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霊界ラジオ(カルマティックあげるよ ♯129)

ボソボソッ、ボソボソッ…。
人の喋り声が聞こえる。
喋り声とわかっても内容は聞き取れないほどのボリューム。

今日は珍しく隣が騒がしい。
いや、小声だから騒がしいわけではないか。
このはっきりしない篭った話声。
いずいというか、なんというか。
でも、気にも止めるまでもないかもしれない。
隣の部屋がヤンキーの溜まり場となって、毎日騒音に悩まされたあの日々を思い出せばたかがしれていたし、おそらく一過性のものだと思った。
しかし、それが早朝から夕方まで延々と一定のトーンで続くと別な意味で異常な感じがした。

隣、大丈夫か?
失礼ながら気になって、壁に耳を当ててみる。

…なにも聞こえない…。
壁の向こうではない…。
では、いったいこの喋り声の発生源は?

耳を澄ます、神経を研ぎ澄ます。

ヒソヒソヒソヒソヒソ…。

すぐ近くから聞こえる…。
部屋の中だ…。


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ベッドの下に置かれた一台のラジカセからだった。
もともと音質は良くなかったが、アンテナが折れてしまって以降はラジオの電波受信もままならなかったので使わなくなったラジカセ。
ただカセットテープの機能があったので捨てるのをためらっていたラジカセ。
それからラジオのようなものが流れている。
なんだ!朝からの声の正体はこれだったか!
きっと足かなんかが当たった弾みで押ささったのだろう。

カチッ!

電源ボタンを押すと、朝から隣人の会話だと思っていた喋り声はピタリと止まった。
あっけなく解決した。
こんなことなら、もっと早く探しておけばよかった。
騒音としてはたかが知れていたが、不快は不快だったから。

いつの間にか陽は落ち、気を取り直してテレビを観ながら、夕飯を食べていると、

ボソボソッ、ボソボソッ…

とテレビの音に紛れて再び喋り声がかすかに聴こえた気がした。
テレビを消してみる。
ベッドの下からだ。
またあのラジカセからだ。
ラジカセに歩み寄る。

ヒソヒソヒソヒソヒソ…。

やはり電源ランプが光っていて、聞き取れないほどの話声が流れていた。

おかしいな。
さっき押したときは確かに電源はオフになっていた。
それに、それからは近寄ってすらいない。
そもそも手動タイプのラジカセだから遠隔操作はできないし、リモコンすら存在しない。

いつ、なんの弾みで電源ボタンが押ささったのか?
ボタンが、壊れているのかな?
電源ボタンを押してみる。
勝手に動くことはなさそうな確かな弾力。
カチッ!
そしてやはり音は止んだ。

では、どうやって電源がついたのか?
その瞬間を拝見したい。
としばらく伺うが、眺めていても一向にラジオが三度なりはじめる様子がない。
今度は逆にラジオをつけてみる。

あれ?電源ランプがつかない…。
やっぱりおかしい…。

と確認のためにラジカセ本体をよいしょと持ち上げる。
その瞬間、だらんと垂れる電源コード。

あれれ?そもそもコンセント入ってないじゃん…。

そりゃそうだ。
何年も放置されていたわけで、良く考えればコンセントを常時つないでるわけがない…。

嫌な予感がして裏面の蓋を開けてみる。

電池も入ってないじゃん…。

原因は不明。
怪異に認定。
私は気味が悪くなって反射的にアパートのゴミ捨て場へと向かった。

翌朝、ちゃんと業者が持って行ってくれたかどうかが気になってゴミ捨て場を早速確かめる。
ちょうど電化製品ゴミの収集日だったので、ラジカセは既に無かった。

よかった。
…いや、ちょっと待てよ。

ほっとしたのもつかの間、ひとつの疑問が浮かんだ。
あの喋り声をよく聞いてみるべきだったかもしれない。
固定概念でラジオ番組だと勝手に思っていたけれど、その確認はしていない。
ほんとはいったいなにが流れていたんだろか?
あれは死者…霊界からの喋り声だったかもしれない。
だとするとエジソン、丹波哲郎が開発しようとした霊界通信機的なレアアイテムだぞあれは…。
非常に惜しいことをしてしまったかもしれない。
と確証のない憶測だけで何故かこみ上げる後悔の念。
もう確かめようがない。
今は収集車の中でひとりごとのようにヒソヒソとなり続けているのだろうか?

それにしてもまたまた不思議な体験をしたもんだ。
私の不思議体験アンビリバボーはまだまだ続くのであった。


文・挿絵:ETSU
目次→https://note.com/maybecucumbers/n/n99c3f3e24eb0

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