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トム・クルーズという俳優の生き方【映画『トップガン マーヴェリック』を観て】

人生で初めて映画館で同じ映画を4回見た。
こんな経験、初めてである。

正直鑑賞前はよくあるアクション映画の1つだと思ってたし、全くと言っていいほど期待はしていなかった。
大体、「続編」というのは悪く言えば「2番煎じ」のイメージしか私にはなく、『トップガン』で言えば1作目からかなり年月を経ているからこそ、今更感もあり、SNSで話題になっていなければ見にいこうだなんて思わなかっただろう。

それなのに、だ。
「これだから映画は最高だ」と鑑賞後に感慨に耽ることになるだなんて。

誰かに伝えたいなんて、今まで思ったことはほとんどなかったんですが、せっかくなので考察や感想まとめてみることにしました。

以下、ネタバレ注意です。

前段として。まず、1作目の『トップガン』を見た。

せっかく続編を見に行くなら1作目も見といた方がいいよね、と思い、アマプラで配信されていたものを見た。

トム・クルーズの作品は親の影響で『ミッション:インポッシブルシリーズ』はそれなりに見てきたし、『ラストサムライ』や『宇宙戦争』は見ていたが、『トップガン』は名前も聞いたこともなかった。
とりあえず鑑賞前にネットで検索してみたが、評価も高いらしい。まあそれならね…と言う感じだった。

結論としては、めちゃくちゃ面白かったし、めちゃくちゃ内容はベタだと思ったし、めちゃくちゃトム・クルーズは若くてカッコよくて可愛かった。
冒頭の「トップガン」のロゴがドーンと出てくるところからもうなんか狙ってるだろと思ったし、発艦シーンのデッキクルーの映像で完全にこの映画に落とされてしまった。

正体不明機に遭遇、からのトップレベルの実力を持つライバル達が集う「トップガン」へ派遣され、そこで謎の美人に一目惚れするがあしらわれる…なぜなら彼女はトップガンの「教官」だったのだ…さらに冷静沈着なライバルとも切磋琢磨していくうちに主人公も成長していき…という、何とも少年漫画的なストーリー構成。

そして若かりしトム・クルーズが本当にかっこいいんだけど、それ以上に可愛くてびっくりした。声も若くて、まだ映画で喋り慣れてなさそうな感じ。

加えて、映像については1986年によくこんな絵が撮れたなと思い、素直に驚いた。
流石に空中戦がちょっと見にくかったが、それでもあの時代にこの映画を見た人の興奮を考えると、やはり革新的な映画だったんだろうと思う。

そして、『トップガン マーヴェリック』へ。

映画館が暗くなり、『トップガン』と同じようにメインテーマ曲が流れ「トップガン(マーヴェリック)」のロゴがドーンと出る。
もう既にこれだけで泣きそうになってしまったが、当然こんなものでは終わらない。

冒頭の発艦シーンから前作のリスペクトが滲み出ており、テンションが爆上がりしていく。
デッキクルーのポーズ、最高。
しっかり『Danger Zone』も流れてくれた。

もうこの時点で、「あ、これはちゃんと本気で作ってくれてるな」と思い始める。それぐらい冒頭から絵作りと音の圧が"ガチ"だと思った。

ストーリーはやっぱりベタ。 だけど、それでも。

SNSの感想にもよく見られたことだが、『トップガン マーヴェリック』のストーリーに意外性はおそらくほとんどない。
これは1作目もそうだったが、鑑賞中にほとんどストーリーを予想できる。

マーヴェリックはペニーとなんだかんだ言いつつやっぱりくっつくし、サイクロンはなんだかんだ言いつつマーヴェリックを起用するし、マーヴェリックとルースターはなんだかんだすれ違うがそれでも最後は思いをぶつけ合うし、ハングマンは美味しいところを持っていく。

そう、本当に意外性はないし、言ってしまえばラストの方は「そんな上手くいく?」という流れもある。だが、それに対し、何ら違和感を感じなかった。

それはおそらく私自身がこの作品をしっかりと「映画」であると認識した上で、鑑賞していたからだと思う。というか、ここまで「映画(フィクション)」であることを認識させてくる映画も珍しいのではないかとさえ思う。
だって、「ならずもの国家の核(だったかな?)保有施設」なんてベタな設定、現実ならあり得ないはずだ。それを戦闘機でなくては壊せない…というのも言ってしまえば都合が良すぎる

「映画」というフィクションの世界だからこそ成り立っていると思う。

しかし、そんな「あり得ない」ストーリーでも、「映画」であることを認識しながらでも、心を動かされたのは、ストーリー以外の部分、特に「絵」、映画の中の数々のワンシーンに魅力を感じることができたからだと思う。

映画にとって大切なもの

私は宮崎駿の映画が好きだが、彼の作る映画も一部を除いてはストーリーはかなりベタだ(特にラピュタなんてめちゃくちゃベタだと思う)。
しかし、それでも多いに感動させられるのは、やはり彼の「絵」に魅力を感じるからだし、その「絵」を通してパズーを始めとしたキャラクター達の感情に共感するからだと思う。
ストーリー、もとい脚本がすばらしい作品もたくさんある。意外性を持ったストーリーになっているものや、どんでん返しを行い観客を唸らせる作品も。

