見出し画像

ムーミンママの神対応から学ぶ。

・・・ムーミンパパはぬき足さし足で台所へしのびこみ、
あかりもつけずに、戸だなをあけると、いちばん上のたなにのっていた、
りんご酒のびんへ手をのばしました。
パパは、うんとうんと背のびをしました。
とたんに、はちをひとつおとしてしまったのです。
ガラガラガチャンと、すさまじい音がしました。

家じゅうの人が、目をさましました。
さけび声がして、ドアがバタンと鳴ったかと思うと、
ムーミンママが、ろうそくを手にもって、かけつけてきたのでした。

「まあ、あなたでしたの。
わたし、どろぼうがはいってきたのかと思いましたわ。」
と、ママはいいました。

「あのりんご酒をおろそうとしたんだ。
そしたら、どこかのまぬけが、このけしからんはちを、
はしっこへおいときおったもんで。」

「そんなの、われたほうがよろしいわ。とってもきたないおはちでしたもの。
いすの上へあがれば、らくにおろせますの。
わたしにもグラスを一つとってくださいな。」

(講談社「ムーミン谷の彗星」トーベ=ヤンソン、下村隆一訳)
ーーーー
以前から、私より先に結婚した友達に、

「まゆこ、ムーミン見たほうがいいよ!
ムーミンママ、まじリスペクトだから!」
と強くすすめられていた。

千葉テレビで放映されているそうなのだが、
私は書籍のかたちで手に取った。
読み始めて30ページもゆかぬところで、
想像をはるかに超える、ムーミンママの対応にあっけにとられた。

夜中にこっそり酒を飲もうとしたことが家中にバレてしまった、
気まずいパパをせめることなく、むしろ擁護する。
それだけだって、なかなかできることではない。
ただ、厳しくみれば、
理想の良妻としての対応としては、想定の範疇ともいえる。

しかし、そこですかさず、
どうしたら事なく済ませられるかのアドヴァイスを嫌味なく差し出す。
・・・すばらしい!
でも、本当にすごいのはその先だ。

「わたしにも、グラスを一つとってくださいな。」

なんと色っぽいのだろう・・・
割れた破片の片付けなんか後回しにして、
夜中の寝酒に自ら杯を交えようという、粋なセリフによろめいた。

「お怪我はありませんでしたか?」
「あとかたづけは私がいたしますから、あなたはあちらで召し上がっていて。」
「つまみに何か召し上がる?」

今の私には、100歩譲ってもこれくらいの返ししかできないだろう。

ただ尽くすだけの女ではなく、
自らも共に興ずる女・・・

なんだか、ゲーム感覚の会話のやりとりが面白い。
ただでさえ、男にとって気まずい状況下で、
真正面から注意したって、喧嘩になるだけだし、何よりつまらない。
大人の女のウィットに富んだ返しに舌をまいた。

貞淑にかしずく、古き良き妻の美徳を想像していた私は、
ムーミンママの計り知れない、むしろ時代の先をゆく深い魅力に、
どっぷりはまってしまった。

ムーミンママのような妻になりたい!

ママから学ぶことは、まだまだ大いにありそうだ・・・・

麻佑子

#日記 #エッセイ #結婚 #夫婦 #読書 #本


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?