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#蒲団

文芸批評断章45

45.島村抱月の「蒲団」評
島村抱月は『「蒲団」評』で言う。1)従来のきれい事しか言わない小説と比べれば、「芸術品らしくない」この小説はその限界を打破したものとして評価できるが、しかし同時に芸術品らしくないというまさにその点で弊害もある。2)主人公の妻の描写が不十分であり、主人公と子を抱えた家庭の関係が色濃くは描かれていないので、主人公の倦怠と煩悶がリアリティを欠く。3)「赤裸々の人間の大胆なる懺

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文芸批評断章43. 田山花袋の二つの自然

文芸批評断章43. 田山花袋の二つの自然

自然には二つの意味がある。その二つの意味合いは田山花袋の代表作「蒲団」、並びに晩年の好短編「一兵卒」において確認できる。

自然概念について言えば、その意味するところは、一つは生き生きと生きたいとする生の欲望であり、そのために「蒲団」では枯れかかった中年男性は恋愛を望む。恋愛といっても片思いやプラトニック・ラブではよくない。できるだけ生き生きとしたいのであり、そのためには人として持っている精神も肉

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文芸批評断章40 田山花袋「蒲団」

文芸批評断章40 田山花袋「蒲団」

主人公の竹中時雄は三十代半ばの妻子ある作家であり、ある書籍会社の嘱託を受けて地理書の編輯の手伝いをしている。三年前に三人目の子ができ、新婚の快楽はとうに尽き、社会と深く関わって忙しいでなく、大作に取り掛かろうという気力もない。朝起きて出勤し夕方に帰ってきては妻の顔を見、飯を食って寝る、の繰り返しである。「単調なる生活につくづく倦き果てて了った」(二)のである。それが原因なのか、少し鬱気味でもあるよ

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