人が旅に出る理由。
「旅」
この一文字は、それを口にし発する一人ひとりにより、実に異なる意味を持たせられるものだと思っている。
ある人にとって「旅」とは、
日本や世界の気になる見知らぬ世界を、休みの日を使って足を運び見に行くこと
ある人にとっては、
長い時間かけて日本中、世界中をじっくりと自分の五感で認識し感じに行くこと
ある人にとっては、
日常の中の新たな発見を見つけに行く行為
ある人にとっては、
これまでの人生を振り返り、その歴史を堪能すること
そしてこの先の未来に想いを馳せ、その名の通り未知の世界の浪漫に身を預けること
私の決して緻密な方ではない脳みそでは想像出来ないほど、
もっと色んな意味を持たせることができるワードであるはずだ。
私自身の旅の原点。
元々、小さい時から今もなくてはならない存在で身近にあった「地図」「地球儀」を通じて冒険したり、
数年に一度、ちょっと変わった色に外壁が塗り替えられ、その界隈では目立っていた私営アパートに住んでいたころのご近所探検、
吹奏楽団に所属していた両親がコンクールの地方・全国大会開催地に一緒に連れて行ってくれていた車での長距離ドライブ(道中何かしらの理由で毎度一回は怒られていた記憶もセット)、
といったものが最も古い旅への記憶。
地図、地球儀上のミクロなようで、実はもっともマクロな世界を見せられていた旅。
今より圧倒的に低い目線で、地面とより仲良くしていた頃に見えていた世界の旅。
人生という物語の終焉がこない限り増刷し続けられる、日常という名の、
そして世の中の目に触れることすらないかもしれないが、世界で唯一のオリジナルストーリーが綴られた壮大紀行。
まだ30年少しの人生でも、既に沢山のストーリーがこの世に残されている。
こうして身近な場所にも存在する物語を認識し、そんな風に思い堪能するようになったのは、
24歳の時に出逢ったある本と、その中の100の物語たちが私の背中をぐいっと押し、日本の外へと誘ってくれたからだ。
『僕が旅に出る理由』
8年前のある日、当時勤めていた金融機関での仕事帰りにふらっと立ち寄った本屋さんの旅行本コーナーで、ふと目につき手に取った本。
「旅をすることに対する理由、ってこれまで他の人から聞いたことないな」と、このタイトルに物凄く心奪われたのを覚えている。
中に綴られていたのは日本の大学生100人が旅に出た理由。
何度も旅に出たことがある人には、どこかで見たことがあるようなフレーズが並んでいるようにも見えなくもないかもしれない、素朴な文章のオンパレード。
でも、一つ一つのストーリーと共に綴られたその素朴なきっかけと旅先で出逢われた感情の記録。
これらが当時、まだ旅を知らなかった私の心を鷲掴みにした。
「こんな生き方しても良いんだ」
と、ストレートに訴えかけてきてくれた物語ばかりだった。
それだけ、当時の私を惹きつけた理由はきっと、その先の未来にそこそこ悩んでいた時期であったことも大きかったかもしれない。
その頃、私の周りは見事に結婚ラッシュ。勤め先が安定を求めて就職する人が多かった場所だったというのもあってなのか、
今思えば世間的には少し早めの23~24歳の1年間、ひたすら同期、先輩後輩共に結婚・出産し家庭を持ち出す人に囲まれた生活をしていた。
私自身も大学生の頃から、25歳までには結婚することを誰よりも大事な目標にしていたし、
それが故に、現実では結婚出産という未来とその先の自分の人生をあまりはっきりとイメージできていなかった。
未だにそうだが、自身に子どもっぽさが強く残っているところとも関係しているかもしれない。結婚している自分=大人になっている自分、というイメージが強すぎたからか。
いずれにせよ、「受験→学生生活→新卒社会人→結婚→出産→老後」
という人生のレールにハマることに必死だったのに、
「→結婚→出産」のパズルへの違和感を拭えず、そこに行き着く前にもう1段階、異なる経験が必要じゃないか、
たとえば自分が子どもを育てる時が来た時に、今の自分を見せながら育てるのは何かが足りないのでは、といった特に根拠もないことをなんとなく感じていた。
そんな時に目の前に現れてくれたこの本と、
ほぼ同時期に当時の会社同期と行った3泊6日程の旅行先・ゴールドコーストでのある小さな出逢いが加わり、
先の未来を上手く描けていなかった私の背中を、全力プッシュしてくれた。
ゴールドコースト旅から帰国し、現地で知った「ワーキングホリデー」の実態を求めて、仕事終わりにJR新快速に飛び乗り終電で帰宅していた関西中の留学エージェントを駆け巡った日々。
元々学校科目として苦手で、英語の英の字の能力もなかった中、ウェブ上に上がっていた日本語翻訳情報を元に自分で申請し、2時間後には降りたビザ。
「もうビザと飛行機のチケット取ったので退職します」と伝えたくて、そのまま初めて自己手配したJetstar★のフライト。
初めての一人フライトから始まった旅立ち。渡航前に急遽変更されたフライトスケジュールのおかげで立ち寄れたトランジット国、フライト相席となり生まれた知らない人たちとの交流の楽しさ。
現地語学学校生活開始4日目、周りは主にスペイン語圏の学生さんを中心にワイワイしているのについていけず、教室で項垂れていたのを慰めてくれる世界各国からのクラスメート(「Don't worry」しか聞き取れずさらに撃沈)。
英会話あまり成立していなかったのに、いつも私の目を見て話をしっかり聞いてくれ、シェアハウスへの転居前には初めて自活していかないといけない日々が近づいてくることへの不安から泣いていた私を
「あなたができないわけがない」と励ましてくれた、ホームステイ先ホストファミリーとの日々。
語学学校卒業後の目標だったファームジョブ探しの過程で出逢い学んだ、
何気ない街中や尋ねた先で知り合った人々との交流を深化させ、ご縁を大切にすることで、次のステップに繋げることができたこと。
その果てに出会った、日常過ごすだけでは絶対出会えなかった"旅の師匠"が私を「旅」と出会わせてくれたこと。
書けば書くほどその続きは出てくるが、私の中の「旅」との出逢いの入り口はここ。
旅に出会った後は、まさに『僕が旅に出る理由』で大学生さんたちが目にされてきたものに近い感情を私自身も得ることができたし、
実際に世界レベルまでズームアウトできたことで、もともと私の生活に存在していた日常のふとした瞬間にも、旅が存在していたことを知った。
そして台湾在住となっている今、もっと旅がしたい、と思っている。
旅。それは私に新たな発見と刺激を通じて、もともと私の中にある感情の存在と魅力に気づかせ、肯定してくれるもの。
私が旅に出る理由は、それを恒常的に求めているから。
人が旅に出る理由はもちろん人それぞれ。
でもきっかけは、こうしたふと湧き出てきたシンプルな感情から動かされ生まれることが多いのではないか、とこれまで旅の道中出会ってきた人々との交流を経て感じている。
***
タイトルを思い出すだけで心が燃え上がる感覚を得ることができるのは、
これまでのところ、この本だけである。
今でも年に数回、実家に帰り本棚に目を向けると、いつもタイトルを通じて己の元気の源を思い出させてくれる、貴重な存在。
結局のところ、「動く」ことに細かい理屈なんていらない。
もう発刊されてある程度の年月が経ちましたが、
この本を手にする方々の置かれている環境によっては、まだまだ皆さんの心に気づいていなかった感情や刺激をもたらしてくれる一冊となるはずです。
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