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私の人生にも事件が起きない

ハライチというコンビは不思議だ。
いつの間にか我々の生活の中に、違和感なく棲みついていた。わたしは特段お笑いに詳しくないけれど、テレビでやっていたら眺めてしまうタイプの人間だ。

好きだな、と思う芸人さんもいる。
私の中で、ハライチは、ラジオが秀逸で、総合点が高く、お茶の間との親和性もまあまあ高いコンビ、というイメージだった。

しかし、近年、私の中でのハライチのポジショニングが変化しつつある。とんでもなく凄いコンビなのではないかと思い始めているのだ。

今回はそんなハライチの岩井さんのエッセイ、"僕の人生には事件が起きない"をレビューしつつ、ハライチの魅力について、語っていきたい。

ハライチといえば、"澤部"のイメージが変わりつつある件について

まず、ハライチというコンビで思い出すのは、坊主頭で全力のノリツッコミを魅せる澤部の方ではないだろうか。実際、澤部をテレビで見かける日は多く、お茶の間の人気者である。
しかし、近年、ジワジワと、岩井さんの能力が披露される場が増え、その度に話題になる。
マジ歌、塩の魔神等々で人気を集め、ハライチは岩井さんによって作られているのだと世の中が気づきはじめている。

岩井さんの魅力はその目線の鋭さ

エッセイの中身はタイトルにある通り、大きな事件などない、平凡なものである。だが、誰しもが経験するような平凡な体験を、ハライチ岩井の目線で見るとこんなに面白いのかと、脱帽させられるのだ。
冒頭は自身がエッセイを執筆する事になった過程を、独自の目線で皮肉たっぷりに語る。
そして、日常的に起きる事件から、何気ない違和感や喜びをピックアップし、それらを私たちがクスッとなるくらいの丁度良いバランスで描いている。
ラジオのトークが拡張されているものも多く、ハライチのターンを好んで聴いている方には特におすすめできる。

岩井さんと私について。

ここからは本当に個人的な話になる。
わたしはハライチのことを何となく好きだな、くらいに捉えていたと冒頭で説明したが、ハライチというと強烈に印象に残ってしまったエピソードがある。

相席食堂での、ハライチ岩井、わかめしゃぶしゃぶヘリコプター回をご存知だろうか。

わたしはこの回がとてつもなく好きだった。
何回見ても良かった。

私はある日、当時の恋人の部屋でその回を見始めた。だが、その日は彼の誕生日であり、私には、奴が相席食堂に集中している間に食事の準備を済ませてしまい、ケーキでサプライズするという何とも健気で痛々しい企てがあった。

しかし、企てはうまくはいかなかった。
私たちはお互いに忙しく、会うのは一ヶ月ぶりだったのである。当然、会えなかった時間を埋めようとするわけだが、その日は流される訳にはいかなかった。何としてでも奴を岩井さんに集中させたかった。時間を埋めたい彼氏VS気を逸らせたい彼女の構図が出来上がってしまった。

先ずは私が先手を取った。奴が足蹴にしようとしたバックの中には昨晩から一生懸命に準備していた奴の好物がたっぷり入っていたのだ。ケーキもミートソースも、私の痛々しい愛の結晶である。何とかして奴をトイレに押し込み、その間に冷蔵庫に素早く食材を入れた。そして何食わぬ顔で相席食堂を流し始めたのだ。

ここまでは私の勝ちだった。
しかし、奴も強かった。岩井さんが牡蠣を食っているというのに見向きもせず、気色悪いフェザータッチをかましてくる。

ほら、岩井さんが船に乗ってわかめしゃぶしゃぶしてるよ?面白いよ?みろよ!と言いたくなる口を必死に塞ぎ、何とか抵抗を試みた。

が、こういう時、男という生き物はゴリラである。何なんだその力強さは。何故今発揮するのだ。

私の目論見は崩れ去り、ベッドに雪崩れ込んだ。

こいつは、私が何時間かけてベストオブ顔面を制作し、何時間かけて冷蔵庫の中の料理たちの下拵えを終え、何時間かけて会いにきたのか、全く知らない。そうだよ。私が全部勝手にやってる事だよ。でも、意気揚々とひらひらふわふわした服を着て、1ヶ月前から用意していたプレゼントを手にやってきた私はなんなのだ。わたしはわたしの最高フェイスでおめでとうと言って、微笑みたかったし、一番良いタイミングでお料理を食わせたかった。その後で思いきり君が好きだと伝えたかった。ちくしょう。

ぶーーーーーんと、テレビから岩井さんがヘリに乗ったらしき音が聞こえた。

私は愛すべき男を前に、岩井さんの事を考え始めた。目の前にいるのが岩井さんだったら、何そんなひらひらしてんの?とか、ドーラン塗りすぎじゃない?とか。なんかしら面白いこと言ってくれたのではないだろうか。痛いわーお前とか言って、私の馬鹿馬鹿しさを認めてくれたのではないだろうか。

知っているだろうか。私と奴は何一つお揃いのものを所有していないが、岩井さんとわたしは同じtシャツを持っているのだ。ふははは。なんと、我々は気軽にペアルックができてしまうのだ。

精神的距離はわたしと奴より岩井さんとわたしの方が近いのではないだろうか。そんなアドベンチャーな妄想の中で無理矢理岩井さんを自分のパートナーに仕立て上げてしまった事がある。

本当に申し訳ない。
できれば忘れたい。

それでも岩井さんの顔を見るたび、わたしはあの日の悔しい自分のことを思い出してしまう。

彼とは別れたが、岩井さんとオソロのtシャツは未だにたんすの中に眠っている。


オモロイ人生を生きよ

岩井さんはエッセイの中でなんでもない日常の風景を面白おかしく語る。私のなんでもない日常も、こんな風に着眼点を変えれば面白おかしくできるのだ。私の人生にも事件は起きない。しかし、そんな人生も決して悪くはない。私自身で面白さを創造すればよい。ただそれだけのことなのだ。

最後にエッセイの中でもとびきり面白く、ゾッとするワードを紹介しよう。

澤部は 空洞である

この言葉の意味が知りたい方は、ぜひ、エッセイ、僕の人生には事件が起きないを購入し、岩井ワールドを存分に味わって頂きたい。


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