【怖い商店街の話】 カラオケボックス
同級生の松嶋さんは、カラオケが大好きな子だった。
将来歌手を目指しているらしく、暇さえあればカラオケに行くそうだ。
放課後の廊下後で、友人にしつこく「カラオケ行かない?」と誘っている姿をよく見かけた。
私も前に誘われたことがあるが、彼女はマイクを握ったら離さないタイプなので、なかなかこちらが歌うことが出来ない。
そのせいで前に喧嘩になったようで、彼女とカラオケに行く人は少ない。
彼女には行きつけのカラオケボックスがあった。
近所にある商店街にある一階が薬局屋になっていて、二階がカラオケボックスになっている。
三部屋ほどしかない、とても小さなカラオケボックス。
彼女は週に何度もそこに通っているという。
特に水曜日は学校が早く終わることもあって、毎週彼女の姿を見かける。
見かけるというのは、何も私もそこに通っているからとかではな。
そのカラオケボックス、三部屋ある内の二部屋が商店街に面していて、その面がガラスになっている。
もちろん丸見えにならないように、中央には模様のシールが貼られている。
けれど、立って歌うと模様シールからはみ出し、外から顔が見えてしまうのだ。
そのことを知ってか知らずか、彼女は決まって右側の部屋で立って歌っていた。
ある時、私は友人と商店街の本屋に行った帰り、薬局屋の前を通りかかった。
ふと、友人が二階のカラオケボックスを指差して笑った。
「松嶋さん、今日も歌ってる」
見上げると、そこには窓際で歌う松嶋さんの顔が見えた。
彼女はノリノリで歌っている様子だった。
ふと彼女の隣を見れば、男性の姿があった。
その男性は身長が高くて、私には年上のように見えた。
「彼氏かな?」
「さぁ?」
男性は彼女のことをじっと見つめ、彼女の歌を聴いている。
その間、男性は盛り上げているのか、ずっと体を左右に揺らしているようだった。
「松嶋さんって、年上がタイプだったんだね」
そんなことを二人で言いながら、私たちは通り過ぎた。
次の日、学校の廊下でちょうど松嶋さんとすれ違った時に私は声をかけた。
「松嶋さんって、よく商店街のカラオケボックスで歌ってるよね。昨日も見かけたよ」
松嶋さんは少し驚いた様子で、でも照れながら頷いた。
「隣にいた男性って、松嶋さんの彼氏? すごく楽しそうだったけど」
私がそう言うと、松嶋さんの表情が一変した。
「え、なに言ってるの? 私、一人だったけど」
「またまた~。松嶋さんの隣にいたじゃん。年上の男の人」
「やめてよ!!変なこと言わないで!!」
松嶋さんは激怒しながら走り去ってしまった。
私は戸惑っていた。
だってあの時、たしかに私も友人も松嶋さんの隣にいる男性を見た。
松嶋さんをじっと見つめながら、ゆらゆらと体を振り子のように揺らす姿を。
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