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ビデオ通話

19時になると始まるグループ通話。
メンバーはいつも同じで、アイ・シオリ・ヤヨイ・私の4人。
毎日学校でも一緒にいるというのに、寂しがり屋なヤヨイから毎晩のようにビデオ通話の招待がくる。

その日も、ヤヨイから招待が届いた。
パソコンでビデオ通話に参加した私。
参加ボタンを押すと画面が分割されて、3人の顔が表示された。
私はいつも最後。
時間はいつも決まっているけれど、勉強をしたり音楽を聴いたりしているうちに時間が過ぎてしまい、いつもヤヨイの催促で気づくのだった。
 
アイもシオリも自分の部屋にいるようで、可愛い部屋着姿でのんびり過ごしているようだった。
アイは爪のお手入れをしている様子。シオリは雑誌を読んでいるようだった。

 そんな中、ヤヨイの画面だけがやけに上下に揺れていた。
聞けば、ヤヨイはデートの帰り道。
彼と駅で別れて、今は歩いて自宅に帰っている途中だという。
ヤヨイの背景は、時々街灯の明かりが映るだけで真っ暗だった。
なのに、ヤヨイはずっとカメラに目を向けたまま話をして歩いていた。

夢中になると周りが見えなくなる子で、以前もスマホに夢中で電柱にぶつかっていた。
痛いと言いながらも、ヘラヘラと笑っていたヤヨイ。
私の方が恥ずかしかった。

 私はヤヨイに、「ちゃんと前見て歩きな」と注意した。
けれど、ヤヨイは「わかってるって」と笑っているだけで変わらず、その後もカメラばかりを見て歩いていた。

ヤヨイの話はいつも彼氏とのお惚気話と愚痴。
そんな話を、私たちはいい加減に聞いていた。

少しして私たちが他愛ない話をしていると、突然ヤヨイの音声から誰かとぶつかったような音と短い悲鳴が聞こえ、スマホを落としたのか画面が真っ暗になった。
ガサガサというノイズの中で、「すみません。……え?」というヤヨイの声が小さく聞こえた。
真っ暗な画面で状況がわからない私たちは、「大丈夫?」と心配をして声をかけた。

すると、画面は道路からヤヨイの洋服に移り、そして怪訝な表情で周りを見渡しているヤヨイが映った。

「何かあった?」
そう尋ねると、ヤヨイは「誰かとぶつかってスマホ落とした」と言った。

「ちゃんと前を見ないから」
シオリが茶化した。
いつもなら言い返すヤヨイだが、何か納得がいかない様子で周りをずっと見ていた。

そんなヤヨイを見て、私たちは戸惑ってしまった。

「大丈夫?」

そう尋ねると、ヤヨイは「誰かとぶつかったのに、誰もいないの」と言った。

「気のせいじゃないの?」
「電柱にぶつかったとか?」
「おっちょこちょいにも程があるよ」
とアイとシオリが笑った。
「違う、絶対に誰かとぶつかった。感触は残ってる」
動揺するヤヨイに、私は「早く家に帰りな」と言った。

確かにヤヨイがスマホを落とす前、私の耳にも誰かとぶつかったような音が聞こえた。
 
ヤヨイは「うん」と頷いて歩き出した。

「あー、最悪」
そう言いながら、ヤヨイが手でスマホの画面を拭うような仕草をする。

その度に私たちが見ている画面が真っ暗になった。

「スマホにヒビが入った。買ったばかりなのについてない」
画面にヤヨイの怒りと悲しみが入り交じったような顔が映り、また画面が上下に揺れ始めた。
 
不満げなヤヨイをよそに、アイとシオリが流行りのアクセサリーの話をし始めた。

その時だった。
ヤヨイの背後に、一瞬何かが映り込んだように見えた。
けれど、それに気づいたのは私だけのようで、誰も指摘はしなかった。

何より、ヤヨイ自身が気づいていない様子だった。
「(見間違いかな?)」
そう思っていたが、それはヤヨイの肩の辺りに何度も映り込んだ。
 

そのうちアイとシオリも気付き始めたのか、怪訝な表情を浮かべるようになった。
ヤヨイだけが、何も気づかないままだった。

「あのさ……、ヤヨイ。さっきから気になっていたんだけど」

シオリがそう言いかけた時、不意にヤヨイの背後に無精ひげを生やした男性らしき鼻と口元が映り込んだ。
「え……」
戸惑う私たちを嘲笑うかのように、それはニッカリと歯を見せて笑った。

私たち三人は同時に悲鳴をあげた。

「ヤヨイ!!!うしろ!」

私は叫んだ。

「え、何?何?」

ヤヨイはパニックになりながら振り返ったが、すぐにこちらに顔を向きなおした。
 
「やめてよ。誰もいないよ。驚かせないで」。

「ヤヨイの背後に変な男がいたって!」

ヤヨイは周りを気にしながらも、

「誰もいないよ。ほら」

とスマホのカメラを外側に向けた。
映るのは暗い夜道にぼんやり灯る街灯とブロック塀。

塀の向こうにある民家はどれも電気が消えている。
ヤヨイはカメラを360度映していたが、そこには誰も映ってはいなかった。

確かに私たちは、ヤヨイの背後で歯を見せて笑う男らしき顔を見たというのに。

けれど、「もう怖いからやめてよ」と泣きだしそうな顔で訴えるヤヨイに、それ以上の詮索は出来なかった。


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