『転生しても憑いてきます』#4
文字の読み書きがある程度できるようになったので、屋敷にある図書室でアイツを倒せる方法がないか、探すことにした。
もちろん、独りでは行かず、姉や執事やメイドと一緒に来るようにした。
特に三女のムーナ(12歳)は読書が好きなので、僕の誘いに快く付いてきてくれた。
屋敷の図書室は広大で、ムーナ曰く一万冊はあるという。
それだけあれば、何かしらあるかもしれない。
ムーナが本を読んでいる間、僕は呪術のコーナを見つけたので、一冊取ってみる事にした。
ペラリペラリとめくってみたが、目ぼしい情報は得られなかった。
呪術以外にも魔物や魔術系の本を読みあさったが、先生に教えてもらったものより専門的な知識が得られただけで、核心的なものはなかった。
ムーナは僕が読んでいる本に驚いた様子で、何も言わなかったけど、ソッと一冊の本を渡してきた。
タイトルは『この世界に存在する秘密結社について』と非常に興味のそそられるタイトルだった。
試しに読んでみると、まるで漫画のような内容に夢中になってしまった。
あっという間に読破すると、ムーナは嬉しいのか、更に違う本を持ってきてくれた。
ただ秘密結社も含めムーナがオススメしてきた本にアイツの対処法となりそうなものは書かれていなかった。
けど、ムーナとの仲は深まったので、これはこれでよかった。
家庭教師に勉強を教わってから更に三年が経つと、座学の他に実技という科目が増えた。
実技――簡単に言えば運動や球技、剣術の身体を強化させる科目だ。
五女のモナ(10歳)が先に受講しているようで、僕を後輩みたいに扱って、先生以上に熱血な指導をしてくれた。
毎日早朝に起こされ、一キロメートルぐらい彼女とランニングする。
朝食を済ませた後、本来の実技の内容であるキャッチボールをする。
これもモナは抜かり無く、本気で的確に投げてくる。
僕が少しでもへなちょこな投げ方をすると、「そんなんじゃあ、学園でトップになれないよ!」と言って、ペナルティーとして腕立て伏せを百回やらされたりした。
僕は一切文句を言わずにやった。
この鍛錬もアイツから逃げたり対峙したりする時に役に立つと思ったからだ。
だから、実年齢には相応しくないほどの運動量をしているうちに、体力がメキメキと成長してきた。
長距離も何キロ走っても少しだけしか疲れなくなった。
モナは自分の期待に応えてくれるのが嬉しいのか、重量挙げなどの筋トレもやらされた。
かなりハードなトレーニングメニューをこなしていくうちに、先生から「私よりも君のお姉さんに教わった方が良い」と言って辞めてしまった。
それから、モナが僕のコーチになった。
だからといって、特にメニューが変わる事はなかった。
剣術が加わったぐらいで、毎日のように模擬戦をした。
モナは剣術も優れていて、勝った事は一度も無かった。
もし勝てたら、アイツを倒せるかな――と、ふとそう思った。
激しい鍛錬が終わると、汗や泥まみれの身体を落とすため、お風呂に入るのが流れとなっていた。
が、残念なことに、この屋敷の浴場は混浴ではないのだ。
姉の裸が見れないとかそういう問題ではない。
独りで入浴しなければならないのだ。
という事は、必然的にアイツに襲われる。
無防備な姿で湯船に浸かれば、あっという間に足首を掴まれて、溺死させられるのが目に見えている。
執事に頼めば解決するかもしれないが、残念な事に彼らは他の業務で忙しく、僕の付き添い入浴をしてくれる余裕がない。
メイドや母に頼んでみた事もあったが、「もう赤ちゃんじゃないでしょ」と断られてしまった。
五歳までは一緒に入ってくれたのに。
いつもフレンドリーに接してくれるモナですら、混浴はNGだった。
マローナ(18歳)は卒業して職に就いて一人暮らしをしているし、ミャーナ(16歳)は学園にいるから家にいない。
ムーナ(14歳)は絶対に無理なのは、思春期特有の雰囲気で分かる。
でも、ただ一人、四女のメローナだけがOKしてくれたのだ。
彼女は本当に他の姉や母よりも僕を可愛がってくれていた。
周りからはやり過ぎだという声もあるらしいけど、独りぼっちNGの僕にとってはありがたい事だ。
メローナは12歳になっても、おしゃぶりをしていた。
チュパチュパと言いながら僕の手をひいて、浴場まで連れて行ってくれた。
脱衣所で衣服を脱ぐ時は、さすがに外していた。
けど、一通り終えたら、また付けていた。
屋敷のお風呂は、二人だけで入るにはもったいないくらい広かった。
浴槽も一つの大きな湖みたいに大きく、背景に木々や石像が設置されていて、豪華だった。
特に浴槽の端にあるドラゴンみたいな頭部だけの像からお湯が流れているのが、いかにも貴族の風呂という感じだった。
最初はメローナと一緒に身体や髪を洗う。
石鹸みたいに泡立つ植物を腕や腹に擦って、身体中モコモコにする。
メローナはやたらと僕の身体を洗いたがるが、流石に独りで出来る歳なので、断った。
すると、とても悲しそうにおしゃぶりをチュパチュパさせるので、良いよと言うと、嬉しそうにタオルで僕の身体を洗った。
メローナが身体を洗うと、何だかむず痒い感覚になるが、丁寧に包み込むように拭いてくれるので、悪い気はしなかった。
お湯で泡を流したら、一緒に入浴。
自然と、中央にピッタリと横並びで湯船に腰を下ろした。
だが、小さい僕にとっては、少しアップアップしてしまうので、メローナの膝の上に乗っけてもらうのが決まりになっていた。
この状態になると、メローナはおしゃぶりを外して、僕と話をする。
「今日はどんな事をしたの?」
「ランニング一キロと剣の素振り百回ぐらいしたよ」
「そうなんだ! けっこう大変だったでしょ?」
「うん! でも、モナの応援のおかげで頑張れたよ!」
「モナ? モナ……あぁ、ふ〜ん」
メローナは不思議な事に、他の姉の名前を出すと、必ず歯切れの悪い反応をする。
そういう時は、メローナの事について聞くと、彼女は嬉しそうに今日起きた事を語ってくれた。
僕はのぼせるギリギリぐらいまで聞くと、メローナは満足しておしゃぶりを軽くお湯で洗ったあと咥えて、僕の手をひいて湯船から出た。
身体を拭いて、清潔な服に着替えた後、フルーツ牛乳を飲んで、夕食に向かった。
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