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妄想のカケラ【世界の終わりに君と】

#93 世界の終わりに君と

世界の終わりに君と一緒になりたいと
ここ1年ほど温めていた思いを伝えたけれど
あっさり玉砕した

一か月ほど前
大きな隕石が衝突して世界が終わるという発表があった
急に世界の終わりを聞かされ世間も僕も激しく動揺した

自暴自棄になり暴走する人もいて一時は治安も悪化したけれど
世界の終わりが近づいても
いや、終わりだからこそ
職務や義理を果たそうとする生真面目な国民性によって
2週間ほどで僕の国はニュース以前とほぼ変わらない生活を送れるようになった

そんな、普通じゃないけど普通のある夜
いつもの居酒屋で片思いの彼女と乾杯した。
時間的にはこれが最後の乾杯になるかもしれないと思うと言わずにはいられなかった

「なぁ 俺たち結婚しよ?」

付き合っていたわけではないけど
この1年のお互いの様子できっと彼女も同じような思いでいるはず
それにもう世界が終わるのだから彼女だって誰かと居たいはず

「え?無理!
そういうのはちゃんと付き合って考えてからしたい。」

だから、もう、そういう時間はないんだって....
とつっこみたい所だったけど、
こんな時も何かに流されず自分を見失わない彼女はやっぱり素敵だと思った。

「そうだよな、こんな時に、付けいるような事言って、ごめん」

謝ると彼女は不敵な笑みを浮かべてグラスを空にすると「大将!おかわりお願い!」と良く通る声を発した。

最後の日はどうするのかと聞いたら
飼っている猫と過ごすと楽しそうに
でも少し寂しそうに教えてくれた。

世界が終わる三日前
政府から緊急事態宣言という名のあらゆる経済活動を中止せよという要請が出た
政府も公共機関も店舗も会社もなにもかもお休み

あまりにも生真面目すぎる国民へ
静かに最後の日を迎えられるようにとの配慮らしい

そして、ついに、世界が終わる日
僕は彼女の住むアパートの前にきてしまった
電車は動いていなかったので徒歩で二時間。

最後に少しでもいいから彼女と話したかったし
あの時、結婚なんてカッコつけずに
素直に一緒に居てほしいと伝えればよかったとずっと後悔していた

道路に面した彼女の部屋を見ると
彼女が缶ビール片手に猫を抱いて
窓辺にもたれてこっちを見ていた。

「あれぇ?どうしたの?
まぁいいや~、あがりなよ」

酔っぱらってだいぶご機嫌だ。

「丁度良かったわ~、一緒に飲んで」
と渡されたのは彼女のお気に入り銘柄の缶ビール

世界が終わるからと大量に買ったものの
最後の日になっても飲み終わらなくて困っていたそうだ。

「残すのもったいないでしょ?」

本当に彼女らしい
そして、やっぱり素敵な人だ。

.....

もうすぐ日が暮れる
僕たちはたわいもない話をしながら買いすぎたビールをひたすら消費している。
彼女は猫を抱いたまま窓辺にずっと腰かけていて僕からは少し距離をとっているようにも見えるけど
本当に今日これで世界が終わるのかと疑うほど穏やかに時間が過ぎている

「あのさぁ...

この後、もし世界が終わらなかったら
僕と付き合って下さい
そして、一緒に暮らしませんか?」

以前の反省を踏まえて真面目に伝えた。

「う~ん、この子も一緒ならいいよ...」
と抱えていた猫を僕の方によこした
人懐っこいその猫は僕に撫でろと頭を寄せてくる

「もちろん!」

「じゃぁ、とりあえず、お試しでいっかげ....」

彼女の言葉の途中で夕焼け空が不自然に真っ赤になり、いくつもの大きな炎の塊が窓の外に見えて__

あっという間に世界はなくなってしまった。

だけど…
「とりあえず、お試しで一か月ね」
世界の終わりに大好きな君から同棲お試し期間をゲットできた僕はとても幸せだった。

書く習慣アプリのお題「世界の終わりに君と」から #ショートショート

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