよしまゆこ/小説家になりたい人  四十を過ぎて小説家を目指す、己を笑うしかない日々の記録。web「好書好日」にて新人賞受賞者へのインタビュー「小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。」連載中。出版社で雑誌・まんが編集を経て独立。「深大寺恋物語大賞」審査員特別賞受賞。

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  • ひとひら小説

    これまでのひとひら小説をまとめました。400字から1000字の掌編です。

  • 刺繍詩集

    清 綿子(きよしわたこ)として、刺繍で詩を描いてたときの作品集です。 「ことばを持って歩く」をコンセプトに、ことばと、そのことばの持つ情景をハンカチに刺繍した「ことばハンカチ」を作っていました。毎年個展をし、装苑で「新しい詩集作家」として取材されたことも。またいつか、詩の続きを描きたいな。

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「子どもを産んだ人はいい小説が書けない」

「子どもを産んだ人はいい小説が書けない」と言われたのだった。 あまりの衝撃で唖然としてしまった。ひとまず、公平にするためには文脈もあわせて伝えるべきだろう。 その人は「新人賞を獲るような小説は今は書けないのかもしれないね。別のやり方で小説を書くしかないのかもね」と付け加えた。 理由は、「子どもという大事なものがすでにあるから、(小説と子どもという)二つのものを同時に極めるのは難しい」というようなことを言った。 「今じゃないのかもしれないね」気の毒そうに少し愉快そうにそ

    • 「サ行の恋」おまけ(第二部チラ見せ)

      第一部はこちら>>  時を戻そう。  背緒くんが指定したのは、ファミレス「わかば」だった。DMでそれがきたとき、うちらは歓喜した。背緒くんは本当にうちらを覚えていてくれたのだ。レンタルビデオ屋もカラオケも潰れて大型スーパーに変わったのに、わかばだけは昔と変わらないまま建っている。内装は明るい木目調にリニューアルしたし、メニュー表はタッチパネルになったけど。  なおなおとドキドキしながらドアを開ける。「何名様ですか」と尋ねる高校生バイトに、自慢するように「待ち合わせで」と

      • 「サ行の恋」第7話 第一部完

        7 再会の「さ」は情報量過多 ――ちょっと待ってや、たあやん。 ――とにかく会おうよ、たあやん。  うちらはグループLINE〈SMK〉に同時に送った。 「もどかしい」 「私、言いたい。名古屋の会社でやっぱりあんまりしゃべられんと、毎日会社と家の往復やった間、たあやんが大阪にいてくれてることが救いやった。お盆がきたら、お正月が来たら、会いたい人がおるっていうのが。同じ好きな人のこと、思う存分話せる人がおるってこと。背緒くんとの思い出も支えやったけど、それよりたぶん、うう

        • 「サ行の恋」第6話

          6 さみしいの「さ」はいつも子どもじみている  ジョーは東京でラジオ局のADになって、なおなおは名古屋のインターネット事業の会社で働き出した。あたしはその間も「ファミレスわかば」で働いていた。 「背緒くんは、大阪の会社らしいから、たあやん目撃したらすぐLINEしてや」 「いいなあ、背緒くんに会えるかもしらん場所におれるなんて」と二人は言ったけど、二人のいない「わかば」でずっと背緒くんを待っているのが虚しくなった。  当時、お母さんの肝臓の病気が悪化して、お金も必要に

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          「サ行の恋」第5話

          5 スノードームの「ス」は初恋の雪の降る音  新谷さんのせいでキャバクラ辞めたから、仕方なく働き始めたのが「ファミレスわかば」やった。時給はがくんと減ったけど、もうお水はこりごりやった。それでもさすがに昼間の時給じゃ満足できなくて、深夜帯に多めに入った。深夜帯はホールは2人。調理場も2人で回していて、店長が時々見に来る以外は、若い子たちだけで切り盛りしていた。深夜帯に入る人は、人の机に腰かけるようなヤツはいなくって、役者志望の大学生とか、あたしみたいな中卒の苦労人とか、み

          「サ行の恋」第4話

           4 シャンプーの「し」は、ただあの子のために  お母さんのいびきは「くかかかか……、くかかかか……」って控えめで、眠ってるときくらい威張ったらええのにとかわいそうになる。肩を叩いて「寝るんやったら布団で寝ぇよ」と言うのだけど、「ん」とかすかに頷いたあと、また「くかかかか」が始まる。その呼気からむわっとアルコールの匂いがする。しょうがないからタオルケットをおなかにかけて、座布団を頭の下に敷いてやる。目の下の青ぐまがまた一段と濃くなっている。  と、床がにわかに温かくなり

          「サ行の恋」第3話

          3 失恋の「し」は雨に濡れたカッパの匂い  ご紹介に預かりました、なおなおです。中田奈緒美です。えーと、次は私の番だということで……。でも、私話すのアレなんで、昨日ちょっと書いてきました。  私、中田奈緒美は話せなかった。家では話せる。むしろ思春期の割には父や母とちゃんと会話する。あと、弟には話せる。無限に話せる。今日あったこと、見たこと、聞いたこと、感じたこと。ヘッドギアをする弟の横で話す。弟は聞いているのかいないのか。うれしそうには見えるけど。  保育園までは普

