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空白の時間

いつも訪れている神社には、入り口に来ただけで満足してしまった。
川の真ん中にある、ひとつの島のような神社。

緩やかな坂の石段を少し登ると、
最後の石段の上にはスズメバチの死骸があった。

なんとなく、見てはいけないような気がして視線を逸らした。
今日は、ここに来てはいけない気がした。

入り口から10メートルほど先にある赤い鳥居をくぐると、
奥には祠(ほこら)があり、その隣には錆びれたブランコがふたつ並んでいる。

神社の入り口に立った時、
さっきまで止みかけていたはずの雨が、少しだけ激しくなった。
やっぱり今日は、足を踏み入れることは危険な気がした。

まるでその雨は、「神社に来るな。」と私に呼びかけているかのようだった。
すぐさま方向転換して、来た道を戻ることにした。

いつもの道を通って、
いつもの景色を目にして、
いつもの匂いを感じて、
ゆっくりと呼吸をする。

自然を感じられるこの瞬間が愛おしくて、
私にとって大切な時間で、貴重だった。

地元を離れて暮らし始めてから、
少しだけ地元の感覚が失われているように感じる。

「空白の時を埋める為には、時間が必要なのかもしれない。」

失われた感覚や記憶を呼び起こしては
少しだけ切なくなった。

此処にいたはずなのに、
此処がわたしの居場所だったのに、
今は、足を運ばなければ帰っては来れない。

ほんの少しの間、
この街から離れていただけなのに、
帰省する度にその都度新たな発見があった。



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