しかし、映画の本質的な力を発揮する部分は、やはり「絵」、「ワンシーン」を切り取った時に魅力的に映るかどうかなのではないかと思う。

今回の『トップガン マーヴェリック』はそういう魅力的なワンシーンがたくさんあった。
例えば、ダークスターが朝焼けを迎え、空を横切るシーン。マーヴェリックがバイクに乗り戦闘機の横を駆け抜けるシーン。マーヴェリックが空母で海を眺めるシーン…。

印象に残っているワンシーンが多すぎて挙げればキリがないし、鑑賞した人それぞれが、印象に残っているシーンが異なるのではないか。
それこそが、この映画が多くの人の心を揺さぶっている理由の一つなのではないかと思う。

マーヴェリックというキャラクターについて

4回も見ながらまだよくわかっていな部分も多いが、彼は「失うことを恐れている人」であり、同時に「何も持っていないからこそ、何を失ってもいいと思っている人」なのだと思う。

失うことを恐れているからこそ、誰とも結婚しないし、子供もいないし、僚機も作らない。

それは父親を亡くしたこと、グースを亡くしたことが原因であり、大切な人を失う悲しさを知っているからこそ、相手にその悲しさを感じてほしくないと強く思っているのではないか。

だって、きっと自分(マーヴェリック)は空の上でしか生きられないし、空の上で死ぬ身だから。だから、マッハ10を越えようだなんて無茶をするし、どんな無謀なミッションにも自分から進んで取り組もうとする

だけど、それって逃げてるだけじゃないの? 
大切な人の元に必ず帰る、その覚悟ができてないだけ、怖いだけじゃないの?


その疑問をルースターはマーヴェリックにぶつけた。ぶつけてくれた。

「自分が死んでも悲しむ人間がいないから、死ぬ覚悟で飛べる」
一見カッコよく見える生き方だけど、それって正しいの?
「1人で飛んだ方が、生きた方が怖くないから」
マーヴェリックと私の人生は全然違うけど、私自身の生き方に重なったようにも思えた。 


でも、マーヴェリックの周りには、マーヴェリックを必要とする人が、マーヴェリックに生きてほしいと願う人がたくさんいる。

「自分は海軍に必要ではない」というマーヴェリックに対して「君が必要だ」と話すアイスマン。

 発艦前「ありがとう」と話すマーヴェリックに対して「あなたと一緒にいれて光栄だと」と話すホンドー。

「なんで逃げなかった」と叫ぶマーヴェリックに対して「考えるなと言っただろ」と叫ぶルースター。

そして、ペニーとマーヴェリックの間に明確な会話はなかったけど、発艦前、海で抱き合うシーンは、おそらく「必ず帰ってきて」という意味を持つものだったんだと思う。

バーに来たマーヴェリックの姿が私には亡霊、死装束を来た人のように見えたが、ペニーを抱き返す際のその表情は、失うことへの恐怖と自分を待つ人を作る覚悟を受けれようとしているものだったのではないか。

だからこそ、ルースターと“2人“で飛ぶシーンがもたらす意味。

当初のマーヴェリックはルースターを助けたいという思いだけだったのかもしれない。
いや、もはやルースターを助けるためなら自分は死んでもいいとすら思っていたはずだ。

それでも、ルースターはマーヴェリックを”1人“にはしない。

「俺がいなきゃ飛ぶのか?」
「そうじゃないだろ」
「俺(マーヴェリック)を信じろって言うんなら、あんただって俺(ルースター)を信じて飛べよ」

そんな意味が込められていたんじゃないか。

あのシーンでマーヴェリックは誰かと一緒に飛ぶ、つまり、生きる覚悟を決めることができたのではないか。

さらに、ラストシーン。
ペニーと“2人“で飛ぶシーンの意味がもたらす意味。近くにはアメリアやルースターという存在もいる。
ここで私はアイスマンの言葉を思い出した。

「過去は水に流せ」
一見“過去を忘れろ“、という意味にも取れなくないが、おそらくアイスマンが言いたかったのはもっと違う意味で。

「失ったものばかり考えなくていい」
「忘れることはできないだろう。だけど、君が大切に思う人が今、君のそばにいるんじゃないのか?」
そう言ってくれているように思えた。

重なるトム・クルーズという俳優の生き方について

また、私はこの映画のほとんどのシーンに「マーヴェリック」と「映画俳優としてのトム・クルーズ」を重ねてしまった。

例えば、数々のマーヴェリックの無謀とも思える行動は、トム・クルーズの様々な映画におけるスタント無しのアクションに重なって見えた。
周りは「もう若くないんだしさ…」と止めたくなることもあるが、彼自身はそれを自分の生き方として認めている。もう還暦近いのに、だ。