          「サ行の恋」第2話

          2 社会資料集の「し」は、言えなかった恋  ここでいったん、うちの話をするわな。なんでこんなに背緒くんが好きやったんか、あらためてお伝えしたい。え、早送りせんといてよ? ほら、私、ハガキ職人やったやん。だから、それなりにうまくまとめられると思うねん。  はっきり言って、うちは巨乳やった。  今では女性差別かつルッキズムを助長する言葉として、NGとされている「巨乳」やけど、当時は「巨乳」「爆乳」という言葉が学校へ向かう電車の車内吊りにでかでかと掲げられていた。巨乳タレ

          「サ行の恋」第1話

          1 背緒くんの「せ」  なーなー、背緒(せのお)君の「せ」って完璧と思わん? 中緒でも横緒でもなく背緒ってのがもうっ、もうっっ、て感じやない? 人に片思いされるために生まれて来たみたいな名前。響きからしてもう切ない。せのおの「せ」は切ないの「せ」。  発音するたびに思い浮かぶやろ、白い体操服に浮かぶ肩甲骨。ダウニーの匂いがするあの痩せた背中。うち、あの体操服の毛羽立ちに生まれ変わりたかったわ。きれいなんよな毛羽立ちさえも、透き通っててさ。ほんで漢字な。「背緒」の字面な。

          連載「小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。」に出ました。

          いつか、新人賞をとったら出たいと思っていた、自身の連載「小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。」。 小説家…ではないけれど、エッセイストになれたので、出ました! 誰にインタビューしてもらうの……?と考えたときに、まだ新人賞もとっていないし、これはあくまでイレギュラー回だよな、と思ったので、どなたかを巻き込むのは申し訳なく、自分で自分にインタビューすることに……。 でもなるべく、いつもの読者の方にも楽しんでいただけて、内輪ウケと宣伝で終わらないものを……と、それこそ

          連載「小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。」に出ました。

          今日、夢が叶いました。

          「夢みるかかとにご飯つぶ」、本日無事に発売となりました。 それを記念して、幻冬舎Plusにてご挨拶エッセイを書きました。 「私は私を気に入りたい」 読んでいただけたら嬉しいです。 昨日、この告知をXでしたら、たくさんの方がRTをしてくださって、もうずっと携帯を見ながらウルウルしていました。 村山由佳さんのこのポスト、もうありがたすぎて、一周回って現実味がないというか、こんな嬉しいことがあっていいのかと思いました。 ほかにもたくさんのお祝いメッセージや、一足先に読んで下

          キヨシ、サインを考えるの巻

          担当Kさんから、「清さん、サイン考えておいてくださいね」とオーダー入りました。 サ、サイン⁉ 「書店にごあいさつ回りしたときに、サイン本作らせてもらったり、POPにサイン入れたりするんです」 な、なるほど……。サインですか。とうとう私、サインする側の人間になったんですか‼(誰がほしいんや、という話はさておいて) みなさん、子どもの時、将来有名人になったとき用のサインの練習しませんでしたか? あのとき考えたサイン、たとえばこんなの。 いやあ、ダサいですね~。 シンプ

          【フォロー感謝】あらためまして自己紹介。5つにさらっと、まとめました。

          今週、書籍化したnoteとして、note公式さんに紹介していただきました! おかげさまで、新しくフォローしてくださった方も……。あらためて私の簡単な自己紹介をいたします。あ、名前は「きよしまゆこ」と読みます。 ① 40歳直前に会社を辞めて、フリーライターになりました。 理由は、小説家になるため。新卒から17年勤めた、人間関係も福利厚生もやりがいも、不満のない会社でしたが、辞めました。私には子どもがいて、子育てと会社員をしながら、小説を書くのは難しかったのです。 詳しくはこ

          【フォロー感謝】あらためまして自己紹介。5つにさらっと、まとめました。

          公募運営側の思いを知りました

          今日、「 深大寺恋物語」運営事務局のみなさんと打ち合わせをしました。 今年、20周年で幕を閉じる「深大寺恋物語」大賞。その締めくくりに行われるあるビッグイベントの進行役を仰せつかったのです。 私が、「深大寺恋物語」 で審査員特別賞をいただいたのは2010年のこと。 その後もずっと、受賞したことが自信になってなんとか頑張ってこれました。 事務局の皆さんは20年ずっと変わらずこのメンバーだそう。受賞時にも皆さんにはお会いしたはずだけど、きちんとご挨拶するのははじめて。 名

          著者近影どないせえっちゅうねん 

          「夢みるかかとにご飯つぶ」の販促のために著者近影を撮ることになった。 せっかくだから、あれもこれも、とアイディアを出していたら、 結構大掛かりな撮影になった。 困ってしまった。 今まで、散々ひとんちに上がり込んで、慣れないひとにポーズをとってもらってきたけれど、自分が撮られる側になると途端に、「よく写りたい」けど「張り切ってると思われたくない」という、どないせえっちゅうねんな欲求が出てきた。 ほかのひとが写るときは、「そのままのあなたがとっても素敵なんですから」って本心

          著者近影どないせえっちゅうねん 

          大森さんちの家出、すてきな感想をいただきました。

          仮名子さんから、「大森さんちの家出」にすてきな感想をいただきました。 これは、うれしい。うれしすぎる。 いつも、「書かないこと」のさじ加減が難しくて、結局、ぜんぜん伝わらなかったりして、このまま自分の「言わぬがはな」スタイルを突き通すべきか、もっとわかりやすく書くべきか、悩んでいるから。 とても、うれしい。 うれしい。うれしすぎる。 ふつうの人の、ふつうの暮らしの、悪いところもいいところもある人たちの、夫婦関係を書きたかったから。仮名子さんが、私と同じく、家族運営をしなが

          大森さんちの家出、すてきな感想をいただきました。