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結婚するのは、なんで? といわれて困った

「最近、3日に1回くらい、『なんで、結婚しないの?』って言われるんです」

会社の同僚の女の子とランチをしていたら、そんな話になった。彼女は、同棲している同い年の彼氏がおり、数年は付き合っているそうだ。春、夏、秋、冬と季節ごとに旅行プランを立てるのが好きなマメな彼氏と、旅行好きの彼女の相性はバッチリで休みのたびに国内外の旅行を楽しんでいるし、夫婦のようにお互いを思いやりあい、仲も良く、男女としての愛情もある。

だけど。だから。

「結婚する意味が、わからないんです。子どもがいたらする必要があるのはわかるんです。でも、今の状況と結婚するのと、何が違うんでしょうか」

「うーん、なんだろうね」

と、まったくなんの意味もない返事しかできなかった。「結婚する意味とは」「婚姻届を出す儀式って」について、どれほど考えてきたか。わたしは、自分の両親の不仲を見ながら育っている。だから、20年近く考えてきた年季の入ったテーマだ。

しかも、彼女と同様に「一緒にいるのは結婚しても、しなくても同じ」派だったわたしが、なんで結婚したのか。いつ、考えが変わったのか。そういえば、よくわからなかった。

「今までの彼氏と別れた理由って、全部、結婚なんです。わたしは、彼らのことが好きじゃないわけではなく、結婚しなくても今のままでいいじゃん?というのが、わかってもらえなくて、別れるんです」

「なんで、したくないの?」

これまた、まったく面白みのない、凡庸な質問をしてしまう自分にガッカリした。けれど、彼女の心に近くには、聞くしかない。気を取り直して顔を見た。

「こんなこというと、人として終わってると思われるかもしれないんで・・・言いにくいんですけど・・・変えたくないんです。名前も、生活も。

前の彼氏には『入院したり、事故に遭ったときに、同意書にサインもできないし、呼ばれないんだよ? それでもいいの?』って言われましたけど、『じゃあ、ご両親にちゃんと呼ぶように伝えておいてね』って思って。

それに、財産も分けたくないんです。わたしは、玉の輿に乗りたいと思ったこと、一度もなくて。自分で稼いで、自分で使いたいんです。彼のお金はあてにしないし、あげたくもないんです」

話しながら糸口を見つけたかのように、自分の思いを言葉にしていく空気を感じた。「あ、そうそう、これも」という感じで、気持ちを言葉に乗せ話し続けている。そして、このテーマで、何度もそう言わてきたのか、本人も納得しないような感じで淡々と自己評価した。

「本当に、ダメですよね、わたし」

彼女のいうとおり、自立しあって、愛し合って、信頼しあっているカップルにとって、婚姻届という紙は、何の意味があるのか。ますます、わからなくなってきた。

「確かに、結婚をすると運命共同体、という風にはなるよね」

彼女の気持ちをいっしょに追っていき、Aちゃんの気持ちになってイメージしたときに、「1+1=2」のような感じでコロンと出てきたのが、「わたしでいたい」という気持ちだと思った。

「Aちゃんは、奥さんになりたくないんだね」

と伝えると、ハッとした表情になって彼女は強く言った。

「そうなんです! まさに、それです。縛られたくないんです、わたし。●●ちゃんのママとか、絶対になりたくないんです。でもなんでそう思うのかは、わからないんです」

ここまで話して、なんだか結論が出たね、というタイミングで会社に着いてしまったので、「じゃあ」といってそれぞれの席に戻った。

それから、考えてみた。「結婚する理由」について。彼女を説得する必要はないので、自由にしたらよいと思っているのだが、「わたしを、結婚したほうがいいという風に説得して欲しいんです」と言われたので、いい機会だし考えてみる。

彼女の価値観は、「将来を決められたくない」「自由でいたい」だ。

わたしは、婚活に疲れたとき2つのことを思っていた。

1つは「もう、付き合ったり別れたりするのが、心底、ほんとぉぉぉに、面倒くさいから、次で最後にしたい」

もう1つは「将来はどうなるかわからないから、いい人がいたら心変わりされる前に契約してもらいたい」

はっきり言って、めちゃくちゃ自分勝手な理由で結婚してんな、と思う。けど、2つ目は、わたしにとってとても重要で意味がある。

言語化したことは、なかったけれど、彼女からの「なぜ結婚する必要があるのか?」という問いで、気がついた。

わたしにとっての婚姻届は、「相手が心変わりしにくくなるための防波堤」なのだ。もちろん、離婚することもできるので、永遠ではないし、気休めだというのも、わかっている。

でも、人は「面倒くさがり」なのだ。彼女が「結婚するのが面倒」と思うのと同じように「離婚するのが面倒」って思う部分もあると思う。それは、ものすごく嫌いなわけではないけど大して好きじゃない人と「別れるの面倒」とか、やりがいないけど猛烈にやりたいこともないしスカウトされているわけでもない人が「退職するの面倒」な心理とか、勢いで入会したけど1年間1度も行ってないジムを「退会するのが面倒」とか、そういうのに似ている。

「なった状況」とか「置かれた状況」のなかを、人はみる。枠の外から見れば、枠があることに気がつくけれど、枠の中から見ていると枠の存在に気が付けない。だから、無意識に囲われていることをすり込む「婚姻」サービス(あえて、サービスという)を使うのは、「その枠の中で生きていこう」と思わせたいからなんだろうな。

わたしは、自分の苗字に何のこだわりもない。手続きは面倒だけどむしろ苗字が増えてラッキーくらいに思ってる。将来どうなるかもわからないのに、私を最後と選んだことにも超ラッキーと思っている。

でも、やっぱり「なんで婚姻届を出す必要があるのか?」の問いへの回答は出せなかった。子どもはいりません、と言っている彼女に伝えられることは、「パートナーが、私を最後の相手に決めると面倒くさい手続きを乗り越えてくれた、行動力が嬉しい」ってくらいで、他にはないのかもな。

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