そして、それは今回の映画のストーリーにも現れているように思えた。

サイクロンやウォーロックのようにある程度の経験を積んだもの…もとい、”現役”ではなくなったものは、中将や少将として指導や指揮の立場につく。
それは、おそらく映画俳優としても同じで、年を重ねれば、若い頃の役柄と同じようにアクションをこなすわけにはいかないのが普通である。
また役の立場としても年を重ねれば、「息子」や「20代の若者」から「親」や「老人」に変わっていくし、ある程度”脇役”になると思う。

だがトム・クルーズはそれを知った上で、”現役”であろうとする。
“現役”であることが、映画の主人公としてアクションを自ら行うことが自分の生き方であり、自分そのものであるとしているのではないだろうか。
マーヴェリックが「パイロット(戦闘機乗り)」という職業を「職業ではない」「自分そのものだ」と表現したように。

それゆえに、マーヴェリックは「自分は(ルースターに)教えることはできない」「ルースターにミッションは無理だ」とアイスマンに零す。
ここも映画俳優としてのトム・クルーズが重なって見えた。

自分自身はアクションをこなし、演じることはできても、誰かに教えたりはできないし、若い俳優の子達が自分と同じように演じるのは無理なのではないか、と。(あの涙はトム・クルーズの映画俳優としての葛藤が現れているようにも見えた)

しかし、アイスマン、ヴァル・キルマーはそれに対し、「教えてやればいい」「時間はある」と諭す。
そして、「過去は水に流せ」とも。

ここが今回の映画で一番私の涙腺にキた部分だった。

だって、アイスマンはもう、飛べないのだ。
ヴァル・キルマーはもう、以前のようには声が出せないのだ。

マーヴェリックのようには飛べない。
トム・クルーズのようには演じることができないのだ。

だからこそ、「教えてやればいい」「過去は水に流せ」というアイスマンの言葉が響く。

「自分はもう過去のようには演じることはできないが、新しい子たちがいるだろう?」
「一緒に演じてみればいい、教えることだってできるはずだ」
そう言っているように聞こえた。

「時間はある」とアイスマンは、ヴァル・キルマーは微笑んだ。
あの時既に彼は自分の死まで時間がないことをわかっていただろうに。
それでも、マーヴェリックの背中を押してくれたのだ。

私はトム・クルーズが今回この『トップガン マーヴェリック』という映画に出演してくれて本当によかったと心の底から思っている。

彼が本当に、自分自身の意志で、俳優を続けたくて映画に出演しているのだということを、彼の演技を通して感じることができたのが本当に嬉しかった。

特に、トップガン派遣を命じられた後、バイクに跨り戦闘機の隣を駆けるシーンのトム・クルーズの笑顔で涙が止まらなくなった。

あの笑顔は、「トップガンという現役のパイロットの最高峰が集う場所に自分もまた行くことができる」つまり「また自分は映画俳優として空を飛べる、演じることができる」という喜びを心の底から感じてなければできないものだっただろう。

その他、細かい部分について

あまりにこの映画への熱い思いが多すぎて、書き終わらないことに気づいたため、その他鑑賞していて気づいたことについて、つらつらと。

・ジョセフ・コシンスキー監督の映画を鑑賞するのは初めてだったけど、めちゃくちゃ絵作りが上手い。冒頭の発艦シーンもそうだけど、特にペニーの経営する飲み屋でキャラクターが変わるがわる映されるところとか飽きさせない工夫をしながら、ちゃんと全体がわかるように計算された映し方をしている。

・キャラクター1人の1人の立て方が超上手い。『トップガン』の時は、パイロット勢の中でマーヴェリック以外だと「アイスマン」「グース」ぐらいしか認識できていなかったけど、今回はスポットを当てる人数を増やしながらそれぞれ印象的な場面やセリフを作り上げて、それでも話がマーヴェリック主体で進むようにしていた。

・役者さんのキャラクターの解像度がとても高い。ハングマンで言えば、能力は高いが高飛車で…という一見嫌わそうなキャラクターなのに、きちんと相手を評価できる、努力する、周りをよく見ている…という細かい部分で「ムカつくことも言うけど憎めない奴」という補完をうまいことしている。そしてそれを可能にしている役者さんの演技。

・キャラクターについて語りすぎていないところが良い。観客に想像させる余白をもたらしている。(最近の映画だと『パワー・オブ・ザ・ドック』や『ドライブマイカー』がそういう演出の仕方をしていたかな?)

・映画の中での静と動のバランスの取り方が上手い。飽きさせないようアクションシーンも多く確保しながら、アクションシーンが観客の心に響くよう会話劇もきちんと見せている。

・言うまでもないけど、ハンス・ジマーの音楽良すぎ。

・レディーガガ様の主題歌も良すぎ。

とにかく見てほしい!

色々書きましたが、とにかく言いたいこととしては「いい映画」であるということ、それだけです。

多分そろそろ映画館での公開は終わってしまうんでしょうし、映画館で見ていただくのが一番なんですが、もうなんでもいいから、1回見てほしい。

きっと、あなたの心に響く何かがある。
それぐらい、様々な人の魂が込められた映画だと思う。


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