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鳥と娘(詩)

鳥と娘B

「鳥と娘」

しらない しらない
あの鳥があんなにきれいに鳴く意味を
しらない しらない
その羽ばたきが向かう場所を
もし共になれたとして
でもどうやって交わせばいいの?

しらない しらない
あの娘が私を見つめる理由を
しらない しらない
その瞳が映す姿の想いを
それゆえに恐ろしく
射抜かれた様に無力になるのだ

交わすことなく 知ることもなく
しかしその想いを誰が責めようか

追われる鳥は不安で泣いた
焦がれる視線を胸に打たれ
そしていつかは殺される
仲間は庇って娘を罵る
知恵のない子供
不細工な人間
地上の生き物ですらあり得ない

彼らの罵声を鳥は背に受け
自信と誇りを取り戻し空を舞う
そして再び娘と出会う

見つめ合いは無言
どちらの思いも目には止まらず
どちらとも射抜くように

娘は歓喜 鳥は憤慨

あさましい人間なんかの娘
この私を打ち落としてどうすると

彼らの罵声はますます広がり
鳥は天高く高々と鳴いた
自らの意思を叫び
理想を掲げ
軽蔑をうたった

誇り高きであろう我が身

しかし娘は理解できずその澄んだ歌声に喚起した

新たな旅へはまだ遠く
鳥と娘は毎日出会った
鳥は誇りをむねに高らかと決別を歌い
その生涯を語りきった
しかし娘は射る様に見つめ
鳥は屈辱を味わった

恐怖に震える己に恥じて
鳥は少しだけまた高く飛んだ
あの娘に見えぬよう
雲の間に隠れるよう

そんな弱さを仲間は笑い
今度は誰も庇わない
大した娘だとほめだす
己のことは誰も見ず
鳥は群れの中で
一人

娘と同じ
一人

幾月か流れ彼らは旅に出た
生きるために仲間に従い
痛みを味わうために土地を立つ
高らかに鳴く 声は叫び

娘の地を凍らせて彼らは消えた


春がきて
舞い戻る
ぶり返す劣等に突きつけられる過去
膿む痛みに新たな傷を
そして見つめるあの娘

高らかに傷を歌い 射抜いたのは 鳥

震える手を
足を
誰が見たであろう
その眼に浮かぶ涙も

鳥は敗北の痛みを泣き叫ぶ
射抜かれたのははたしてどちら?
しかし彼らはなにに負けた?

しらず しらず 互いを知らず繰り広げられる。

(製作年2006年以前)


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